関西ペイントと関西ペイント販売は10月3日、同社尼崎事業所内に構える自動車補修研修センター「ARC（オートリフィニッシュセンター）西日本」をリニューアルした。新センターでは大型特注ブースを導入し、多人数での研修に対応する他、VR塗装シミュレーターを新たに導入。顧客工場の実態に即した技術サポートで水性化導入を支援する一方、人材育成や法令対応など顧客の経営課題の解決に寄与する提案型施設としての活用を目指す。
ARC西日本は、尼崎事業所内に設置する6階建て建屋で研修施設は1階と2階。1階は塗装ブースを配備した塗装研修スペース、2階は講義室、VR塗装シミュレーター室、オンライン配信ルーム、調色室を設置した。正面玄関には、ウェルカムボードとして活用できるディスプレイを設けた他、壁面に「アレスシックイ」を塗装し、明るく柔らかい雰囲気に仕上げた。
1階の塗装研修スペースは、全面LEDを採用し、ブースは大型上下プッシュプル換気装置を搭載し、温湿度調整を可能にするアンデックス製「CAB-747」の特注仕様を導入した。ブースサイズは幅8m×奥行き7m×高さ3.85m。トラックなど大型車両の対応を可能にする他、カーテンでブース内を2分割することが可能。更にカーテンレール本体を可動式にしたことで、ワークサイズや作業人数によって作業スペースを自在に変えられるようにした。ブース内は最大6名を想定。これにより2班での研修が可能となり、研修作業の効率化に寄与する。一方、作業スペースは3連パネルヒーター6機、リールコード8機×2列の計16機を完備する。
2階は、遠隔研修を可能にしたオンライン配信ルーム（Studio）を新たに設置。「距離、時間、場所の制約を受けない非接触の研修を可能にする」（担当者）とコロナ禍で利用に弾みをつけており、聞きづらさの原因となる反響音を抑えるため防音仕様を施した。
また今回のリニューアル最大の目玉となるのが、業界初となるVR塗装シミュレーターの導入。「塗装（技能）を数値化することが可能となり、受講者の得意、不得意を明確にできる」と説明。技能の"見える化"を可能にするとともに、塗料を使わずにトレーニングできる点もメリットに挙げる。
採用したのは、米国「Sim Spray」の新機種。「詳細な設定ができ、実塗装とそん色ない性能が採用の決め手になった」と話す。
使い方は、使用者が専用のARゴーグルとガンを装着し、車両の種類（乗用車、大型車両、鉄道車両など）、パーツ、塗装環境（工場、ブースなど）、ガン種類を選択し、バーチャル上で塗装。ガン距離や塗装軌道、速度、角度、伝達効率、時間、塗布量などのデータを計測することができる。また塗装の様子は常時モニターに映し出され、塗布量の多少や透け、タレといった仕上がり状況を判別することができる。
塗装研修から経営支援へ
今回、同社が大型ブースやVR塗装シミュレーターをはじめ、大型投資に踏み切った背景には、研修センターを単なる塗装研修の場ではなく、顧客の経営課題をサポートする提案型施設をコンセプトに据えたことが大きい。
同社自動車補修塗料統括部・中里正康統括部長は「やさしい、簡単、綺麗でかつ長持ちする製品づくりに加えて、これからは環境配慮や作業者の健康維持への対応が重要になる」と説明。環境法令対応や生産性向上といった塗装の改善提案に加え、人材確保や育成、やりがい、働き方改革に及ぶ職場の活性化に寄与する方向を目指す。
その施策の中核に据えるのが、水性塗料の導入支援。水性プラサフ、水性クリヤーを加えたオール有規則フリーシステムの構築を契機に、工場の活性化と持続的成長に寄与する方策として水性導入の提案を強めている。
しかし、現実は水性化の動きは鈍い。自動車メーカーの施策でディーラー系を中心に水性導入が進むものの、自動車補修用塗料の水性化率は約7％（日塗工調べ）。新車用の61.9％と比べても大きく下回っており、「溶剤並みの作業効率が得られない」「コストが上がる」「投資余力がない」などが普及を難しくしている。
こうした状況に対し、同社は立地や作業環境など顧客工場の実態に即した技術支援が水性導入に不可欠と判断。大型ブースやVR塗装シミュレーターの設備投資に踏み切ることで、塗装技能を主体とした水性導入実現、人材の早期育成を見据えている。
ARC西日本の研修は今月19日から開始。コースは定型コース（塗装・調色基礎、塗装基礎、調色基礎、調色ステップアップ、下地）とオプショナルコース（レタンWBエコ EV基礎、レタンWBエコ EV導入実践、販売店ステップ、技能検定対応）の2コースを設定。その他、オンライン研修、AIカラーセンサー習得、環境改善（オール水性有機則フリーシステム）、VR塗装シミュレーターを活用した人材育成、工程改善などの講座も順次実施する。
