建築分野でドローン技術の普及が期待されている。災害対応や輸送などさまざまな用途での活用が検討される中、最も期待できるのが建物の点検用途であり、近年、橋梁などインフラの現場で導入が進んでいる。

だだし、インフラ設備とは立地環境が異なる人口密集地区の活用にはいまだ課題が多い。そのような中、社会実装に向けて、建築研究所、西武建設、日本ツーバイフォー建築協会は3月17日、東京の中野サンプラザでドローンによる点検調査実験を行った。

ライン式、正対・同距離を保つ

実験では、中野サンプラザの外壁をドローンによる調査を実施し、ドローンが上下にカメラで撮影しながら一定速度で移動した。

今回使用したのはラインガイド式ドローンと呼ばれるもので、ドローンをラインで係留し、ドローンが電波異常などで操作不能に陥ることによる事故を防ぐ検査方法。屋上からブラケットと称する釣り竿のようなものでラインを張り、ドローンに取り付けた筒状の治具にラインを通す。

ドローンを係留して飛行させるため安全性や精度、効率性に優れる。そもそも都市部のビルではGPSなどの電波異常やビル風の影響、人通りの多さなどドローン飛行に課題が多くある。

そこでラインガイド式ドローンの活用が期待されている。都市部でのドローンの活用は、安全性の確保が障壁となり普及を妨げてきたが、今回の実験により点検調査への活用が実証されることで普及の促進が期待される。都市部での社会実装は国内初という。

操作は地上にいるパイロットが行った。ドローンはGPSによる位置情報が安定飛行の強みとなっているが、今回は電波状況が悪くGPSが効いていない状態での飛行のため操縦者の技量が求められた。

ドローンは上昇しながら搭載されたカメラにより2秒に1枚のペースで撮影し、その画像は地上のテレビモニターに写し出された。建物からは約3m離れた距離を維持して移動した。

高層建物の外壁診断に期待

今回の実験はドローンを係留することによる安全性や精度、効率性などを検証するもので、点検の精度を求めるものではないためクラック診断などは行わなかった。つまり、ドローンの仕様や性能によっては赤外線カメラによる外壁診断も可能となる。実用化として、大規模修繕の事前調査などでの活用が想定される。

建築研究所の宮内博之氏は「人口集中地区なおかつ100m級の高層ビルの外壁点検をドローンによって社会実装することが今回の目的。狭いスペースやGPSが効かない状況では、通常のドローンでは不可能であると考えている。インフラ点検では盛んに研究などが行われているが、これまで近距離かつ100mの高さまで安定的にドローンを飛ばせる技術がなかった。人口集中地区で飛ばすのは難易度が高く、どんなに精度が優れていても100%墜落しないとは言えない。その中でラインガイド式ドローンを提案していきたい」との意向を示した。

今回実験を行ったラインガイド式ドローンは西武建設での実用化が予定されており、今後は同社以外の建物においても展開を見据えている。