柔軟・伸縮性塗料がホビー分野で"バズる"

斎藤塗料(本社・大阪市、社長・斎藤由美子氏)が2019年末に開発した2液ウレタン樹脂塗料「ウレヒーロー ラスクリ」が工業用分野からホビー分野へ需要領域を広げている。ゴムやスポンジに密着する柔軟性と伸縮性がフィギュアやコスプレを嗜好するホビー愛好者の間でヒット。今年3月に東急ハンズをはじめ、全国50店舗で販売が始まるなど、新たな局面を迎えている。


「ウレヒーロー」は、ゴム、スポンジ、皮革、プラスチック、金属、ガラスなど多様な素材に密着する溶剤系2液型ウレタン樹脂塗料として開発。250~350%の塗膜伸縮性が軟素材の動きに追従し、自己修復性、耐衝撃性、耐薬品性、撥水性などの多機能性を有する。エナメルやメッキ調などを平滑に仕上げられる意匠性も特長としている。

元々は、印刷機の給排紙に用いるゴムベルトの劣化を抑えたいというある顧客の要望から生まれた技術だが、ゴムのように伸びる塗料の特性から幅広い用途が見込めると判断。特約店と協業し需要開発に努めた。

しかし、その矢先の新型コロナウイルスの感染拡大。思うような営業活動ができない中で見出したのがTwitterやInstagramといったSNSの活用。塗装したリンゴを2階から落としたり、古いグローブを塗り替えたりと、身近なものを使った動画や画像を配信し、徐々に開発担当者からの引き合いを得ていく。感染拡大が一段落した2020年10月には「関西高機能塗料展」、同年12月に「高機能塗料展」に出展し、ブースに人が溢れるほどの反響を得た。

その後、スポーツ用品メーカーや医療関係、造形関係などさまざまな業種からオファーが寄せられる。「ゴム部品など今までデザインや意匠をつけられなかった用途に対する要望が多い」と実用化に向けた準備が今も進められている。

ただ、好調な反響に反して、本採用には相当の歳月を要することに。顧客にとっては過去に経験したことがない新規塗料だけに採用に慎重さを極める。また「事業方針の変更から途中で開発を断念した会社もあった」と長引くコロナ禍が商談に影響を及ぼした。数年先の商品化に向け、テストと改良を繰り返す製造業特有の慣行といえばそれまでだが、目立った成果が得られない状況にジレンマもあったという。

ホビー向けに活路見出す

そうした状況に転機が訪れたのは、昨年夏。Twitterのフォロワーから「フィギュアに塗ってみたらどうですか」とのツイートが寄せられ、対応したところ今までにない数の反応が寄せられた。更に11月にゴム手袋をメッキ調にする動画を投稿したところ「完全に"バズ"が発生した」と同社取締役・菅彰浩氏。"バズ(る)"は主にSNS上で使われる流行や注目度の高い状況を示す言葉だが、表示数を示すインプレッションは54万件を超えた他、動画再生回数は14万回を記録。フォロワー数は2年前の約2,300から6,100に増え、「動画を投稿した直後は、通知の多さで携帯が潰れるかと思った」ほどの反響が寄せられた。

反応を示した多くは、フィギュアやプラモデル、コスプレを嗜好するホビー愛好者。理由を調べるうちに「高価なフィギュアでも箱を開けた時点で塗装が剥がれている問題があることを知った」と今まで見えなかったニーズをつかむ。またPVCやゴムなどの軟質素材に色や意匠を付けたい潜在ニーズをあぶりだした。

そこから同社は、一気にホビー向け商品の開発に舵を切り、昨年12月の高機能塗料展で容量15mlのホビー用塗料を出展。「ウレヒーローに関しては、実際に見てサンプルを触ってもらうことが重要だと考えている」と店舗を持つホームセンターやDIY専門店に販路を求めていった。

そうした同社の販路展開に真っ先に呼応し、第1号店となったのが東急ハンズ新宿店。3月2日の発売日には、事前にSNSで告知したこともあり同品を求める客が殺到。「客の中には、この日のために地方から上京した客や東京にいる友人に購入を頼んだ客もいた」と店舗の担当者も想像以上の反響に驚いたという。

東急ハンズでの上々の滑り出しを受け、手芸、ホビー専門店として知られるオカダヤとユザワヤが店頭販売を開始。また造形や模型を扱うVOLKSやコスプレ専門店などでも取り扱いが決まるなど、1カ月あまりで店舗数は約50店舗に拡大した。「実際に商品を見てもらうには、まだまだ店舗数が少ない。まずは数百店レベルを目指していきたい」と、当面はホビーやDIY向けの展示会の出展に注力し、採用店舗の拡大を目指していく方針だ。

今回、「ウレヒーロー」の上市から一貫して同社のプロモーション活動を下支えしたのが、「塗料屋サンライズ」(本社・東京都、社長・小木曽貞幸氏)。オリジナルアニメキャラクターや自前のアイドルを通じて企業の宣伝活動を支援する代理店兼塗料販売会社だが、「サブカルを知らない我々にとっては、強力な後ろ盾になっている」と菅氏。需要家を刺激するプロモーション協業に新たな可能性を示した。



ウレヒーロー ラスクリ
ウレヒーロー ラスクリ

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