ビックケミーは、湿潤分散剤、表面調整剤、消泡剤をはじめ、コーティング、インキ用およびプラスチック用途での様々な添加剤を取り扱い、日々新製品の開発に注力し、機能性製品のラインアップの充実を図っています。
一方、お客様から添加剤とは何か?その役割、有用性のご質問をお受けすることも多く、BYK社提供の文献をもとにコーティング用添加剤の物理、化学的基礎をWEB連載にてご紹介いたします。

コーティング用添加剤  少量の添加で ‒ 大きな効果

紫外線安定剤

屋外の環境において、塗膜は様々な環境作用に耐えなければならない (図 43 参照)。酸素・湿度・太陽光・化学物質(大気汚染)による表層への攻撃は塗膜の劣化を導く。結果として、色相の変化や光沢の低下が観察され、チョーキングやクラッキング・ブリスターが発生し、ついには素地への密着性の低下が起きてしまう。塗膜の外観は完全に変化し、フィルムとしての適正な保護作用は持たなくなる。


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図43:屋外での塗膜劣化

光、特に紫外線(短波長で高エネルギー)は塗膜劣化に対する重要な要素である。表層に届く太陽光線とは、図44に示す290nm (紫外線) -1400nm (赤外線) の電磁波であり、これより短波長(より高エネルギー)のものは、大気によりさえぎられ地表までは届かない。短波長の紫外線(UV - B:290-315nm、UV-A:315-400nm)は塗膜へダメージを与える。これらの短波長は太陽から地表に届く光線のうち 6% に過ぎないが、塗膜の主要素であるバインダー樹脂の共有結合を破壊するのに十分なエネルギーを持つ。はじめに酸素(光酸化)との反応でフリーラジカルが発生しついにはポリマーの破壊が始まる。


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図44:電磁波波長域

添加剤によるより良い耐紫外線保護作用

塗膜の定着性の向上のために、紫外線安定剤による紫外線からの塗膜の保護作用は不可欠なものである。安定剤は主にクリアーコートに必要で、エナメル塗膜の場合は顔料が紫外線を吸収するので、たいていの場合は必要ないとされている。この最も重要なマーケットは自動車分野(ベースコート・クリアーコート)と木工用クリアーの分野である。木が被塗物の場合、紫外線によるダメージを防ぐ事はとても重要と考えられる。基本的には安定化に2つの手段が利用される。
• ポリマー構造にダメージを与えるフリーラジカルが生成する前に紫外線を吸収する。紫外線吸収剤はこの場合に用いられる。• ポリマーの破壊がすすむ前に、フリーラジカルを捕らえる。ラジカル捕捉剤はこの様に働く。

紫外線吸収剤

紫外線吸収剤として使用される有機化合物に、hydroxy-phenylbenzo-triazole (ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール)、Hydroxyl-benzo-phenone (ヒドロキシベンゾフェノン)、hydroxyl-phenyl-S-triazines (ヒドロキシフェニルSトリアジン)、oxalic anilide (シュウ酸アニリド)の誘導体などがある。その作用機構はすべて同じで、紫外線は容易に吸収されそのエネルギーは無害の長波長の熱として放散される。これは 図45 に示すように、分子の配列が変わることにより可能となる。紫外線吸収剤はUVの吸収により消失するわけでなく、半永久的にこの過程は繰り返される。紫外線吸収剤は290-400nmの間に効果的に強い吸収を示し、400nm 以上の可視光領域では吸収は見られない。なぜならこれ以上波長を吸収すると発色により色を呈してしまうからである。紫外線吸収剤のタイプによりそれぞれ独自の吸収特性を持っており、最適な保護作用のため各種タイプを組み合わせて利用される。


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図45:分子の配列が変わること(ベンゾトリアゾール)で有害なUV波長を無害な熱として放散する

