産業界の最新動向を塗料業界の糧に

塗料産業が直面する課題や最近のトピックスを取り上げる「塗料産業フォーラム」が昨年12月12日、東京塗料会館においてウェブとのハイブリッド形式で開催された。34回目の今回は、厚生労働省からの最新の法改正情報をはじめ、製品含有化学物質・資源循環情報プラットフォームの概要と進捗状況、自動車サプライチェーンでのカーボンニュートラル(CN)への取り組み、環境負荷低減に貢献する塗料に関する各種試験結果の報告が行われた。


労働安全衛生法の進化と新時代の化学物質規制
~法改正で変わる職場の安全管理~

厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課化学物質評価室室長補佐の植松宗久氏が講演を行った。

現在、労働安全衛生法における化学物質に関する規制の見直しが進んでいる。植松氏はその背景に職場における化学物質管理の課題があると指摘。「化学物質に起因する労働災害は年間約500件発生している。このうち、特化則や有機則といった特別規則の対象外の物質が原因のケースは全体の約8割に上っている。こうした傾向が見直しの要因となっている」と説明した。

これまでは特別規則対象物質に対し一律に規制が行われていたが、令和6年4月以降は危険・有害性が確認されたすべての物質を対象に状況に応じて規制する方針となり、現在も関連事項の整備が進行中だ。

労働安全衛生法における新たな化学物質規制では、危険有害な化学物質を譲渡・提供するメーカーや卸売などに対し、①名称や人体に及ぼす作用などの危険有害性情報のラベル表示②譲渡・提供する相手方に文書(SDS:Safety Data Sheet)を交付しての危険有害性情報の通知という義務が課されている。

他方、譲渡・提供を受けたユーザー企業などは、③ラベルやSDSの情報を踏まえた危険性・有害性の調査(リスクアセスメント)の実施④調査結果に基づき保護具の使用といった必要な暴露低減措置が義務化されている。

ラベル表示やSDS交付が必要な物質は、令和8年4月から合計約2,900物質(国によるGHS分類での計上)となり今後も増えていく見込み。

また、SDSの「成分及びその含有量」の記載は重量%での表記が原則となる。成分含有量が営業上の秘密に該当するケースについて、植松氏は「特化則や有機則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則の対象物質以外では、重量%の通知を10%刻みの範囲で行うこともできる」と説明。一方で「10%~100%のような幅を広く取った表記が行われている場合があると聞くが、これは誤り。ルールを守っていただきたい」と注意を促した。

こうした状況を踏まえ、令和7年通常国会での安全衛生関係の法改正の概要について3つのポイントを挙げた。

1つ目は、ラベル・SDSによる危険性・有害性などの情報通知義務に罰則が設けられたこと。今までは努力義務規定だったが、より厳密になった。

2つ目は、化学物質の成分名が営業上の秘密である場合、一定の有毒性の低い物質に限り代替化学名などの通知を認めること。なお、あくまで代替は成分名に限り、人体に及ぼす作用や応急措置などは対象としない。

3つ目は、化学物質の個人曝露測定を作業環境測定の1つに位置付け、作業環境測定士による適切な実施を義務付けたこと。精度の担保が狙いとなる。

製品含有化学物質・資源循環情報プラットフォームCMPについて

CMP(Chemical and circular Management Platform)とは製品に含まれる化学物質情報及び資源循環情報を川上から川下につなぐ情報伝達の仕組みのことで、将来はあらゆる製品の環境情報への活用が見込まれている。日本化学工業協会化学品管理部部長の西村杉雄氏がCMPの概要や導入メリット、今後の開発スケジュールなどについて解説した。

現状の情報伝達の形態は、新規製品調査などの問い合わせが発生した場合、川下企業(完成品メーカー)から川中企業(材料メーカーや部品メーカー)を経て川上企業(化学メーカー)に至り、その回答は逆の経過をたどり川下企業に伝わっていく「バケツリレー的な仕組みになっている」と説明。これに対しCMPが目指す仕組みは「関連情報のサプライチェーン全体への一括送信により、シームレスで迅速な情報伝達が実現する」イメージとなる。

