沖縄県の観光客数は、年間で1,000万人に迫る勢いだ。2018年度の入域観光客数は999万9,000人で前年度より4.4%(約42万人)増え、6年連続で過去最高を記録。外国人観光客も急増しており、観光客の3割を超える300万人を突破した。前年には、同年のハワイの観光客数を初めて上回り、いまや世界有数の観光都市に成長している。

また沖縄県は人口が増加している数少ない地域でもある。今年7月現在の推計人口は約145万人で、その増加率0.43%は東京都に次ぐ高い数値となっている。しかも、出生児数から死亡者数を引いた自然増減が全国で唯一プラスなのに加え、移住者による社会増減でもプラスを維持。地域やコミュニティーで助け合って子育てをする風習が色濃く残っており、子供を産みやすい環境にあることが全国平均(1.42人)を大きく上回る特殊出生率(1.82人)にも表れている。

このように、観光客数の急増、人口増といった背景を受け、沖縄では建設ラッシュが続いている。「ホテルやマンション、商業施設などの建設が目白押し。宮古島では建設工事の職人の急増でアパートの借り上げだけでは足りず、寝泊り用にコンテナを運び入れている始末」(塗料販売店)と状況を説明。

那覇近郊の浦添市の再開発、モノレールの延伸計画、大型コンベンションセンターを中心としたMICE計画などビッグプロジェクトが控えている沖縄本島を始め、リゾートホテルの建設ラッシュが続く先島諸島まで建設需要に沸いている。工事に携わる職人も当然県内だけでは足りず、九州や本州から多くの職人が移動。それらによる現地での消費もまた経済を潤す循環になっている。

メンテナンス意識の揺りおこしが鍵

総務省及び経産省がまとめている「経済センサス‐活動調査(平成28)年」によると、沖縄県の塗料卸商による年間販売額は約108億円。前回調査(平成24年)の71億円から52%増加した。

需要分野別ではやはり建築用塗料が主流で6割以上を占めると見られている。次いで自動車補修が2割弱、重防食1割強と続き、その他船舶用や工業用といった順。県内には製造業が少ないので、他の地域に比べて工業用塗料が少ないのも沖縄県の特徴だ。また、「塩害によって補修サイクルが短いのに加え、外国人観光客によるレンタカーの事故も多く、自動車補修塗料の需要が根強い」のも沖縄ならではの特徴といえるかもしれない。

塗料需要の主力である建築用では、前述の建設ラッシュの恩恵はあるものの、新設物件ではパネルなどの乾式工法が主流のため、期待ほどには膨らんでいない。建築塗料に関してはやはり改修、メンテナンス需要が主体になる。

沖縄の建物の構造は独特だ。台風が多いため住宅など低層の建物でも鉄筋コンクリートの壁と陸屋根形状が多い。このため外壁は塗装、屋根(屋上)は防水仕様が一般的。本州のようにサイディングの外壁やコロニアルのような化粧スレートの屋根材はあまり見かけない。「風雨が強烈なためサイディングや薄い屋根材では耐えられないのではないかと本能的に敬遠される」とのことだ。

「強い紫外線、塩を含んだ海風、頻発する台風など建物にとっては厳しい条件ばかり。だから他のどの地域よりもペイントの必要性が高い」と塗料販売店の経営者。

過酷な気象環境によって建物や施設のメンテナンスサイクルが短く、塗料需要を支えているが、一方で放ったらかしになっている建物も多い。街を歩くと、塗膜がなくなり黒カビが発生、錆が積層しているような建物も数多く見かける。

県民所得との兼ね合いもあるが、建物のメンテナンス意識が希薄な側面も垣間見え、それをどう掘り起こしていくかも県内の塗料・塗装関係者の課題。一目しただけでも"塗りごろ"の物件がひしめいているだけに、メンテナンス意識の向上につなげ需要を掘り起こしたいところだ。

ちなみに、沖縄は戦後、アメリカの占領が長かったため、"塗料"よりも"ペイント"という呼び名で市民に親しまれている。厳しい気象条件でメンテナンスの必要性も高いため、DIYで塗装する人も多い。こうした、ペイントと市民の距離の近さをうまく利用して塗料・塗装需要の活性化に誘導できれば、全国の他の地域に向けたロールモデルにもなる。