社会課題の解決へ、成熟市場を突破する

今期末に売上収益1兆円の大台突破を視界に入れた日本ペイントホールディングス。中国汎用塗料事業の旺盛な需要回復とともにアジア合弁の100%化などが寄与し第2四半期業績は売上、利益とも過去最高を計上した。その一方で、国内事業は昨年と比べて回復基調にあるものの需要分野によってまだら感も見られる。成熟化した国内市場について、どのような成長施策を見据えているのか。汎用、工業、自動車の各事業会社トップが現状と展望を語った。


日本ペイントホールディングスは8月16日、業界紙向け懇談会をオンライン方式で開催。当日は日本ペイント・オートモーティブコーティングス武田川信次社長、日本ペイント喜田益夫社長、日本ペイント・インダストリアルコーティングス塩谷健社長が出席し、記者の質問に答える形で国内事業の現状と今後の見通しについて説明した。

まず自動車塗料分野について武田川社長は、塗料需要は自動車生産台数に直結していると前置きした上で「昨年、コロナの影響で中国が一時激減に見舞われたのに対し、日本は半導体不足が生産台数に影響を及ぼしている。またここに来て、東南アジアもコロナの感染拡大により部品メーカーの稼働が停滞しており、完成車生産に影響を及ぼしている」と話した。

今期については「昨年よりも需要は回復しているが、コロナの影響と部品供給停止などが引き続き自動車生産に影響を及ぼしている」と今後の需要動向に警戒感を見せた。

続いて汎用塗料分野について喜田社長は「需要に凸凹感が見られるが、前年から延期されていた塗装工事の進捗があり第2Qは増収で推移した。今後、自補修においても専業の特約店と協業し攻勢を強めていく他、DIY向けもコロナで急浮上している」と回復ぶりをアピールした。

また工業用塗料分野について塩谷社長は、「建機向けが2019年並みに回復している他、コイルコーティングもプロジェクトが稼働し、想定以上に需要が戻っている」と回復ぶりを強調。その一方で「人流の抑制により鉄道車両の塗り替え需要が悪化している他、オフィス家具向け、自販機も生産が減少している」とコロナ禍によって業種ごとに明暗が出ている現状を伝えた。

全体としては、主力3分野とも停滞していた第1四半期を第2四半期で盛り返した格好。上半期売上は、自動車用塗料18.5%増、汎用塗料2.0%増、工業用塗料6.6%増で推移した。下期で更に上積みを図りたい意向だが、昨年後半からは市況が回復していたこともあり「工業用は昨年よりは上回るが、2019年度比では5~10%減で着地すると見ている」(塩谷社長)と慎重な見方も示した。

その一方で懸念を強めているのが原材料の高騰。同社も前四半期比で売上総利益率を4.5ポイント低下させており、日本をはじめ米州、アジア、トルコなどでも値上げを実施する方針を打ち出した。

原材料動向について喜田社長は「中国は第3Qに原料市況がピークアウトする予想だが、在庫量や調達先によって業績への影響は地域・事業ごとに異なる」と説明。国内事業においては期初に3万4,000円としていたナフサの前提価格を4万9,000円に変更。「値上げの理解を求めていくとともに機能性や塗装性を高めた商品開発がこれから重要なポイントになる」と製品開発を競争力向上の要件に挙げた。

意匠性、機能付与技術に集中

グループ全体としては、今後もDX化も視野に生産改革や物流改革を積極化していくとしており、資本力及び経営資源を強みに市場競争力を高めていくことが予想される。

ただ低成長が予想される国内市場において競争戦略のみでは、塗料需要減退を止める手立てにはならないとの課題がある。特に今回の原材料高騰は、塗料メーカー全体に甚大な経営インパクトをもたらしており、「塗料メーカーにとってこの10年がサバイバルになる」(メーカー関係者)と指摘する声も出ている。国内市場の低迷は、業界構造を一変させる可能性も孕んでおり、国内市場を活性化するためにも需要創出が不可避となっている。

その中で同社グループは、社会課題の解決に寄与する製品開発を成長施策として掲げる。

具体的な成果として挙げたのは①トヨタ自動車との「太陽電池向け加飾フィルム」の共同開発②自動車用塗料事業におけるフィルムビジネスの本格参入③抗ウイルス・抗菌塗料ブランド「PROTECTON」④東京大学との産学協創連携⑤PROTECTONブランド「バリアックススプレー」の投入。

汎用分野に位置する「PRTECTON」ブランドは、新型コロナの感染拡大によって生み出された新技術で、新規市場としての期待が高まっている。同業各社の製品投入も活発化している現状にある。

その中で同社グループは、建築用、DIY用向けに抗ウイルス・抗菌内装用塗料4製品を投入した他、7月にスプレータイプの「バリアックススプレー」を開発。塗料化技術の応用から光触媒の固定化を実現した製品で、塗料以外の用途展開に期待する。

更に7月、東京大学との共同研究により「PROTECTON」ブランド製品が変異株を含む新型コロナウイルスへの不活化効果を確認。「市販製品で実証された意義は大きい」(喜田社長)と環境衛生技術から需要創出を図っていく方向を明確にする。

一方、自動車分野においては、太陽電池向けフィルム並びにフィルムビジネスへの参入と非塗料分野を成長領域に見据えていることがうかがえる。

武田川社長は、「単にフィルム事業に参入するだけでは差別化にはならない。当社には、自動車の高いスペック要求に応えてきたノウハウが基盤にある」とあくまでも塗料技術がコアにあることを強調。その上で「塗料で培った意匠性、機能付与技術は大きな可能性を持っている」とし、フィルム化による自動車製造工程における脱炭素化への支援や太陽電池向け加飾フィルムの用途拡大に期待を示した。

また塗料品種、塗装方式などユーザーが広範囲に及ぶ工業用においては、脱炭素化に向けた具体的な対応策を構築する考え。「まだ脱炭素化に向けて顧客側の目立った動きはないが、顧客とヒアリングを重ねながら当社としてカウンターメジャー(対応策)を提示していきたい」(塩谷社長)と商品開発や技術サービスを講じた仕組みづくりに意欲を示した。



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