老舗卸の挑戦、小売事業に参入

今年創業130年を迎える化学品販売会社のタケダ(本社・京都市、社長・竹田裕美子氏)は昨年夏、従来の卸売りに加え、オリジナル商品によるB to C事業を開始した。販売するのは、みつろう(蜜蝋)ラップキットやアクセサリー。長年の事業で培ったネットワークを活用し商品化したもので「材料屋として、伝統の裏で衰退するものづくりを元気にしたい」(竹田社長)と時代にマッチした商品開発から成長を目指している。


同社は、明治26(1893)年創業の化学品販売会社。顔料・染料問屋としてスタートし、以降工業薬品、無機薬品、塗料、樹脂、接着剤、洗浄剤、副資材と扱い製品を拡充。「依頼があれば、みかん1個でも販売する」と顧客ニーズに寄り添う小回り力で顧客を増やし、最盛期の取引顧客数は約1,000社。扇子の骨を染色するための染料や茶筒の金属加工に用いる材料など、ニーズに応える仕入れ力を強みにしてきた。

しかし織物、染物、仏具など京都を代表するものづくりも時代やライフスタイルの変化とともに需要が減少。毎年数千万人の観光客が訪れる様相も「非日常として着物を楽しむ姿は見られても、日常で着物を着る習慣が戻ることはない」と竹田社長。時代の変化を冷静に捉え、20年前には単一溶剤の保管のために地下タンクを併設していた危険物倉庫を売却。人員体制も定年退職者の補充を取り止め、縮小均衡路線を強めていった。

ところが予期せぬ事態が待ち受ける。新型コロナの感染拡大だ。

度重なる緊急事態宣言で事業環境が激変する中、「競争の激しい製品を扱っても利益が悪化するだけ。同業他社とは一線を画し、当社のサービスを求める顧客のみに取引を絞った」(竹田社長)と汎用品からの撤退を決断。結果的に売上は減少したが、利益を残したことで「新事業にチャレンジするには、今しかないと考えた」と補助金制度を活用し、以前から構想していた小売事業参入に踏み切った。

目利き力と企画力で勝負

昨年8月、本社建屋を全面改装し、創業者(竹田社長の曽祖父)の名をあしらった「ギャラリー竹田千藏商店」を設立。一般倉庫に併設していた危険物倉庫も廃止した。

店内は、倉庫として使い続けてきた土間や鉄扉をそのまま生かし、内壁をしっくい塗料で塗装したことで昭和モダンの雰囲気を演出。商品の陳列棚は、清水焼の素焼きを運ぶ板を利用。板を支える鉄製のフレームも地元の職人に製作を依頼するなど、店舗に設置された造作すべてに顧客との関わりが見える。

そうした顧客を含む取引先との関係性を生かした取り組みは、商品開発にも貫かれている。布に蜜蝋を塗布し、食品ラップとして使う「みつろうラップキット」の開発は、着物のろうけつ染め向けに蜜蝋を販売していたことがきっかけ。蜜蝋の販売実績が用途開発に弾みをつけた。

また、もう1つの主力製品であるアクセサリー類も仏具の装飾に用いる錺(かざり)金具の技術を取り入れたのが特色。糸鋸を使って銅板に繊細な細工を施す伝統工芸でアクセサリーへの転用に新たな商機を狙う。

いずれも同社の企画によるオリジナル商品だが、商品化のためのデザイン、製作は取引先との関係が土台となっており、同社自らがBtoC需要を創出することで仕入れ先、顧客に貢献できるとの考えがある。

オリジナルブランドによる小売り挑戦について竹田社長は、「材料卸との相乗効果を期待している。電子部品や自動車部品を製造している顧客をメインにする傍ら、伝統工芸に携わる顧客も多くいる。そうした顧客に対しても技術継承の一助になれば嬉しい」と説明。販売会社としての強みである営業ノウハウや目利き力、企画力を生かし、時代のニーズにマッチした商品開発に成長を見据えている。

販売に関しては、店舗及びネット販売を主体としつつ、展示会の出展を通じBtoB需要も拡充する方針。また近い将来には、海外にも販路を広げていく考えで「今年は新商品として、インテリア商品と食器の発売を予定している」と観光需要の回復を受け、商品アイテムの拡充にも意欲を見せる。



竹田裕美子社長
竹田裕美子社長
店舗外観
店舗外観
昭和の雰囲気を漂わせる店舗内観
昭和の雰囲気を漂わせる店舗内観

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