インジウム塗料、めっき代替を加速

昨年10月、タクボエンジニアリングと共同で「インジウムミラーコーティングシステム」を開発した武蔵塗料HD。加飾めっきの代替に向け、市場展開に弾みをつけている。インジウム塗料の上市から2年を経て、なぜ塗装エンジニアリング会社のタクボエンジニアリングとの協業を決断したのか。プロジェクトの陣頭に立った同社執行役員営業本部本部長の小澤清弘氏にシステムの概要と協業に至った経緯を聞いた。


----めっき調塗料は、めっきに代わる技術として長年開発が進められていますが、課題も多いと聞きます。開発の変遷や課題について教えてください。

「当社が製品化したのは銀錯体からですが、元々は硝酸銀溶液とアンモニア水による銀鏡反応を生かした銀鏡塗装に始まり、銀コロイド、銀錯体溶液と原材料の変化に応じて、めっき調塗料が開発されてきました。ただ、銀鏡塗装は銀膜の生成が不安定であること、銀コロイドは密着性が不安定で乾燥温度が100℃と汎用プラに適さないなど、いずれも量産化には至っていません。銀錯体塗料では家電製品に採用されていますが、30℃以下の温度保存や汎用プラを不可としており、用途が限定されている状況です」

----それぞれに技術的な課題を有しているということですね。

「銀系材料における最大の課題に腐食の問題があります。成膜中に外気に触れると腐食を進めてしまう銀特有の性質が塗料化や量産化を阻んできました」

----そうした状況の中で、新たにインジウム材料が登場したわけですね。

「そうです。インジウム塗料は、インジウム懸濁液を原料とした塗料で金属粒子の腐食もありません。また通常の塗料と同じ常温保存が可能で、80℃で乾燥できるため、汎用プラへの適応を可能にしました。また自動車の安全技術に用いられるミリ波レーダーの透過性を有しています」

----新たな原料によって用途拡充の期待が高まります。武蔵さんがそこまでめっき調塗料の開発を追求する理由は何ですか。

「高意匠塗料を市場に投入していく当社のポリシーもさることながら、めっき市場の成長性に着眼しています。プラスチックめっきの世界市場は、2021年で5億9,170万米ドル、2027年には9億4,110万米ドルに成長すると予想されており、自動車、家電を中心にめっきの領域は広がり続けています。高級感を演出する加飾技術としてめっきの人気の高さがうかがえます」

----武蔵さんとしては、そのめっき市場を塗料で置き換えていくということですね。勝算は。

「めっきが抱える環境問題は、代替を訴求する上でチャンスと見ています。めっき製造には、工程管理の難しさと水を使ったプロセス由来の環境負荷の高さをボトルネックに抱えています。それに対し塗装は連続生産ができる強みもあり、めっきに匹敵する意匠性、物性が認められれば、十分勝機はあると思います」

----しかし、当初インジウム塗料の販売に苦労されたということですが。

「当社がインジウム塗料の開発を終え、上市したのは3年前の2020年です。お客様からは非常に高い関心を頂きましたが、塗装方法の確立とコストの壁に当たりました」

----なぜですか。

「一番の課題は、200~400nmのターゲット膜厚を安定かつ均一に塗装できる塗装方法がなく、たとえ塗れたとしても塗料が高価なため『コストが合わない』と断念されるケースが相次ぎました。また、単品であれば手吹きで仕上げられなくもないですが、量産化からは遠のきます。塗料自体のパフォーマンスに自信を持っていただけにそこは歯痒かったですね」

----そこでタクボさんに白羽の矢を立てたわけですね。

「そうです。当社の苦戦を知った佐々木社長から連絡を頂き、相談に乗ってもらうことになりました」

----そして「インジウムミラーコーティングシステム」の共同開発につながるわけですね。

「タクボさんのラボで量産対応ができると確信するまでに時間はかかりませんでした。塗料吐出量を1cc単位でする制御技術や回転塗装技術を通じ、規定の膜厚を均一に塗装できることが分かりました。特に実際のワークがなくても塗装コストが算出できるシミュレーション技術は、めっき代替を訴求する上で相当な武器になります。当社としても回転塗装向けにより塗着効率や生産性が上がるよう改良を行い『ECO MIRROR 49』として2液ウレタン樹脂系とUV硬化型1液ウレタンを揃えました」

----今後の市場展開に期待が高まりますが、塗料販売をタクボさんに委ねた点には驚きました。

「タクボさんの回転塗装技術なくして量産対応ができないこと、既に回転塗装機を導入しているタクボさんの顧客が対象になることを理由にタクボさんに販売をお願いすることにしました。今までにないケースのため、社内では異論を唱える声もありましたが、なんとかこのインジウム塗料を普及させることで技術陣に報いたい思いが優先しました。日本はタクボさんが販売、それ以外の地域についてはタクボさんと連携を取りつつ、当社が販売を行っていきます」

----今後の展開について聞かせてください。

「当社も自動車関係、家電関係など幅広い顧客層がありますので、新システムのPRを積極化していきます。当然、競合品の台頭も予想されますが、日本、中国で周辺技術を含めた特許が成立しており、権利関係を含めお客様には安心して採用頂けると考えています」



小澤清弘氏
小澤清弘氏

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