特別対談「ペイントカラービジネスの真髄」

粉体塗装のカラーデザインを強みに工業分野で存在感を示すカドワキカラーワークス(神奈川県横浜市、門脇正樹社長)。オリジナル水性塗料「Hip」をはじめとした塗料の販売にとどまらず内装のカラーコーディネートまで手掛けるカラーワークス(神奈川県大和市、森一朗社長、秋山千惠美副社長)。工業、建築内装と分野は異なるものの、ともに"色"を武器に成長を続けている。粉体カスタムを確立した門脇社長とカラーワークス事業を築き上げた秋山副社長が"色"をテーマに対談を行った。


----最初に両社の今に至るストーリーを聞かせてください。

門脇氏「私は2代目ですが、20歳のときに手伝いとして入ったのがきっかけで、当時、門脇塗装工業所という名前で、従業員は6、7人の会社でした。バスの料金箱を専門で塗装していて、20代は仕事よりも遊びに夢中でしたね。27歳のときに塗装屋は向いていないと感じて、漠然と金持ちになりたいなんて考えていました(笑)。そんなときに第1回フランチャイズ見本市が金沢で開催されることを知って行ってみたのですが、出展社数が少なくて開催中止になったんです」

「そのとき、これは神様が塗装をやれと言っていると思いましたね。そして、どうせやるなら、塗装の仕事を誇れるようになりたいと強く思って、どうすればいいのかと考えていました。ちょうどそのとき、オーストリアの粉体塗料のタイガードライラックを知り、その色数と意匠性に感動しました。それまで粉体塗装機はあったのですが、ほとんどやっていませんでしたが、これからの時代"環境"でイメージを変えられるのではないかと考えました。私は単純なので、すぐにお客さんに『今後は粉体塗装をするので溶剤はやりません』と伝えると、仕事は全くなくなりました(笑)」

「そこから営業して回るようになり、板金屋さんに行ったり、タイガードライラックの色見本帳を持ってビッグサイトや幕張メッセの展示会に通って『仕事ありませんか』と出展企業に営業していました。その際にゲームショーでデザイナーさんと知り合って仕事につながったんです」

「ただ、B to Bではなかなか決まらない状況が続いて、町中の自転車が目に留まって自転車の塗り替え需要はないかと考えました。すぐに自転車関係の展示会に出展して、パイプをカラフルに粉体塗装して飾るとかなり反響があったんです。それを機に自転車カスタム事業に着手して、オートバイや車いすに広がりました。これまでの経験から塗装で人に感動を与えられると知り、もっと世の中の人に塗装で感動を提供したいと思いました」

秋山さん「カラーで感動を与えるなんて素敵ですね」

門脇社長「ただ現実的にはそれだけではなくて(笑)。当社は横浜市の鶴見にあり昔は電気メーカーの生産工場がありましたが、すべて地方に移ってしまった。地場産業に頼れないため、付加価値を付けないと仕事がもらえないんです。そこで他がやっていない粉体塗装のカラーデザインとなりました。つまり、カラーで感動を与えたいという"カッコいい"理由と"仕事を取るには"という現実的な理由があります。今は自転車から店舗什器、家具、建築材などに広がっています。メインは工業製品ですが、カラーデザインや模様仕上げは建築に向いていると感じます」

秋山さん「建築ではどのようなものを手掛けているのですか」

門脇氏「銀座では三越など数多く手がけていて、外装パネルが多いですね。他にはマンションの軒天やエントランスといった外装建材です」

秋山さん「好奇心と行動力で今があるんでしょうね」

門脇社長「そうですね。考えるよりまずはやってみる性格ですね」

秋山さん「私も同じです。『あったらいいな』とか『こうだったらいいな』と思ったら行動しちゃっている。私は大学を出て、結婚した主人が塗料ディーラーの後継者だったんです。ですから私は全く塗料は分からなかった。主人が社長になって、私が経理もしたのですが、一番苦手な分野です(笑)。その後2年くらい事務作業の手伝いをやっていたこともありました。転機は、アメリカの塗料のベンジャミンムーアに出会って、知り合いの塗装屋さんに誘われるかたちで販売をスタートしたことですね。当社が販売元で輸入元は別です」