Benzophenone (ベンゾフェノン) 派生物はかなり安価で、木工用に幅広く使用されている。高価な Benzotriazoles (ベンゾトリアゾール) は、主に自動車用塗料分野で使用されている。さらに紫外線吸収剤はその吸収能以外にも、典型的な塗料用溶剤にも溶解しやすく、塗膜になってからは留まりやすいうえ、揮発性も低いという特徴も、実際の性能として重要である。紫外線吸収剤はフィルター効果を通じても機能する。Lambert-Beer (ランベルトベール) の法則は塗膜の厚みと紫外線吸収剤の濃度により、吸収能が左右されると示している。紫外線からの保護作用の向上は、紫外線吸収剤の密度もしくは膜厚の増加により成し遂げられる。この効果の結果、紫外線吸収剤は表層より塗膜の深い層と被塗物を保護する作用に優れている。

ラジカル捕捉剤

HALS (Hindered Amine Light Stabilizers)は、ラジカル捕捉剤として最も幅広く使用されるものである。これらは、2 , 2 , 6 , 6 - t e t r a -methylpiperidine (テトラメチルピペリジン) の派生物から成り、R基の位置が分子活性に影響を与え、R1、R2が相溶性や溶解度といった二次的な特性を左右する (図 46 参照)。


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図46: 紫外線保護のHALS

活性化状態の際、安定なニトロキシルラジカルが形成され、これらは全過程において最も活性な種である。その正確なメカニズムはまだ完全に理解されていないが、その基礎的な過程は、「修正 Denisov サイクル」(図 47 参照) と呼ばれるもので説明できる。


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図47:修正Denisovサイクル:ニトロキシルラジカルがポリマー変質による有害なラジカルを捕らえ、再び形成される

ニトロキシルラジカルが樹脂を劣化させるフリーラジカルと再結合することで、フリーラジカルを消失させる。このサイクルの最後に、ニトロキシラジカルは再び形成され、紫外線吸収剤とは対照的にラジカル捕捉剤は塗膜の全領域で機能し表層領域でも同様に働いている。

添加と評価

光安定剤の一般的な添加量は、樹脂固形分に対して UVA は 1-3%、HALS は 0.5-2%である。これらの添加剤の効果を、自動車用クリアコートの例を図 48 に、木工用クリアコートの例を図 49 に示す。光安定剤の実力を評価するために、屋外曝露や促進試験が用いられ、色々な地域 (フロリダ、アリゾナ、工業地帯など)での屋外曝露は信用の出来る結果が得られるものの、数年レベルという長時間を要する。気候を人工的に促進させることで、数千時間に評価を短縮することができる。これはキセノンランプ (ウエザーオメーター)、もしくは QUV や UVCON の蛍光ランプからの電磁波を用い、屋外条件を再現する為、湿度条件と組合わせて使用される。最も重要な評価項目は、光沢、色変化、クラッキング、付着力である。促進耐候性試験の結果の考察には注意が必要である。なぜなら屋外曝露との相関性は、常に一定の評価をされているわけではなく、使用した装置や研究に用いられたシステムに強く依存するためである。(図48参照)


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図48: 自動車用クリアコートにみられる紫外線保護(モデルカー)
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図49:木工用クリアコート(シドニーでの24ケ月、屋外曝露):添加剤による紫外線保護
防腐剤
水系塗料は容易に色々な種類の微生物 (バクテリア・藻・カビ) の攻撃を受ける。生分解可能な塗料原料は劣化し、結果として悪臭・変色・うどん粉病の生成が観察され塗料は使用できなくなる (図 50 参照)。
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図50:水系塗料材料での微生物の発生

溶剤系塗料は溶剤の存在により、このような攻撃を受けることはないが、乾燥塗膜もまた微生物の攻撃対象であり、この場合は水系・溶剤系を問わず、溶媒が塗膜から揮発した後に発現される。湿度のある条件下で藻やカビは塗膜の表面に生成し、変色したり塗膜を破壊したりすることもある (図 51参照)。


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図51:湿度のある条件下での藻やカビの発生;外壁での藻(上)、内壁でのカビ(下)

