塗料・コーティングの表面トラブルを防ぐ!

表面張力と添加剤の基礎知識 第1回「レベリング」


はじめに

コーティング剤の性能向上において、「表面張力を上げるべきか、下げるべきか」という問題は、意外にも多くの誤解を招いている領域です。この連載では、表面張力に関する正しい理解を深め、効率的な添加剤の選定方法についてご紹介していきます。

連載の概要

本連載では、表面張力が特に重要な影響を与える5つのパフォーマンスについて、1つずつ詳しく解説していきます:

  1. 1. レベリング
  2. 2. 濡れ
  3. 3. ハジキ・クレーター
  4. 4. 親水化・疎水化
  5. 5. リコート性

最終回では、これらすべての内容を俯瞰的に整理し、総合的な理解を深めていただきます。

【第1回:レベリング】

■こんな課題ありませんか?

  • ・ 「レベリングが悪い」と言われるが、具体的な原因が分からない
  • ・ 使っている添加剤の選び方が正しいか自信がない
  • ・ クレーターや凹凸など外観トラブルが頻発している

そんな方に向けて、現場でよくある誤解を解消する技術資料をまとめました。

「表面張力とレベリング」の関係を、専門知識がなくても理解できるように構成しています。

■この章で分かること

  • ・ レベリング不良の原因と発生メカニズム
  • ・ 表面張力と添加剤の正しい関係性
  • ・ 最適な表面調整剤(レベリング剤)の選定ポイント

■レベリングとは

レベリングとは、「コーティング膜表面の平滑性」を指します。良好なレベリング性を持つコーティング膜には、以下の特徴があります。

高光沢
平滑な表面により、正反射光が増加
優れた外観
均一で滑らかな美しい仕上がり(意図的に凹凸を付与する場合を除く)
高機能性
均一性が高まり、保護性能や耐久性が向上

■レベリング性と表面張力の関係性

意外かもしれませんが、良好なレベリングを得るためには、コーティング剤の表面張力は「高い」方が望ましいのです。

身近な例:水銀
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水銀の表面張力(約480mN/m)は非常に高く、極めて平滑な表面を形成します。

■レベリング不良の発生メカニズム

レベリング不良は、液表面の表面張力差によって引き起こされます。その過程は以下の通りです。

  1. 1. 液表面に「組成差」が発生
    • ・ 温度差
    • ・ 揮発速度差
    • ・ 対流速度差
    • ・ 成分の比重差
    などが要因となります
  2. 2. 組成差により「局所的な表面張力差」が生じます
  3. 3. 表面張力の高い部分が低い部分を引っ張ります
  4. 4. 結果として、部分的な流れが生じ、表面に凹凸が発生します
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■表面調整剤によるレベリング不良の改善

表面張力を下げる添加剤がレベリング不良を改善する理由は、「液表面の表面張力差をなくす」ためです。これは多くの方が誤解している点です。

■ 改善のメカニズム

  1. 1. 表面張力の低い添加剤を添加
  2. 2. 熱力学的エネルギーの観点から、より安定な表面を形成できる添加剤が最表面に配向 (この配向には添加剤の低い表面張力が必要)
  3. 3. 添加剤により液表面の表面張力が均一化
  4. 4. 局所的な引っ張り合いが解消され、平滑な膜が形成

■表面調整剤の選定ポイント

主な選定要素
  1. 1. 組成 → シリコン系 or 非シリコン系
  2. 2. 表面張力低下能 → 構造により異なる → 最表面への配向性に影響(より低いものが表面に配向しやすい
  3. 3. 追加特性 → 表面にスリップ性や離型性を付与(特にシリコン系)
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■まとめ

本記事の重要ポイントは以下の3点です。

✔ コーティング剤の表面張力が高いほど、平滑な仕上がりが得られやすい

✔ 添加剤によるレベリングの改善には「表面張力を下げる表面調整剤」を使用

✔ 改善メカニズムは、添加剤が最表面に配向し、表面張力差を解消することによる

■お問い合わせ

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