また、製品含有化学物質の情報をサプライチェーン全体で共有する既存の仕組みである「chemSHERPA」や、自動車業界で運用されている材料データベースのIMDS(International Material Data System)との連携・情報互換性を持ち、情報伝達システムの統合化も構想されている。

更に、欧州ESPR規制(持続可能な製品のためのエコデザイン規則)を念頭に、製品の資源循環情報などのバリューチェーンでの効率的共有にも取り組む。かつ、製品含有化学物質の情報伝達に関する国際標準(IEC/ISO82474)の内容の盛り込みによるグローバル連携も見据えている。

CMPの具体的なメリットの1つとして、西村氏は「電気電子や自動車といった各業界の調査依頼を統一できること」を挙げる。
「個社様式をCMPに乗り換えることで、バラバラの様式から生じる不都合を解決できる。例えば、現状は個別メールでの調査依頼やシステム登録依頼に対応しており、依頼様式もさまざま。また最終製品の用途により異なる調査様式を使う必要もある。これに対し、CMPのルールに基づく調査様式、連携システムによる依頼・受付に統一できることで、個社様式に関する顧客対応から解放される」と説明した。こうしたメリットは、より多くの企業の参画で広がっていくという。

2025年10月にCMPの運営組織であるCMPコンソーシアムが設立された。前身のCMPタスクフォースとchemSHERPAの運営を担っていたJAMPが一体化して構成されたもので、設立当初から558社が参画する大きな組織となっている。

今後、CMPコンソーシアムが中心となり、2026年3月末~9月の期間に大規模実証を行う見込み。「CMPシステム全般の操作性検証、うれしさ確認」を目的としている。

自動車サプライチェーンのカーボンニュートラル

トヨタ自動車サプライチェーン戦略部戦略室1グループ主幹の金丸大地氏は、同社のCNやサーキュラーエコノミー(CE:Circular Economy)に関する取り組みをオンラインで講演した。

金丸氏は冒頭で「日本には日本のエネルギー事情に応じたCNがある。グリーンエネルギーの導入といってもすぐの実現は難しく、単にガソリン車を禁止すればCNが達成できるものでもない」と指摘。環境対応の議論が盛んな欧州などの海外動向に気を配りつつも、日本に合った取り組みも大切との視点を示した。

トヨタ自動車の基本的な考え方について、金丸氏は「電動化比率向上がゴールではない。LCA全体のCO2削減に向けて選択肢を狭めずに全方位で対応していく。あくまで敵は炭素であり、炭素を減らすために現実的かつ持続可能な技術の可能性を追求する」と説明。BEV、PHEV、HEV、エンジン(ICE)、FCEVといった多角的な検討を進めるスタンスだと述べた。

同社のCO2排出量実績では、ユーザーの製品使用時のCO2排出量が最も多いが、この対策は着実に進んでいる。新車のCO2排出量について、2019年には2000年比で30%削減している。今後、2035年に2019年比で35%の削減を実現する方針だ。

一方、工場での製造時のCO2削減について、具体的事例として塗装の技術革新を取り上げた。「従来のエアスプレー式塗装機では飛び散る粒子が多く塗料の塗着効率に課題があった。これに対し、2017年導入のエアレス塗装機は、静電気の作用を活用し飛散粒子を微量化して塗着効率を向上させた」と説明。これにより従来比約7%のCO2削減を実現したとのこと。

仕入れ先とのCO2排出量削減活動にも力を入れている。LCA全体での排出量のうち外注品が4割を占め、かつ素材製造過程の排出量が大半を占めていることが課題となっている。

これに対し、現状をより正確に把握するための「見える化」と「減らす取り組み」を推進。「見える化」については品目別の排出量算出ルールの統一化などに取り組んでいる。また「減らす取り組み」の例として、同社の内製部隊が仕入先の工場で協力して改善活動に取り組んでいる事例を紹介した。