両方の場合において、防腐剤(バイオサイド) は微生物の増加の抑制や死滅させることにより、塗膜を保護するために利用されている。塗装において、微生物に対する2つのアプリケーションは、容器内の微生物に対する場合「in-canpreservation(容器内防腐)」と呼ばれ、乾燥塗膜に対する場合「in-film preservation(塗膜防腐)」と呼ばれている。

容器内用の防腐剤

塗料容器内ではたらく防腐剤 (殺菌剤) は、生産工程から最終的に使用されるまでの間の液状塗料を保護する。このような添加剤は水溶性で幅広い微生物に効果的で、人体や動物に対しては低毒性であることが求められる。


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図52:ホルムアルデヒト放散剤

最も効果のある有機水銀や有機スズ化合物は、過去に広く使用されていた。今日では、低毒性の材料が使用される方向にある。ホルムアルデヒド HCHO は、図 52 に示すホルムアルデヒドドナーもしくはホルムアルデヒド放散作用物として知られ、色々な製品に使われている。これらは少量で長期間にわたりホルムアルデヒドを放散し続け、それにより低濃度で十分な防腐効果を発揮する。(訳注;日本では好まれない)ほかに使用される製品として、窒素や硫黄を含むヘテロ環をベースにした isothiazolinone (イソチアゾリノン) やbenzisothiazoline (ベンゾイソチアゾリン) (図 53 参照) のような化合物がある。


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図53:容器内用の防腐剤の例:イソチアゾリノン(左)とベンゾイソチアゾリン(右)

防腐効果を最適化する為に、商業的に入手可能な防腐剤は、いくつかの異なる効果の化合物を組み合わせていることがある。なぜならひとつの成分では、すべての考えられる微生物に対して効果的な結果を得ることができないからである。
防腐剤の使用に加えて、整理整頓(「産業衛生」) を心がけることが生産工程におけるコンタミを避けるのに重要である事を追記しておく。

塗膜の防腐剤

塗膜中の防腐剤 (防藻・防カビ) は、湿気のある環境下での塗膜面への藻・カビの成長を抑制する。そのような材料は、塗膜中の効果を永く持続させるため、水への溶解度が低いことが必要である。塗膜保護のため、防カビ・防腐剤の化学物質は数多く存在し、低毒性のものが好まれ、重金属やハロゲン化フェノンの様な材料が多くの国で使用禁止されている。図 54 にDiuronに代表されるウレアベースの製品を、Carbondazimに代表される benzimidazole(ベンズイミダゾール)系製品を、そしてZinc pyrithione(ジンクピリチオン)を載せた。


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図54:塗膜の防腐剤の例:Diuron(左)、Carbendazim(右上)、ジンクピリチオン

タイプの異なる藻やカビに、幅広く対抗するために様々な防カビ剤や防腐剤が組み合わされ
実際に使用されている。

法規制

塗装系における防腐剤の使用は、それぞれの地域とその法規制に大きく影響を受けている。防腐剤としての効果的な化学構造は、すでによく知られており、その数は最近あまり増えてはいない。新たな化学構造の承認には、コストと時間がかかるからであり、最近の「新しい」商品は、たいていの場合より良いパフォーマンスを示す現行物質の新規ブレンド品であることが多い。法令は常に改定されており、防腐剤も当然、これに従う必要があるのは言うまでもない。