「あるとき私の仕事を知っていた、通っていたスポーツクラブのスタッフから『壁を塗りたいんだけどいいのある?』と聞かれたことがあって、『あるある!』と即答して、一緒に塗ったとき、受付の背景を塗るだけでイメージが変わって自分でもびっくりしました。すごく好評で他の店舗にも採用されました。そのときうちの塗料の"ウリ"は何だと考えると、カラーと(水性塗料の)環境だと思いました。取引銀行にスーパーマーケットを紹介してもらって内装塗り替えの営業に行きました。『売上が上がる』と言って(笑)」

門脇社長「そのときはカラーコーディネーターなど知識があったんですか」

秋山さん「お花をやっていたので、アメリカでそういう学校に通ったりしていましたが、実践経験という部分は全くありませんでした。ただ、そのときにすごく勉強しました。どういう色を使うとどんな効果が期待できるかとか。例えば冬にスーパーマーケットに来る人が何を求めているのか、そのときに何色を使えばいいかといったこととか。どうすれば売上が上がるのか、徹底的に考えました。その後もカラーについて勉強しましたが、私の根幹の部分はそのときのものですね。結果的に売上が上がって他の店舗の方も紹介してもらい広がりました」

「色を決定する人にアプローチしないと次の1歩が生まれない」(門脇社長)

秋山さん「設計士さんに提案すると、みんな『いいね』と言うのですが、ほとんど誰も使ってくれない。使ったことのないものは使わないんだと分かりました。色の決定をして材料を使ってくれる人に提案しないとダメなんだと。そこで出た答えが施主だったんです。決定権のある設計士か施主にアプローチしないと、私がやろうとしているものは実現できないんだって。色と環境を自分の武器にして外に売り出していくことを心に決めました」

門脇社長「仕掛けていかないとダメだと思います。板金屋さんに『こんな塗装ができます』と意匠性の粉体塗装を提案すると、『すごいね』と言われる。でもその方が色を決定するわけではないので何も変わらないんです。色を決定する人にアプローチしないと次の一歩が生まれないんですよ」

秋山さん「門脇さんも同じだと思うのですが、お客様がどこにいるのか探していましたよね。誰に売るのかを想像して。私は色見本帳を持って設計事務所やオーナーさんをまわっていきましたが、必ずいるんです、好きだと言って自分の家の一面でも塗ろうとしてくれる人が。今はベンジャミンムーアの取り扱いはしていなくて、シャーウィン・ウィリアムズやファロー&ボール、そしてオリジナル塗料のHipを販売しています。消費者にターゲットが決まっていたのでブランドを作り上げるために、グッドデザイン賞を取ったりしました。ここの銀座オフィスでは一般消費者の対応で、営業チームは設計事務所を回っています。確実に分かっているのは、おそらく門脇さんも同じでしょうが、色は相当な武器になる」

----その点で、カドワキカラーワークスさんのオリジナル色見本帳「Ki color」も武器となっているのでは。

門脇社長「そうですね。ただKi colorのきっかけは実はさまざまな塗装不良から生まれた技術なんです。乾燥炉から出てきた不良品を見て『なんかいいじゃん』ってなって、『じゃあ色を変えて再現してみよう』って作っていったんですよ。粉体塗料は黒と白を混ぜてもグレーにはならず、黒と白のポツポツになる特性があるので、色替え洗浄が十分でない状態で塗装すると、前の色が付着してそれがいい具合の模様になったりして。『いいじゃん。やってみよう』という発想から生まれました。今では専門のスタッフがいます」

「カラーで知り合うと最終的に塗料に行きつく」(秋山氏)

