最終章 行動するための責任感

 本連載も今回で23回目、最後の寄稿となります。ご覧の皆様には2年間、お付き合いを頂きました。私にとっては初めての連載で、毎回自分の頭の中を整理しつつ、どのようにしたら板金塗装工場経営について分かりやすく伝わるかを意識し、進めてまいりました。改めまして、ご覧の皆様に心から感謝させて頂くとともに、このような機会を頂いた近藤社長をはじめとするコーティングメディア社様には、深く御礼を申し上げます。ありがとうございました。
 この連載を進めながら私は、各地での講演のご依頼を頂き、2013年は合計12都市でお話をさせて頂きました。全国の板金塗装業の皆様と実際に触れあう機会を頂く中で、各地にいろいろな経営状況の工場がありながら、皆様が持っている課題や不安、悩みはある程度共通のものだと感じています。「業界の将来に対する不安」「事業継承・後継者の問題」「仕事量の確保」「若い世代への技術継承」「社員のモチベーション管理」「人材の確保」などです。一連の連載の中でも、各課題に対しての取り組みを少しではありますが触れることができたのではないかと思っています。
 そんな中、私が強く感じたのは、各工場がさまざまな課題を解決したいと考えている中で、まず「何から手をつけていいのか」を整理できていない方が、非常に多いということです。工場を良くしていきたい、社員を幸せにしたい、と思っていない方はいません。しかし、それを実現するためには何から始めればよいか分からず、分からないから実際の行動に移していないという方々が大勢いらっしゃいました。しかし、どうでしょう?厳しい言い方になるかもしれませんが、「自工場を良くしていくことへの責任感の欠如」がその状況を招いている大きな原因ではないかと私は考えています。
 最近の私の講演では、冒頭に「個々が背負っている責任」について触れ、皆様に考えて頂く時間を設けています。私の考える個々の責任を大きく2つに分けると「目の前の仕事に対する責任」と「自分のコミュニティーを守る責任」となります。まず、目の前の仕事に対する責任は、我々のような技術職にとっては不可欠です。損傷を受けた車を適切な方法で、技術者がそれぞれ必要な仕事をしっかりとこなしていく。そうすることで車が復元し、その復元により板金塗装というサービスが成立します。プロとして当たり前のことをしっかりとこなしていきながら、常に技術やサービスの向上を考える、これは板金塗装業に携わるどんな立場の方々でも必要な責任です。
 次に自分のコミュニティーを守る責任について考えていきましょう。コミュニティーとは「共同体」を意味します。経営者でも後継者でも、技術社員でも事務社員であっても、自分が責任を持って守れなければならない共同体は必ず存在するはずです。私であれば「家族」「会社の社員」「地域の方々」「異業種交流会の仲間」、そして「自動車板金塗装業界の方々」が挙げられます。自分が守るべきそれぞれのコミュニティーを本気で守ろうと考えたときに、あなたは「何から始めたらいいか分からない、だから行動に移せていない」と言い訳を言えるでしょうか。社員として働いている方は、最低限、家族というコミュニティーを守る責任があり、その責任があるからこそ仕事について責任感を持って取り組み、コミュニティーの明るい未来についてしっかりと考え行動しなければなりません。

板金塗装業の明るい未来へ向けて

 経営者・後継者の皆様は、自身の家族はもとより、自社の社員を、そしてその家族を守らなければならない責任があり、それに対して明るい未来を創造していく責任があるのではないかと思います。私自身、その責任を本気で意識したとき、いてもたってもいられなくなり、いろいろな経営手法を取り入れ、トライアンドエラーを繰り返しながら自工場の経営をしてきました。だからこそ改めて皆様には、自身が本気で守らなければならないコミュニティーについて考えていただきたい。責任感が経営改善の原動力になるのではないかと思います。
 我々の業界は車社会の発展とともに成長してきました。先輩たちは強い想いを持って、努力を重ね、若い世代に卓越した技術を残してくれています。しかし社会全体を見据えた上で、明確に業界の明るい未来を創るために行動をしてきたかについては疑問が残ります。業界が社会から認められ発展していくには、各工場が明るい未来に向けて取り組んでいく必要があります。自社を企業として強くしながら、働く人や、自社に関わる人たちの幸せを考え、明確な明るいビジョンにつながる経営計画を作成し、そこに向け強い意志で実行していく。そしてそれは、経営手法の知識やノウハウを得るだけでなく、行動に移していく「責任感」が根本になければ実現しません。
 だからこそ私はこれからも自社を良くするため、業界を良くするために強い責任感を持って行動し続けます。そして、同業界の皆様にお役に立てる情報は公開し、明るい未来に向けた行動のきっかけや支えになれればと思っています。しかし明るい業界、明るい工場を創っていくのは、他の誰でもない、あなた自身です。皆様も強い責任感を持って、ぜひ一緒に、明るい業界を創っていきましょう!皆様とお会いし、板金塗装業について熱く語り合えることを楽しみにしています。(了)