需要回復も価格転嫁は"道半ば"
2022年3月期上場大手決算

2022年3月期業績は、前年に比べ市況の回復を顕著にした一方で、原材料価格の高騰が各社の収益性に大きく影響を及ぼした。特に高騰を続ける原材料市況については、ウクライナ情勢で先読みを一層難しくしており、会見に立った関西ペイント・毛利訓士社長、大日本塗料・里隆幸社長ともに価格転嫁に強い決意をのぞかせた。エスケー化研、中国塗料を含む大手上場4社の3月期業績は、総売上高6,587億1,500万円(10.6%増)、営業利益443億6,800万円(12.1%減)となった。


第16次中期経営計画の最終年度となった関西ペイントは、売上高4,191億9,000万円(15.0%増)、営業利益300億9,600万円(3.6%減)、経常利益376億1,100万円(4.8%増)、当期純利益265億2,500万円(32.4%増)を計上。中計目標に掲げた調整後ROE10%超えは達成したものの、EBITDAマージン15.5%以上は原材料高騰に伴い、2021年度に入り急ブレーキがかかった。

地域別では、日本が売上高1,386億2,000万円(3.1%減)、経常利益143億9,100万円(7.3%減)。自動車分野は、自動車生産台数の減少を輸出が下支えし、売上は前期並み。建築分野は、家庭用塗料の需要低下により前期をわずかに下回った。

その他、インドは売上高971億3,300万円(32.9%増)、経常利益72億4,000万円(29.0%減)。欧州は売上高843億2,000万円(27.8%増)、経常利益56億800万円(7.4%増)、アジアは売上高576億3,100万円(16.4%増)、経常利益72億5,900万円(56.5%増)となった。

来期予想は、自動車生産台数の回復を見据え、売上増を見込む一方、営業利益はマイナスを予想。毛利社長は「当面は原材料価格の高騰及び地政学リスクの高まりを見越し、原価低減活動と価格転嫁をしっかり行っていきたい」と他地域に後れを取る日本、インドの価格転嫁に積極的な姿勢を見せた。

エスケー化研は、売上高882億8,200億円、営業利益104億200万円(4.6%増)、経常利益129億2,800万円(17.7%増)、当期純利益88億3,300万円(25.4%増)を計上。会計基準等の改正に伴う会計方針の変更により増加率の記載はないが、売上高は前期比約31億円増と増収増益となった。

分野別では、建築仕上塗材事業の売上高が798億1,000万円(前期760億300万円)と約38億円の増収。事業利益は7.2%増の118億2,800万円となり、改修市場における超耐久性塗料や超低汚染塗料、遮熱塗料の拡販が寄与した。

耐火断熱材事業は、再開発事業が堅調な都市部に対し、一部地域で受注が伸び悩み売上高は65億3,100万円と9億6,200万円の減収。事業利益は、7.5%減の6億4,300万円。その他事業の売上高は19億4,000万円と2億6,400万円の増収、事業利益は73.2%減の6,200万円となった。

来期は、物流コストや原材料価格の高騰により売上高910億円(3.1%増)、営業利益97億円(6.8%減)、経常利益108億円(16.5%減)、当期純利益74億円(16.2%減)と減益を見込む。

中国塗料は、売上高842億9,500万円(2.2%増)、営業利益6億8,700万円(89.4%減)、経常利益10億1,200万円(84.1%減)、当期純利益2億5,700万円(92.2%減)と原材料価格の高騰を受け、大幅な減益となった。

地域別では、日本が売上高308億5,300万円(5.9%減)、セグメント損失10億8,600万円を計上。修繕船向け及び建材用塗料の販売が堅調に推移したものの調達コストの増大が大きく響いた。

その他、中国は売上高9.5%増の176億8,000万円、韓国は同8.7%増の74億8,100万円、東南アジアは同1.3%増の117億8,800万円、欧州・米国は同9.9%増の164億9,100万円と海外事業は軒並み増収となった。

来期は採算改善を重視し、売上高830億円(1.5%減)、営業利益5億円(27.3%減)、経常利益8億円(21.0%減)、当期純利益3億円(16.6%増)を見込む。

大日本塗料は、売上高669億4,800万円(6.0%増)、営業利益31億8,300万円(12.5%増)、経常利益34億6,500万円(6.0%増)、当期純利益20億3,100万円(3.2%増)の増収増益となった。第3四半期時点の予想を大きく上回った結果に里社長は、原材料高騰に伴う価格転嫁を「道半ば」と指摘した上で「主力の構造物分野においては改修を中心に堅調に推移している」と市況の回復ぶりに手応えを示した。

国内塗料事業は売上高496億2,200万円(5.1%増)、営業利益19億9,000万円(3億5,800万円増)、海外塗料事業は売上高69億3,900万円(26.5%増)、営業利益2億3,600万円(1,500万円増)を計上した。

来期は、売上高708億円(5.8%増)、営業利益33億円(3.7%増)、経常利益35億5,000万円(2.4%増)、当期純利益20億円(1.6%減)を予想。防食、コーティングの両技術センターの収益化や特約店との受発注システムの導入に意欲を示した。

全体的には、経済活動の再開に舵を切った海外市場を中心に需要の回復傾向を顕著にする一方で、今回の原材料高騰は、収益強化に努めてきた各社の事業戦略に変化を突き付ける。特に価格転嫁を積極的に進め、収益維持を図る海外と比べ、国内市場においてはばらつきと後れが目立つ。安定経営の基盤が揺らぎ始めている。

2022年3月期連結業績



2022年3月期連結業績
2022年3月期連結業績

HOMENew Trend需要回復も価格転嫁は"道半ば"

ページの先頭へもどる