秋山さん「住宅の場合、部屋の色が既に決まっていたら私だったら嫌なんです。自転車だってそうですよね。自分のオリジナルのカラーデザインだったらうれしいじゃないですか。それを他の人が知ったら自分も塗りたいと思いますよね。門脇さんはそこを作っていったんだと思います。私はそれをインテリアの内装の世界で作っていった。そういう部分では共通項があるように感じますね。やっていることは違ってもやり方、目指し方、仕掛け方は通じる部分があるような気がします」

「色の提案で言うと、ディベロッパーにいったとき、販売する部屋の寝室の1面の色を決める際に『お客様に色の説明をするので塗装工事をください』と提案したことがあります。結果的にオプションではなく標準として採用してもらい、価格についてもきちんと評価してもらいました。色を決めることを付加価値として受け入れてもらったんです。お客様の要望は暮らし方によってさまざまで、暮らし方が違うと合う色も違うとマスターしました」

門脇社長「我々に関して言うと、設計事務所の要望として最近はいろんなマテリアルに飽きていて、イメージで話される方が多いんです。例えば"雨上がりのコンクリートに溜まった水溜まり"のようなとか、"木の皮を剥いだような柱を作りたい"とか言われるんです。そうすると社員たちで雨が降ったあとの水たまりを見て仕上げを想像します。設計事務所の方への提案を5回も6回も行うと、デザイナーさんもイメージが具体化してきて、指示も具体的になってできあがっていくんです。このやりとりが大変ですが、そこが当社の強みになっているんです」

秋山さん「分かります。何かデザイナーさんが引っかかる"フック"があるんですよね。そのフックをつかまないと永遠にやりとりが続くというか」

門脇氏「そうなんです。デザイナーさんや設計者さんは好みがあって、特徴をつかむことも大事だと思います。色や模様を決めているというよりも、その人の考えを読めるかですかね」

秋山さん「そうですよね。私は言葉を色に変えている。やわらかいとか優しいとか。私の場合はテクスチャーがないので少し楽なんですが、門脇さんのようにテクスチャーが入ってくると色×テクスチャーとなって相当大変ですね。いずれにしても聞いて引き出すことが必要です。その理解度が、(材料の)決定の部分に大きな影響があるように感じます。色のテクニックは勉強すれば身に付きますが、"聞き取る力"は意外と大事です」

門脇社長「塗装仕上げの相談の中には『何かいいのある?』『こんな感じでいきたいんだけど』といった具合に抽象的なケースもあり、最初から『これで』というよりはこちらからご提案することが多いです。もっと言うと、粉体塗装にこだわっている方はあまりいなくて、イメージした柄ができるなら、仕様は粉体でも溶剤でもあまりこだわりはありません。ただ最近では環境に配慮した仕様が確実に高まっています」

秋山さん「お話して思ったのは、何か変えたいとか、あったらいいなとか、お客様のためになったらとか多角度で事業を行ってきたらお互い居場所が見つかったような気がします。私たちのビジネスは、塗料からではなく色から入ると仕事が自然と来る。色を知って色で話ができると、いろんな人と知り合える。カラーで知り合うと最終的に塗料に行きつくことが多いですが、塗料だけでいくと出会いは狭められます。我々はカラーを売る会社でなければだめだとみんなに言っています」

門脇社長「建築設計者向けの展示会に出たとき、粉体塗装を知っている人は1割程度でした。粉体塗装で"こんな"カラーデザインが表現できると見せても、彼らはすごいという感覚すらない。だからパイを増やしていかないと、マーケットが広がらないという感覚があります。その意味では横の連携やネットワーク化も考えていきたいです。当社としては今後もカラーデザインを根幹に、付加価値を広げてきたいと考えています」



秋山千惠美氏㊧ 門脇正樹氏㊨ カラーワークス・銀座オフィス
秋山千惠美氏㊧ 門脇正樹氏㊨ カラーワークス・銀座オフィス

HOMENew Trend特別対談「ペイントカラービジネスの真髄」

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