第20章 仕事量の確保

前章は広告について触れましたが、そもそも広告の目的は「集客」にあります。そして集客の目的は「会社を運営するための仕事量の確保」にあるといえるでしょう。今章では一般のお客様に向けた「集客」から「仕事量の確保」という視点で掘り下げて話を進めていきたいと思います。
私たちの工場では直需が約95%と元請の会社への依存は、ほとんどない状態にあります。しかしながら全国的にみると、元請先に仕事を依存している会社も多いのが現状です。そんな状況下で年々、元請からのレス率の要求は上がってきて、一部では40%レスや45%レスの声も聞こえてきます。その現実を考えた場合、すべてを元請に依存することは「リスクが大きな経営」だということは紛れもない事実です。
ただ、地域性や工場の運営状況からすぐに下請体制から直需体制を変化させるのは難しい方々もいらっしゃると思います。すぐに直需に転換できない工場では、元請からのさまざまな要求に応じることができる体力を蓄えておく必要がありますし、応えられる体力にするために会社を鍛え上げていく必要があります。業績の悪化を元請のせいにしている状態では、我々の業界に未来はありません。元請からの明らかに条件の悪い要求には、しっかりと主張し対処する、そのような毅然とした経営判断をするには、技術を守りながら、しっかりとした根拠のある経営をしていかなければならないのです。直需中心でも下請中心でも、どこかに、誰かに依存するような経営では足元が弱いといえます。ですから、私の一連の連載内容は決して直需体制の工場に対してだけではなく、下請体制の工場でも必ず必要な内容だと思っています。
下請けとしての在り方も、元請が置かれている状況により、この先も変化していくことでしょう。ディーラーは内製率の上昇を目指しながら伸び悩んでいますし、実際に東京ではディーラー工場が郊外の集中工場へ吸収される動きが加速しています。保険会社との関係も変化しつつあります。都心では大手保険会社は提携工場の確保が難しい中、単純に条件面だけでなく、契約者の声や満足感を反映した工場選びをする動きになってきています。また、今後DRPのように中間の組織や手続きを挟む体制は、時代に沿わなくなっていくでしょう。モータースに関しては、今後の整備業の厳しい将来性を考えると、元請先としては慎重に判断する必要があると思いますが、ユーザーを囲い込みながら生き残っていくモータースは、大きな集客力を持っていく事も考えられます。そのような各元請先の状況は、レス率上昇等の悲観的な面だけでなく、我々にとっては多くのチャンスが残されていると私は考えています。そのチャンスをつかむためにも、しっかりと経営体制を整えつつ、技術力のある我々しかできない主張を、毅然としていく必要があるのです。今後は、元請先から仕事を確保するにしても、伝手や人脈や条件面での優位性だけではなく、その工場が持つ技術力やサービス力、または明るさや誠実さのような、その会社が本来持っている魅力に仕事が集まっていくでしょう。

なんのための技術なのか

私たちの会社は極端な話、社員が幸せに仕事をして生活ができて、その状況下で企業として安定した仕事量が確保できるのであれば、業務内容を自動車の板金塗装に限定させることはないと思っています。我々の職業は他の業界に比べてもなんら引けをとらない、技術力の高い職業であることは再三触れてきましたが、この高い技術力は考え方によってはさまざまな応用が利きます。船舶の塗装や重機の塗装など、実際にその技術力を生かしたサービスを展開している工場も存在します。自動車修理に視点を戻した場合には、「欧米の高所得者はほぼ例外なくクラシックカーを好む」という傾向から、将来、レストア需要が増加するというようなことは日本でも考えられます。
私たちも実際に、新築建物のエレベーターの扉の出張修理をサービスとしていたことがありますし、実現には至りませんでしたが、お風呂のオールペイントをサービスとして検討したこともあります(実際に民家・ホテル等でかなりの需要があります)。
今後、我々の職業は、車の素材の進化とともに、今までの技術をそのまま生かすことができない状況になることも予想され、板金塗装業界の懸念でもあります。もちろん、そうなると各工場は大きな業態転換を迫られることになるわけですが、そのリスクに対してもさまざまな情報を得た上で、社員の生活を守るため、また技術力を生かすための環境を整えていくという視点が必要になるのです。現状の技術を生かせない環境になることに悲観的になるのではなく、異なる活用方法を考えていくことも、今後の板金塗装工場経営には必要となっていくと思います。
我々の技術力は単なる自慢の種ではありません。その技術力を経営力につなげることで、我々業界が元請先に対しての交渉力をつけることができ、更に社会に対しての価値を提供することにより、それぞれが社会から認められる会社になっていくのではないでしょうか。板金塗装業界の各工場が、「主体的」に、優れた技術をサービスとして提供し、安定した仕事量を確保するには、それぞれがより広い視野で、深く経営について考えていくことが不可欠だと私は考えています。

プロフィール:
伊倉大介氏(いくら・だいすけ)。1976年生まれ。東京都目黒区出身。
1997年伊倉鈑金塗装工業代表取締役に就任。2003年コーティング事業開始。2007年オークション代行業務開始。2008年廃車受付業務、レンタカー業務開始。2011年BP経営支援会社「アドガレージ」設立、代表取締役に就任。
2013年8月現在、社員12名、修理工場9人体制。