塗料販売店向け塗料マイスター検定、来年実施へ

日本塗料商業組合(理事長・日下幹朗氏)は、以前から導入に向け検討を重ねてきた塗料マイスター(仮称)の検定を来年にも実施する意向を示した。6月18日に開催した業界紙向け懇談会で明らかにしたもので、まずは初級の検定実施に向けテキストの作成、検定の在り方について内容を固める方針。塗料マイスターを通じて人材育成の機会を提供し、塗料販売店の専門的地位を高めたいとの狙いがある。


塗料マイスター制度は、塗料販売店の専門的地位の向上と人材育成を目的に設立される組合独自の認定資格制度。

2016年7月に塗料普及部会で検討を開始し、2018年に全体構成やテキスト内容を仮決定。2019年には、元日本塗料工業会常務理事の奴間伸茂氏(塗料塗装技術研究所所長)をアドバイザーに迎え、テキスト作成に向け本格スタートした。更に昨年からは、総務管轄だった塗料普及部会から塗料普及委員会(委員長・清元秀氏)に格上げされ、5年の歳月をかけ制度運用開始へ向けて準備を進めてきた。

塗料マイスター制度の着想を得たのは、日本米穀商連合会(日米連)が運営する「お米マイスター制度」の存在。

米穀小売業者が許可制から登録制に変わり自由販売競争を余儀なくされる中、米に関する専門知識を持ち、銘柄や価格だけではない情報を対面で伝える必要があるとの考えから2002年に同制度が発足した。  

資格は三つ星と五つ星の2ランクが設けられ、三つ星2,260名、五つ星442名が認定を取得(2021年5月31日現在)。最上位の五つ星は、精米技術や炊飯技術、米穀ブレンド技術といった技能を求める内容となっている。

米と塗料では商材そのものは大きく異なるが、販売業が抱える現状や知識や情報を価値にしようとする点で共通点が多いことが決め手となった。塗料マイスターの検討が決まった当時、主要メンバーが日米連の事務所を訪れ、お米マイスター制度についてヒアリングを行ったという。

塗料マイスターの全体構成は、初級、中級、上級の3ランクに分類。一部内容や呼称に変更の可能性を残しているが、初級と中級は建築、自補、工業に関する全般的知識を求め、上級に対しては、それぞれの分野においてクレーム対策などメーカーのサポートを必要としないレベルを設定した。

現在、テキストの完成に向け最終段階に入っており、初級と中級はテキストを共通化する方針。塗料普及委員会の清元秀委員長(フジミ社長)は「テキスト作成に際して、改めて塗料販売業がカバーする守備範囲の広さに気づかされている。テキストで習得すべき知識を示しつつ、試験の難易度で初級、中級を分けることが適切と考えた」と説明する。

今後の予定としては、年内にテキストを完成させ、来年にも初級検定を実施する考え。運営小委員会が試験内容や会場設営に関する検討を行う。特に試験会場について当初は、東京、大阪などの大都市圏で開催する計画だったが、「コロナ禍を通じオンラインの活用が進んだことを考慮していきたい」(清氏)と説明。ブロックや支部と連携した地方開催の可能性も示した。

塗料マイスターの活用を考える

初級検定の実施以降も上級向けテキストの作成や試験内容、また持続可能な運営体制について多くの課題を残しているが、塗料マイスターを販売店復権の契機に捉えたいところ。本紙6月16日付(塗料流通特集)で掲載したユーザー向けアンケートでも塗料販売店からの情報を求める声が多かったことから、メーカーとユーザーの間に位置する塗料販売店の情報機能は普遍的な価値ともいえる。もちろん塗料マイスターの資格に有意性を持たせられるかどうかについては、それぞれの社店に委ねられるところが大きい。

塗料マイスターに期待されるのは、教育ツールとしての活用。塗料マイスターのテキストでは、塗料の基本的特性から用途別事例、機械、用具などを広く網羅的に抑えており、新入社員向けの教育ツールとしての利用が想定される。また検定制度が会社と社員が理解の度合いを共有する上で有用な機能を果たす他、長年現場経験で知識を習得してきたベテラン社員にとっても基礎的、体系的な知識習得がスキルアップを後押しすると期待される。

その一方で、塗料マイスターが実践的スキルの習得に直結するか否かにおいては、限定的な見方もある。各分野の専門性を深掘りした「上級」を取得しても事業規模や顧客の特性によって習得すべきスキルが異なるとの考えがあるためだ。加えて危険物取扱資格や塗料調色技能士など従来資格との関連づけも必要となる。

そのため実践スキルの習得にはそれぞれの会社が持つ教育プログラムをベースに塗料マイスターが補完機能を担っていくことも予想される。いずれにしても塗料マイスターが組合社店に提供される意義は大きいと見られる。

今回、同組合が塗料マイスター制度で価値に据えたのは、組合メリットの提供。会員社店の実益に寄与する組合活動が長年の課題となっていた中で、塗料マイスターが組合員への価値の提供に貢献、組合活動そのものの活性化につながる期待がある。



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