気流の可視化手法
~風が吹けば誰が儲かる?

皆様こんにちは。CELの湯澤です。お陰様でこの連載も中間の折り返しを過ぎ今回で10回目を迎えました。連載後半最初のテーマは異物対策を考える上で欠かせない気流の見える化です。

気流は私たちの周りに常に存在し、非常に身近なものである反面、基本的には目には見えないもので、昔から「風が吹けば桶屋が儲かる」や蝶の羽ばたきが遠く離れた場所で竜巻を引き起こすという「バタフライエフェクト」のような、予想の難しい複雑な事象の例えとして持ち出される場合があります。

さすがに私たちの改善の舞台である工場内で竜巻が起こることはありませんが、複雑な事象であることは間違いなく、実際に目で見る可視化のアプローチは欠かすことができません。

気流とクリーン化

まずクリーン化と気流の関係を整理してみましょう。前回までにお話しした「付着塵」はある程度の気流がある環境では再度舞い上がって「浮遊塵」となり移動します。浮遊塵はその後重力によって降下して付着塵になるというサイクルがあり、その中で偶然製品などに付着したものが不具合を引き起こすことになります。

図1

図1

図1のように浮遊塵と付着塵のサイクルの中でキーポイントになるのが気流ですので、クリーン度を管理するためには気流のコントロールは不可欠であり、気流の確実なコントロールのためには見える化が必要となります。

ところでそもそも気流とは何でしょうか?

連続した空間に圧力(気圧)の差があれば空気は圧力が高い側から低い側に向かって移動し、これが気流として観測されます。

図2

図2

図2のように気流と圧力は表裏一体の事象と言えますので、気流の見える化には気流そのものを可視化・定量化する手法の他に圧力を測定する手法を使うこともできます。

気流の可視化手法

気流の可視化手法でもっとも手軽なのは細長い紐状の吹き流し(タフト)を使う方法で、皆さんの工場でも既に使っている箇所があるかもしれません。気流によって振れる幅を目視判定しますので、定量化という点では物足りない部分もあるのですが、何といっても簡単に導入できますので、工程の要所要所に設置しておきたいものです。

タフトの素材としては糸や毛糸などの繊維質を用いる場合もありますが、それ自体が発塵源になるのは避けたいところですので、カセットテープから取り出したテープなどがお薦めです。カセットテープは最近すっかり目にする機会が減っていますが、まだ100円ショップなどでも購入可能です。テープは埃などが付着して汚れてきますので定期的な交換もお忘れなく。

タフトでは捉えることが難しい低速な気流や、空間的な広がりをもった気流を可視化するためには各種のスモーク発生器を使います。この用途で昔から使われるのがスモークテスタで、ガラス管に封入された塩化第二スズと空気中の水分が反応して白煙が発生する事象を利用して気流を可視化しますが、発生した白煙には刺激性がありますので注意が必要です。

最近では水を超音波霧化する方式のスモーク発生器などもありますので、用途に合わせて選択することができます。更に広い空間の複雑な気流を観測するためにスモークマシンを用いることもあります。

図3

図3

スモークマシンは主にライブ会場などで視覚効果を高めるために使用されますが、AC100V電源で使用できるコンパクトなタイプが市販されていますので、これを用いれば塗装ブース内の気流などの比較的大きな空間の気流改善の武器となります。(図3)

気流の可視化の際、乾燥炉周りなどの熱対流が発生する場所では3次元的な動きに注意が必要です。例えば寒い時期に暖房された室内の扉を開けると、特に強制換気などをしていなくても足元から冷たい空気が入り込んでくると思いますが、この時同時に扉の上側からは暖かい空気が出て行きます。

このように熱の出入りがある場所ではあたかも空気が回転するような動きとなることがありますので、スモークテスタなどを使って可視化する場合には少なくとも上・中・下3点の風向を確認するようにしましょう。

湯澤智氏。CEL(Clean Environment Lab.・静岡県静岡市)代表。大手楽器メーカーなどで自動車内装部品の外観品質向上などの業務に従事。独立後、さまざまな「見える化」技術による異物不良改善を中心として、国内外の塗装工場の現場改善支援を行うとともに、その成果を生かした独自の改善技術開発を行う。業務分野は外観品質向上及び工法開発、製造設備の設計・導入、改善のための可視化・定量化技術開発など。53歳。https://cel-user1.jimdo.com/