イギリス生まれの"デコラバー"に照準

世界のデコラバーの注目を集める132色のカラーパレット。高価だが価値あるペイントカラーの世界でグローバルマーケットで独自の存在感を高めているイギリスのF&B(ファロー&ボール)のビジネススタイルはこれからの塗料事業の在り方を示唆する。来日したドンCEOは「常にデコラバー(Deco-lover)の心に届く販促をしていく」とポリシーを語る。田舎の小メーカーから出発し、色彩戦略でエッジの利いたグローバルメーカーの方向が鮮明になっている。


F&Bは1930年代にイギリスの田舎町であるウィンボーンで、ジョン・ファロー氏とリチャード・ボール氏によって創業されたローカル建築用塗料メーカー。90年代に入り大きく変身を果たす。色彩戦略を軸にプレミアムペイント事業にシフトしていく。当時、イギリスばかりでなく、世界各国で地球環境の危機が叫ばれ、ナショナルトラスト運動が盛り上がっていた。こうした背景の中でF&B社はイギリスの歴史的な建物に由来を持つアーカイブシリーズの色域を開発。132色のストーリーを持ったカラーパレットを創造する。例えばビクトリア朝時代のタペストリーからヒントを得たペイントカラーに物語性を付与して展開するなど、伝統色を再現した。

このため生産システムもあえて量産方式を否定したクラフトマン(職人)感覚を入れた少量生産に組み替える。品質管理を徹底するものの、数値化できない要素を職人の経験と勘でカバーする生産システムを確立。しかも塗料構成の平均30%が顔料成分という常識はずれのスペック。エマルション樹脂の成分を減らし、オーガニック成分の比率を高めることで独特の発色を引き出す。

当然、製造原価はアップする。価格設定はプレミアムペイントの水準。高価だが価値があるコンセプトに訴求した。同社のマーケティングでは客層を3タイプに分類し、インテリアの細部までこだわるデコラバー(Deco-lover)に焦点を合わせ、この層を引き付けることでマジョリティ(多数層)とコントラクター(建設関連業者)を包含していく展開に集中する。

ここでも汎用塗料のマーケティングとは真逆の戦略が注目される。量産によるコスト戦略でマジョリティ層をカバーするという方向ではなく、自分のライフスタイルにこだわり、インテリアアイテムの微妙な差異や質感に一家言を持つ客層に絞ったマーケット展開を進めていく。当然、サプライチェーンそのものも新たに創造しなくてはならない。

132色のプレミアムペイントとそれで型押して製造した壁紙を売るため、ショップ形態を独自にデザインする。店内ディスプレイひとつひとつにF&Bのカラーをにじませ、ショップはまるでブックストアのような雰囲気をかもし出す。つまり売り場全体でデコレーションアイデアを刺激するスタイルだ。色彩のエッジを鋭くしたインテリアスタイルはイギリスから欧州、北米へと広がりを見せる。

F&B国内代理店であるカラーワークス(秋山秀樹社長)などとの打ち合わせで来日したCEOのドン・ヘンシャル氏に聞いた。

----過去5年の業績は。

「海外展開もありほぼ2ケタ成長を続けています。欧州・北米も好調でF&B独自のポジションが明確となって、各国のデコラバーからの支持が広がりを見せています」

----デコラバーに絞った展開の狙いはどこにありますか。

「デコラバーのインテリア感度はとても高く、常に変化していますから、そこに合わせた商品づくり、販促をしていくことで、当社としても他社にはできない差別化ができるようになります。またデコラバーはマーケットの先端部分を動かすトレンドセッターの役割を担っていますから、マジョリティ層に加えコントラクターにも強い影響を与え購買層を広げます。それだけインパクトを持った層といえます」

----マーケティングの手法は。

「ソーシャルメディアを重視しています。当社では新規出店に関しては地域の人たちに集まっていただき、パーティーを開くなどして交流を行っています。特にデコラバーの人たちは自前のインテリアを自慢したがり、ソーシャルメディアにアップし拡散、F&Bのブランドの認知を浸透させます。当社のHPへのアクセスは1日10万を大幅に越えていますよ」

----アジア展開について。

「社内に専任者を置き、参入に向けた動きをはじめます。カラーワークスのような色彩事業に情熱を込めてくれるパートナーと組みたいですね」



CEOのドン氏と秋山夫妻
CEOのドン氏と秋山夫妻
F&Bの事業コンセプト
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