塗料塗装普及委員会(日塗工、日塗商、日塗装)は2月6日、建築塗料・塗装セミナーを東京塗料会館とウェブ配信の同時開催で行った。このセミナーは建築塗装分野における動向やトレンドについて講演が行われ、今回は近年、建築塗装現場で喫緊の課題となっている人材確保・育成についてのテーマも取り上げられ注目を集めた。

人材に関して、「海外を通して見えた日本の建設人材確保・育成の未来」をテーマとして、「ドイツ・ベルギーにおける建設人材の処遇と育成制度について」(日塗装・伊藤龍平氏)と「技能実習・特定技能による外国人材の受け入れ~インドネシア視察や自社の状況を踏まえて~」(日塗装・若宮昇平氏)の2講演が行われた。

伊藤氏は昨年10月に視察した複数の関連機関について報告した。その1つであるドイツの教育機関・マンハイム教育センターでは、道路や下水道、配管の研修を実施しており、企業からの推薦で社員が3年間のプログラムを受講。隔週で教育センターと会社での仕事を繰り返し、16歳から30歳の常時50~60人が学ぶ。3年間の研修を修了すると給料は倍に増えるという。なお、マイスターになると労働協約により基準の給与が定められている。

また、ベルギーにあるEU・DG-GROW(欧州委員会成長総局)は、欧州委員会の組織の1つで日本の省庁に相当する組織。ここでは建設産業のビジョンの作成、建設労働人材の確保・育成策に企画立案などを行っている。伊藤氏は「今後の変革期の方向性を策定するにあたって、技能工の問題が最も重要との認識。高齢化、高度技能者が必要と認識している」と説明した。

伊藤氏は視察を通じて「職人の賃金が日本よりドイツ、ベルギーの方が高いことが分かった」としつつ、物価も日本の2~3倍であることを指摘した上で、「賃金と物価の相対が同じなら物価が高い分GDPは上がるので国力は上がる」との見方を示した。

続いて若宮氏が登壇。若宮氏が社長を務める若宮塗装工業所(石川県金沢市)ではミャンマーの技能実習生の受け入れを行っている。ミャンマーを対象とした理由は、東南アジアの物価・賃金上昇と円安基調の状況下、ミャンマー通貨が下落し日本円でも競争力があることと、温和や穏やか、真面目といった性格面で日本に適応しやすいと考えたため。

若宮氏は動画を用いて技能実習生の仕事の様子を紹介し、その中で「彼らは標準語で日本語を学んでいるので、方言で話すと分からなかったり、現場で早口や大声で指導すると怒られていると誤解し萎縮してしまう」と説明。そのため、毎月全社員を対象に教材を使って正しい日本語の使い方について学び、「我々職人の意識も変わる必要がある」と指摘した。

更に受け入れが決まった実習生の訓練動画を取り寄せて事前に見て、顔と名前を覚えるようにして彼らがなじみやすい環境作りを心掛けている。

また、日塗装としては、海外の送り出し機関と提携し指導員派遣の検討などを行っていく。「外国人材を受け入れる手順などが分からない事業者が多い。業界団体が率先して情報提供を行う必要がある」と今後の展望を語った。

建築塗料の動向

一方、建築塗料のトピックスとしては「建築塗料市場の最新動向」(日塗工・津村昌伸氏)と「低VOC塗膜性能調査のまとめ」(東京都環境局・荒井来途氏)の講演が行われた。

津村氏は近年の新設住宅着工数の推移についてグラフを用いて解説し、「2021年3月以降、コロナ禍からの需要回復傾向が続いていたものの、2022年になり再度落ち込み、その後は低調」と説明し、その要因として資材高騰や現場の人材不足などを挙げた。

建築塗料について、数量は2018年度まではほぼ横ばいで2020年に落ち込みが見られる。一方、金額は2021年から上昇傾向が続いている。

また、内装用塗料(EP)について「建築塗料全体の5~6%であるが、2009年以降は増加傾向が見られる」と説明した。2023年度のEPと壁紙の施工面積は、壁紙が約6億400万㎡に対しEPは約9,000万㎡にとどまっている。ただ、その割合ではEP/壁紙が前年よりも0.7ポイント上昇している。その他に日塗工の取り組みとして、高反射率塗料普及WGや鉄部工事高耐久水性仕様検証WGなど活動を紹介した。

続いて荒井氏は東京都が実施した低VOC塗膜性能調査について報告。重防食塗装仕様において、水性、水性+溶剤、溶剤の各仕様の暴露試験結果を示した。暴露期間は2010年から2020年の10年間で、外観調査では水性仕様の一部のパネルを除き溶剤系との差は見られなかった。

荒井氏は「基準となる溶剤の塗装系と比較して低VOC塗装系に同等の性能を有するものであることが分かった」と今回の結果を考察した。