塗膜高機能化で新分野に訴求

日本塗装技術協会は7月12日、日本ペイントホールディングス東京事業所で「2019年度第1回講演会」を開催した。「塗膜高機能化への技術展開~360°からのチャレンジ~」をテーマに、塗膜性能の高機能化や、それを補助する周辺技術について講演が行われた。約100名が参加した。


ディスプレイ用ぎらつき抑制
アフロディ/日本化工塗料

初めに光学測定機器の保守・販売を行うアフロディ・代表取締役CEOの嶋秀一氏が、ディスプレイ表面に発生する「ぎらつき」を解説した。ディスプレイの画素と、表面に凹凸を形成し光を散乱・反射させることで映り込みを防止するアンチグレア(AG)フィルムとの間に光干渉が発生。ディスプレイ上に異なる輝度の画素が生まれることで、ぎらつきが見えると説明した。

続いて日本化工塗料・高機能性製品事業本部の清水大介氏は、「ディスプレイ用ぎらつき抑制アンチグレアコーティング剤の開発動向とぎらつきの定量化手法」の題で登壇した。

同社は、ナノ~マイクロメートルサイズの微粒子を樹脂溶液中に分散。その後溶液をフィルムに塗布することで凹凸形状を作製する微粒子分散法を採用し、AGコーティング剤を開発した。

画素数の細かさに合わせて含有する粒子径を調整することで、光干渉による画素ごとの輝度差をなくし、ぎらつきを防止。また耐光性に優れるアクリル樹脂や、艶消し性が良好なシリコンなど各特性を持った樹脂を使い分け、スマートフォンの保護フィルムや液晶テレビなどの用途に展開している。

清水氏は「ディスプレイの進化に対し、今後は硬度と柔軟性・成型性の両立が課題」と講演を締めくくった。

耐熱レジストインキに応用
オキツモ

オキツモ・技術統括部課長の森長義博氏は、耐熱塗料技術の最新応用例としてシリコーン系白色耐熱ソルダーレジストインキを解説した。

同インキは、プリント配線基板の保護や絶縁を目的とした技術。一般的にはエポキシベースのインキが使用されるが、デバイスの高機能化に伴い熱対策が必要になっている。またLED基盤においても、ハイパワー化やUV-LEDの登場により、熱や光による変色対策や被膜劣化対策が求められている。

耐熱塗料の技術を応用した同インキにより、基盤の耐熱性が向上。実装時の熱負荷による反射率の低下もほとんどなく、耐UV性を持ち殺菌灯代替LED照明器具にも使用できる。

森長氏は、ディスプレイのバックライトやスタジアムの大型照明への採用が想定され、電子機器など新分野への展開が期待できると伝えた。

X線透過による非破壊検査
東芝ナノアナリシス

東芝ナノアナリシス・技術本部の照井裕二氏は「塗膜開発を支える非破壊検査技術」の題で、3次元X線顕微鏡の概要や観察・分析事例を紹介した。

同技術は、試料に対してX線を照射し、透過したX線を観察する。一般的なX線透過観察に加えて、光学レンズを通し光学拡大することで、高分解能かつ高コントラストな観察が可能。またコンピュータ断層撮影により3次元像を構築でき、各方向からの断層イメージを非破壊で得られる。

観察事例では、CFRPの内部空隙(剥がれ)を3次元像で確認し、内部の炭素繊維の配向や密度、樹脂中の空気層を観察。その後の分析事例では、観察から得た情報をデータ処理することで、それぞれの分布状態を数値化した。

EB硬化技術の展望
住重アテックス

住重アテックス・新規事業室の山瀬豊氏は「電子線の工業利用の現状と今後の展望」のテーマで、同社の電子線照射サービスについて紹介した。

物質の表面に電子線を照射することで、物質の原子に電離作用を起こしイオン化させる。架橋や重合、分解反応によって物質の特性を改善、または新しい機能を与える技術と説明した。

塗料関連での改質事例では、プレポリマー/モノマーからなる液体樹脂に、電子線照射することで樹脂を固定化する電子線キュアリング(EB硬化)を紹介。無溶剤の樹脂を短時間で硬化できる他、光開始剤を使わないため、高耐久・高耐候な塗膜を形成できる。

山瀬氏は電子線利用の展望について、「(環境対応の観点から)今後は、印刷や塗装の分野での活用も期待される」と述べた。

電装部品向けハードコート
日本ペイント

日本ペイント・オートモーティブコーティングスの小林和人氏は「自動車電装部品向け機能性UVハードコート」の題で登壇。同社のコア技術として、コーティング表面に無粒子で凹凸を形成し、外光による映り込みを抑制、視認性を高めるマット意匠を紹介した。

同技術は溶媒に対する溶解度が異なる樹脂成分を2種以上溶解し、その後溶剤を揮発させる。溶解しやすい樹脂と溶解しにくい樹脂とで相分離が発生し、その際に形成された表面の微細な凹凸によって艶消しの意匠を表現する。塗膜内に粒子を含まないため、内部での光散乱を抑え、高い写像鮮鋭性を発揮。また均一な凹凸を形成するため、塗膜上に均等に負荷がかかり、タッチペンによる摺動耐久性にも優れる。

その後、同技術を応用したフィルム加飾プロセス「アフターキュア型UVハードコート」を解説した。

フィルムにUV照射なしで指触乾燥するUV硬化型のハードコートを塗布し、未硬化の状態で巻き込む。断裁、印刷加工後に圧空成形でプレフォーミングを施すと、成型熱によって塗膜が平坦に修復される。その後UV照射することで高硬度かつ耐薬品性に優れ、高延伸可能な塗膜を実現。複雑な形状に対応し、デザイン自由度が向上した。



講演会の様子
講演会の様子

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