社会課題解決"協創"で挑む

日本ペイントホールディングスと東京大学は、産学協創協定を締結し、抗ウイルス塗料・コーティング技術をはじめ、社会課題の解決に寄与する研究開発に挑む。両者が目指すのは、SDGsを基点とした安全、安心、快適な社会づくり。「知」の結集による社会実装を目指す東大に対し、日本ペイントHDは、大学の持つ豊富な研究蓄積を活用し、塗料R&Dの革新を図りたいとの期待がある。


5月18日、日本ペイントホールディングス(以下日本ペイントHD)と東京大学は、産学協創協定を締結し、2020年10月から2025年9月までの5年間、東京大学大学院工学系研究科(代表教員・脇原徹教授)と社会連携講座及び共同研究を実施することを発表。日本ペイントHDは活動資金として約10億円を支援する。

「革新的コーティング技術の創生」を講座名とする社会連携講座で研究テーマに据えたのは、①抗菌・抗ウイルス機能を有し、感染拡大防止を実現するコーティング技術の研究②将来予測されるスマート/リモート社会の基盤を支え、社会の効率性向上に貢献するコーティング技術の研究③環境負荷低減/社会コスト抑制に貢献するコーティング技術の研究の3分野。日本ペイントの実用化技術開発力と東大の研究成果を融合させることで、革新的コーティング技術かつ表面処理技術を創生したい考え。具体的には新たな機能を有する塗装材料の探索や塗料設計、塗装プロセスの革新に寄与する物理的・化学的プロセスの解明や制御技術の確立に取り組み、必要な知識と技術を習得した高度人材の育成にも注力する。

今回、連携に至ったのは、双方ともSDGsの実現をビジョンに掲げていることにある。

東京大学は、2017年にSDGs達成に向けた誰もが活躍できるインクルーシブ(多様性の尊重)な社会づくりを目的とする「未来社会協創推進本部」を設置。学内の「知」の結集と学内外連携により、技術の社会実装のためのパートナーを探索していた。

対する日本ペイントHDもESG、SDGsを経営の中核に据え、今年1月1日付でR&D本部を社長直轄の組織に再編。「当社は日本だけで1,000人を超える技術者がおり、これまでの"お客様の要望に応える技術開発"に加え、新たに"社会課題を解決するための技術開発"が重要」(田中社長兼CEO)との方針を打ち出している。

産学連携自体は、これまでも例があるが、社会課題の解決から研究テーマを選定する手法は稀。今回の提携と意義について、プロジェクトを管掌する日本ペイントHD常務執行役・喜田益夫氏(日本ペイント代表取締役社長)に聞いた。

社会ニーズに応える開発体制

----抗ウイルスコーティングの開発が反響を呼んでいます

「準備を進めていた昨年の時点では、抗ウイルスの社会ニーズは大きくなかったですが、今は最も緊急度の高い社会課題と受け止め、開発に着手することにしました。当然ワクチンの開発も待たれるところですが、新たな感染拡大のリスクを低減する上でも有用な技術になると捉えています」

----貴社単独での研究開発も可能と思われますが、大学と連携する意義をどう捉えていますか。

「重要なのは、開発の基点を社会課題の解決に据えていることにあります。もちろん当社は塗料・コーティングに関する知見を豊富に持っていますが、東京大学には、素材から加工プロセスに至る多様な学問分野で卓越した研究成果が多くあります。そうした相互に蓄積された技術や知見を共有することで、革新的なコーティング技術並びに表面処理技術を創生することに意義があります。更にさまざまな社会課題の解決に向け、塗料・塗装という枠から抜き出して考える必要がありますね」

----経済価値を追求してきた企業の価値観が変わるということですか。

「確かに今回の協創は、社会課題の解決という新たな基点に立っています。ただ、企業として経済価値の追求を否定するものではありません。むしろ、これからは社会課題の解決に貢献しなければ、当社が目標に掲げている株主価値の最大化にもつながらないという目線が重要だと認識しています」

----やはり新型コロナウイルスの感染拡大が影響しているのでしょうか。

「コロナ終息後の世界を"ニューノーマル(新常態)"と呼ぶ声もありますが、もはや以前と同じ状況に戻るということはないでしょう。コロナ禍でテレワークやネットショッピングの存在感が高まったように、企業でも仕事の進め方が変わるはずです。1人の感染者がサプライチェーンに多大な影響を及ぼすことが分かったことで、デジタル化に一層拍車がかかると思います。東京大学との産学協創協定では、抗ウイルス塗料・コーティング技術の開発の他、リモート社会、環境負荷低減を研究テーマに掲げています。社会の変化とともにこうしたニーズが浮上することを想定しています。その意味で、特定の分野に依存しない大学との連携は大きな意義があり、今後多種多様な企業・機関との"協創"に広がっていくことを期待しています」



 東京大学総長・五神真氏(左) 日本ペイントHD社長兼CEO・田中正明氏(右)
東京大学総長・五神真氏(左) 日本ペイントHD社長兼CEO・田中正明氏(右)

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