CEの状況についても言及。同社では日本・欧州での生産車について、2030年の再生材使用率30%を目標に掲げている。

取り組み上の課題に国内の廃車車両が限られることがある。新車国内生産が968万台/年のケースでは、国内向けに486万台が流通し、国内中古車市場から130万台が海外に流れ、結果的に国内の廃車は336万台と生産台数の3分の1となる。また日本の解体業者は地域密着型の比較的規模の小さい事業者が多く、効率的な資源回収の観点でも難しさがあるという。

金丸氏は「日本独自の事情によるこうしたハードルはいくつもあり、乗り越えていくには個社だけでは難しい」とし、産業界での幅広い連携によりCN、CE、更にはSDGsを進めていきたいと呼びかけ、講演を結んだ。

建築業界を取り巻くカーボンニュートラルの現状と塗料が担う役割

大林組技術本部技術研究所生産技術研究部の高橋晃一郎氏と奥田章子氏が登壇。最初に高橋氏が「外装用木材の耐久性向上技術の検討」をテーマに講演し、次いで奥田氏がバイオマスフィラー添加塗料「スキャロップペイント」の概要の解説を行った。

現在、建築業界では公共建築物のみならず民間でも木材の利用が広がっている。木造建築物のCNにおける重要な役割は木材に含まれるCO2の貯蔵(固定)で、そのためには長寿命化が不可欠となる。高橋氏は長寿命化の要点として「木は自然素材のため、紫外線や雨、温度などの気象劣化による塗料の変色のみならず、カビや菌類による生物劣化での木自体のひび割れや腐食も防ぐ必要がある」と説明した。

こうした背景から、今回、さまざまな腐朽処理を行ったスギ材に造膜型や半造膜型、浸透型の塗装を施したサンプルを用いた実験結果を報告した。

その結果、色差や表面粗さといった評価軸で造膜型は良好な結果となるなど、塗膜タイプによってカバーできる機能が異なる傾向がみられた。高橋氏は「まだ検討中の段階だが、求める機能やコストに応じた塗膜選定の手掛かりになる可能性がある」と説明した。

一方、生物劣化の検証を目的として、防腐処理と無処理のスギ材サンプルを用いた屋外暴露試験も実施している。一連の実験結果について「実際の木質建築物では、表面の塗装だけでなく下地木材の腐朽菌による劣化が大きい。特に劣化の起点となる木口(切断面)の保護は大きなポイント。木材の保護は塗装技術と防水技術の複合化が重要」とまとめた。

奥田氏はCO2が固定化されたブルーカーボン(沿岸・海洋生態系の光合成によって蓄積された炭素)を活用した環境配慮型塗料「スキャロップペイント」の開発に向けた取り組みを紹介した。ブルーカーボンを含むホタテ貝殻を低温で破砕し、炭酸カルシウムをバイオマスフィラーとして添加すると、塗料の製造に係るCO2排出量削減に寄与できるという仕組みだ。

性能評価検証では、ホタテ由来バイオマスフィラーを水性フッ素樹脂系塗料に0%、10%、20%添加し、それぞれをスレート板に塗装したサンプルを使用。20%まで添加しても塗料性状に異常はなく、塗装性・仕上がり性も良好だった。また、温冷繰り返し試験でも耐水性や耐熱性に異常はなく、塗膜付着性も問題なかった。

バイオマスフィラーの応用製品として、セメダインと共同開発した2成分形変性シリコーン系シーリング材「スキャロップシール」を既に実用化している。「外壁塗装はスキャロップペイント、目地はスキャロップシールとすることで、環境配慮型の外壁が実現できる」と今後の展望を示した。



植松宗久氏
植松宗久氏
西村杉雄氏
西村杉雄氏
高橋晃一郎氏
高橋晃一郎氏
奥田章子氏
奥田章子氏

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