2024年の屋根用塗料市場は、売上、数量ともメーカー間で増減にばらつきが見られた。各社とも戸建て塗り替えの不振を受けた一方、暑さ対策ニーズを受け営繕物件を中心に遮熱塗料が伸長。営繕物件、戸建て塗り替えに対する比重の差が明暗を分けた。乾式屋根材や太陽光パネルとの競合も激化しそうだ。塗料需要の減少も想定される中、ボリューム競争から材工展開に活路を見出す動きも出てきた。
無機系シフト、耐候性競争が激化
さまざまな用途、製品群を有する建築用塗料市場において、屋根用塗料にフォーカスした販売施策は少ない。
特にボリュームゾーンである戸建て塗り替えにおいては、外壁用塗料と屋根用塗料のワンブランド化による販売施策が活発化し、耐候性競争に一段と拍車がかかっている。昨年各社が一斉に無機系屋根用塗料の投入に動いたのも象徴的。外壁、屋根とも耐候性能で高付加価値を訴求する流れが一層強まっている。
塗料メーカーにおいては、製品の高付加価値化で製販装の単価アップを誘引する狙いだが、戸建て塗り替え需要の低調が長引く。巣ごもり消費で沸いたコロナ禍当初の特需をピークに頭打ちしたとの見方もあり、戸建て塗り替えを主戦場としてきた汎用メーカーにとっては、原材料高の局面下で熾烈な競争を強いられている。
その一方で、遮熱塗料に限ると2024年度は前年比10%弱の伸長(本紙予想)と再び上昇傾向の期待が高まってきた。工場、倉庫などの企業物件で大きく躍進。メーカー各社も営繕需要の底上げに注力していた状況もあるが「暑さ対策に本格的に乗り出したことが大きい」(メーカー担当者)と採用側の企業意識の変化が牽引する。過酷な職場環境が人材の流出、採用難に至るとの懸念が遮熱塗装に対する引き合いを増やしている。
戸建て塗り替えの不調を企業営繕で補完できる点も建築汎用の底強さと言えるが、製品体系や営業手法が異なるためリソース(経営資源)の配分は難しい。このまま戸建て塗り替えにポジションを置きシェアアップに努めるか、堅調な需要を示す営繕需要にシフトを強めるか、少しずつ各社のスタンスが明確化している。
需要環境の変化を強いられているのは、施工店も同様。一部のメーカーが施工店に対し、営繕物件向けに営業支援を行う動きも出てきた。
塗料メーカーも営繕需要を底上げするため、材工展開に対する感度を高めているように映る。特に遮熱塗料のような機能性を全面に訴求する塗料においては、塗料・施工の一体化により施主(企業)の信頼を得やすいとの考えがあるからだ。今回の取材でも遮熱塗料の省エネ性能を保証する新興ブランドの登場に話題が集まる。現状、材工展開においては、遮熱専業メーカーが積極化するビジネスモデルとなっているが、企業ブランドや保証サービスを活路に汎用メーカも材工展開を活発化する可能性が出てきた。
カバー工法、太陽光パネルが台頭
メーカーにとっては営繕需要やシェアアップを成長施策に据えつつも、長期的には屋根用塗料需要も縮小の一途をたどるとの見方を強める。1つは塗装以外の改修工法の台頭、もう1つは太陽光パネルの存在だ。
アスベスト入り建材が製造、輸入、販売、使用のすべてにおいて禁止になったのは2006年。それと前後して屋根においては、"ノンアス"(非石綿)スレートが市場に流通し、技術改良を繰り返しながら現在に至るが、施工店から聞こえるのは「ノンアススレートは弱い」との声。ノンアススレートの耐候性に差異はあるが、安全意識の高まりも加わり、ノンアススレートの再塗装を敬遠する流れが強まっている。軽量、耐震性を特長に需要を伸ばすアスファルトシングルに対しても同様。塗れる、塗れないの判断は、施工店によって判断が分かれるが、カバー工法を採用するケースが増えている。
塗装店がカバー工法を積極化する背景には、物件量の減少を単価アップで補いたいとの思惑がある一方、塗装によるトラブルを避けたいとの思いもあるようだ。
屋根材の種類だけでなく、葺き方や勾配、付帯部のおさめ方など、その時々のデザイントレンドと絡みつつ、想定をし得なかった不具合に対峙するのが屋根改修。ある塗装店は「塗装すらリスクをはらんでいる」と指摘する。
一方、カバー工法とともに塗料需要を脅かす存在として懸念されるのが、太陽光パネルの存在。
かつてはFIT制度(固定価格買取制度)を背景に需要を伸ばしたが、買取価格の下落が続き、今や投資対効果としてのメリットは失われつつある。
そうした中、東京都はこの4月から大手ハウスメーカーに新築住宅の太陽光パネルの設置を義務付ける条例を施行する。
面積などによって、すべての新築住宅が対象になるわけではないが、東京都としては、CO2排出の多い家庭用電力を自家発電で賄い、排出削減につなげる考え。
太陽光パネルにおける塗装需要の影響については、新築、既築で異なるが、既築住宅の設置は屋根の改修を前提にしているため、一時的に塗装需要が喚起されることが予想される。ただ、ここでもカバー工法の存在が立ちはだかる。基材の種類や劣化状況によっては、カバー工法の選択が増える可能性がある。
脱炭素化やグローバルサプライチェーンによって太陽光パネルの導入を加速させる企業物件と比べて、住宅屋根においてはまだまだ未知数な点が多い。とはいえ、乾式屋根材や太陽光パネルの台頭によって、塗装面積が縮小に向かうのは避けられない様相だ。
興味深いのは、塗装店が塗装以外の営業提案を積極化している点。物件量の減少を補おうと、さまざまな商材、設備を組み合わせた「クロスセル」の指向を強める。屋根材メーカーや太陽光パネルメーカーにおいても塗装店との関係が改修分野拡充の糸口になるとして協業展開が活発化している。
問われる塗装の価値訴求
時代の流れとともに専門性を色濃くしてきた塗装が、数ある改修工法の1つへと立ち位置が変化していることを実感する。傷んだ屋根を補修し、長持ちさせたいという需要家のニーズに応えられるのは塗装に限らない。塗装以外の改修工法が台頭する中、需要家が魅力に感じる塗料・塗装の優位性を示す必要性が高まっている。
こうした課題に対し、「カバー工法や太陽光パネルにより、価格面でポジションを取りやすくなる」との意見も。塗装よりも高い改修工法の登場により、塗装のコストパフォーマンスが高くなるとの視点。更に「塗料の高付加価値化に対する許容度が高まる」と話す。
また、これまでも長期耐久性をうたう屋根材に対し、想定し得ない劣化に対応してきたのも塗料・塗装の役割。塗装の廉価性を武器にしつつ、さまざまな基材への対応力も強みにしたいところ。外部への発信力が問われている。
※ペイント&コーティングジャーナル:2025年3月19日付屋根用・遮熱塗料特集より
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