車体整備、目標は世界基準経営

次世代自動車技術に向け車体整備の立ち位置が変化してくることは確実だ。9割以上を事故需要に依存している現状は危機的な状況にある。エクセレント工場、そしてテュフ認証が勝ち残り条件といえるが、将来ビジョンは明確ではない。時代の先端を目指す世界基準の車体整備工場経営の核心を磯部理事長に聞いた。


----世界基準の車体整備工場経営をメインテーマに掲げています。

「次世代自動車技術の転換期に入っています。そこには2つの潮流があり、ひとつはEVシフト、もうひとつは自動運転技術です。2年前のBSサミット全国大会で申し上げましたが、IoT、すなわちすべてのものがインターネットとつながりを持つ時代が来る。予想を上回るスピードで現実化しつつあります。従って、従来の固定観念にとらわれていると、時代の変化を見誤ってしまいます」

----エクセレント工場を推進していますが、そのポイントはどこに。

「基準として主なものは作業品質に置いている他、資格、工場設備要件などで構成されています。そのベースにあるのがコンプライアンスです。VOC規制、CO2削減に加え、リスクアセスメントが加わり、世の中からBP工場の在り方に厳しい目が向けられていることを基本認識する必要があります。エクセレント工場はドイツの認証基準とオーバーラップする面が大きく、テュフのゴールドランク工場の認証を目標にしています。そこが世界基準のひとつの指標になると思います」

----テュフ認証取得は努力目標ですか。

「組合として推奨するという立場です。エクセレント工場に向けたステップを踏むことで自ずと見えてくる目標です。例えばアルミ車体修理への対応という課題もそこに含まれています。整備業界全体を見通しても世界基準の整備を掲げているのは当組合だけで、この問題は車体整備だけにとどまることはありません」

----認証取得への気運が高まっています。

「選ばれる工場として見える化をする上で認証取得は最大の要件といえます。現在会員約500社のうち230社が認証に向けエントリーしています。そのうち50社ほどがエクセレント工場のレベルにあります。テュフ認証への意欲も高く、現状テュフ側の対応が追いついていないのが実情です。損保のPPOやDRPにおける選別基準となってきますからね」

----経営者の意識改革を一貫して訴えてきました。

「経営マネジメントのレベルでは欧米に比べ遅れていたことは事実です。特に時間管理が徹底されず、アバウトな管理が横行し、ひいてはコスト管理が甘くなる実態があります。具体的にいいましょう。1を基準に設定し、ある人は0.7ででき、他の人は1.2できる場合を想定しますと単価が当然変化してきます。生産性向上と時間管理という側面からメスを入れる必要があります。時間管理を徹底することで、収益面の改善が図れます。それを人材教育や設備投資に回す余裕が生まれることになります。アバウトな経営をしていて苦しいからボーナスを出さないではこれからの経営者として資格がありません。優秀な人材を確保することが難しい時代になってくるのでなおさらです」

----事故需要への依存から脱却した車体整備業のビジョンはありますか。

「事故車は10年前に比べ約4割減り、その分入庫状況は厳しくなっています。更にまた事故車の自費修理が広がってきている現状があります。こうしたことを踏まえ、新しい切り口で車体整備ビジネスのアイテムを開発していく必要があります」

----新サービスの具体的なメニューはありますか。

「クルマのコンピューター化が加速しており、エーミング対応が不可欠になります。こうした面でイニシアチブをとっていきたい。センサーが正常に働くかチェックをする必要がありますからね。また米国のアフターマーケット関連のショーではフルラッピングカーが多量に展示され関心を持ちました。クルマのラッピングビジネスが米国では広がってきたとの実感があります。クルマの保有期間が延びており、車体の加飾ニーズは潜在的にあると考えています。とりわけトレンドセッターである女性顧客を集客するヒントがそこにあります。車体に関わるニュービジネスはある意味無限にあり、それは技術力をベースにしたものと、感性をベースにしたものに分けられ、フルラッピングカーは感性に訴求するものです」

----将来的に悲観する必要はないということですか。

「エクセレント工場のレベルのポテンシャルを具備することが条件となりますが、むしろ危機はチャンスでもあります。クルマ社会そのものが大きく変化しているのですから、それに翻弄されるのではなく、立ち位置を明確にすることで、世界基準の車体整備に向けた努力をしていくだけです」

----ありがとうございました。

(注)エーミング:キャリブレーションとも称され、クルマに搭載されている各種センサーが正常か否かをチェックすることをいう。それには4輪アライメントが不可欠で、スラスト角がずれているとカメラの向く方向が変わり、事故につながってしまうという。エーミングは各自動車メーカーでそれぞれの規格があり、標準化の動きが出始めている。



磯部君男氏
磯部君男氏

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