将来の開発

新しい添加剤の研究開発は、きわめてマーケット主導である。添加剤の開発者は、今後のトレンド・変化や実際必要とされているニーズを見つけるために、顧客の声を積極的に聞く必要がある。最近の事例では、数年前に鉛含有顔料から無鉛顔料への急速な移行が進んだことがあった。今日ではより多くの有機顔料が使用されるようになったが、これらの安定化は容易ではなかったので、新しい湿潤分散剤の開発を推し進めるきっかけとなった。
溶剤系を水系へ、もしくは溶剤の減少、無溶剤化(「ハイソリッド」や粉体塗料等)へ変換する持続的な変化は必要なことであろう。昨今の配合では、特効性の新しい添加剤を要求される。例えば水系塗料では溶剤系と比較しより泡立つ傾向にあり、被塗物への濡れ、微生物の増殖などに対する保護の必要性もある。これらの事例は、塗料工業の変化が既存の添加剤による配合の継続的見直しや、新規の添加剤の開発を必要としている証左であろう。研究者の使う技術・道具も変化している。多くの添加剤は 2 つ以上の異なるモノマーを含む高分子構造を有するコポリマーである。通常の重合方法では、異なるモノマーがポリマー鎖全体にランダムに統計的分布をもつコポリマーが得られるが、新しい「コントロール重合」技術は、重合工程をきわめて良くコントロールすることができる。


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図55:コポリマーの模式図

結果として、ブロックコポリマーやグラディエントコポリマーのような高度な高分子構造 (図55参照) のものを得ることが可能となり、添加剤の能力を最大限引き出せるものと確信している。

最後にナノテクノロジーのような最新技術が添加剤にも利用されている事例について記述する。ナノ粒子を元にし、耐スクラッチ性の向上を計る最初の添加剤は、商業ベースですでに市場化されており、さらに紫外線保護や抗菌剤・防腐剤などが可能となっている。

BYK社(ドイツ BYK-Chemie GmbH, Dr. Wilfried Scholz 著)提供の"Coating Additives"をベースにビックケミー・ジャパン株式会社が翻訳・監修いたしました。<
日本語訳総監修 ビックケミー・ジャパン株式会社 若原 章博
翻訳 同社 日野 真司 樋口 公志 横手 涼 菊池 雄 神代 智史

BYK company profile:

BYK社(本社在ドイツ、Wesel市)は塗料、インキおよびプラスチック業界で使用される添加剤では、世界的なリーディングサプライヤーの一つです。当社の売上の約85%が輸出によるものです。主な輸出先はヨーロッパ、アメリカおよびアジアです。
製品群には、湿潤分散剤、消泡剤、表面調整剤(シリコン系、アクリル系、ワックス系)、レオロジーコントロール剤、減粘剤、整泡剤などがあります。
添加剤は塗料、インキおよびプラスチックの製造工程で使用されます。BYK添加剤は少量の添加で、製造工程を簡略化し、自動車や家具などの最終製品の品質を大きく向上させます。添加剤は製品欠陥を改善するために使われることもあります。
Wesel市、アジア、アメリカおよびブラジルにある11ヶ所のテクニカルサービスラボには、最先端の機器が備えられており、ラボケミストはお客様と直接連携し応用研究に取組んでいます。カスタマーセミナーでは、毎年、世界中から約900名の参加を賜り、当社の製品や技術情報をお伝えして社外研修プログラムの1つとしてお客様から高いご評価をいただいています。
BYK社はWesel市で1962年から添加剤を製造しています。現在、全世界で1,050人の社員がおり、そのうちの25%が研究開発またはテクニカルサービスラボに勤務しています。

ビックケミー・ジャパン株式会社 沿革

1966年、日本での塗料・インキ用添加剤の販売を開始しました。1980 年、BYK社(本社在ドイツ、Wesel市)の日本支社を開設し、1984 年12 月にビックケミー・ジャパン株式会社を設立いたしました。日常の販売活動、技術サービスの他にパブリックセミナー、新製品発表会、添加剤入門講座等を定期的に開催し、業界の皆様に最新の技術、製品情報をご提供しています。1999年には、テクニカルサービスラボを兵庫県尼崎市に開設し、より一層お客様に技術サービスに努めながら、ご要望をドイツ本社での製品開発に反映する体制を強化しました。今後もグローバルなネットワークを活用し、大阪、東京、名古屋営業所、尼崎テクニカルサービスラボの4拠点から、皆様の新製品開発、問題解決のお役に立つコーティング用ならびにプラスチック用添加剤をご提供してまいります。
URL http://www.byk.co.jp

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daihyo@coatingmedia.com(コーティングメディア編集部)