太陽光パネルの製造販売を行う京セラは、屋根材メーカーや塗装店と協業し、既存住宅に対する営業展開を本格化している。屋根改修時に架設する足場を共用し、同社が2023年に構築したパネル設置費用、パネル代などの初期費用をゼロにするサブスクリプション(定額課金)サービスを提供している。屋根改修工事と太陽光パネルのセット展開で住宅向け需要の底上げを図る狙いだ。
塗料需要を奪う競合相手となるか、はたまた改修需要を喚起する共存関係になり得るか。1993年に国内初の住宅用太陽光発電システムを販売した京セラが塗装店や屋根業者との連携に乗り出す。屋根改修工事との連携を成長策に据えた。
同社が改修工事会社との連携を本格化する背景には、新築住宅需要の減少もさることながら、太陽光パネルに対する消費者の価値変化がある。
新設住宅着工件数において令和6年の総戸数は約79万戸、持家系は約22万戸とピークの平成18年と比べて約4割の水準まで減少した。
現役世代の減少や建築費の高騰が需要低下の要因に挙がるが、今後も新築需要の低下が確実視されている。かたやFIT制度(固定価格買取制度)に支えられてきた消費者の導入意欲も売電価格の下落により、投資対効果を目的とした当初の導入メリットも失われつつある。
そこで同社が着目したのが、節電、BCPに訴求する自家消費を目的とした需要喚起。高騰を続ける電力代を太陽光パネルと蓄電池の設置により、施主のコスト負担をカバーするサービスに活路を見出した。
具体的には、パネル代、設置費用などの初期コストを実質ゼロにするサブスクリプションサービスを提供。購入者とっては、10年、15年と契約期間に応じた月額料金が発生するが、太陽光パネルで生み出した電気を自家消費に回すことで本来かかるはずの電気料をほぼ相殺することができる。更に契約期間終了後は、そのまま利用者に無償譲渡されるため、施主は電力費の支出を抑えたまま、必要電力を確保することができる。
既に同業他社もサブスクリプションサービスを展開しているが、初期費用のコスト負担においては同社の強固な財務基盤をベースに、クレジットカード会社に与信を託すことで、与信に類する面倒な手続きを簡略化した。また売却などにより居住者が変更した際も再手続きなしでの継続利用を可能にした。同社エネルギーソリューション事業部住宅みらい推進部戸建推進課の坂本雄司氏は「あらゆる事態に対応するため、この仕組みを構築するのに7年かかった」とコメント。独自のサブスクリプションサービスを導入拡大の起爆剤にする考えだ。
塗装との親和性高める
かつてFIT制度を機に導入が増加した太陽光パネルが再び息を吹き返すか、関心が集まるところ。国内外のパネルメーカーが参画する太陽光発電協会によると、住宅と非住宅(オフィス、工場、病院、役所など)の出荷割合はモジュールベースで2:8。エネルギー費高騰と脱炭素化を背景に再エネ利用に拍車をかける法人需要と比べて住宅向けは遅々としており、それだけ成長余力は大きいとの見方がある。事実、コロナ禍以降、需要低迷を余儀なくされていた状況から反転の兆しが出ている。
その要因の1つとなるのが、東京都が今年4月から条例施行する大手ハウスメーカーを対象にした新築住宅の太陽光パネルの設置義務化。
すべての新築住宅が対象になるわけではないが、都内の新築住宅の半分程度に太陽光パネルが敷設される見込み。先んじて実施してきた補助金制度も牽引しており、需要拡大の気運が高まってきた。
課題となるのは、誰がどのように施主にアプローチするか。太陽光パネルに関しては、過去の悪質な販売手法やずさんなアフターフォローによってネガティブなイメージを持つ消費者も少なくないため、施主の信頼を勝ち得る販売施工体制が求められる。
そこで京セラは、外装リフォームにおいて施主との接点が多い塗装店ネットワークを持つ企業との連携に活路を見出す。石粒鋼板屋根材を改修向けに展開するディートレーディングとの協業展開がその一例だ。
石粒鋼板屋根材を展開するディートレーディングは、改修市場での展開を図るべく10年前から塗装店に対し、葺き替え及びカバー工法を提案してきた経緯がある。屋根基材によっては経年劣化で再塗装を断念せざるを得ない現場も出ており、施工店にとっても塗装以外の工事が取り込めるとして導入を増やしている。
同社としては、塗装店を基盤に改修市場での成長を目指すディートレーディングとの協業を足掛かりに住宅向けの営業展開に弾みをつけたい考えだ。
特に築年数が経過した既築住宅のパネル設置は、基材の劣化の問題から設置前の点検及び改修工事を不可避としている点も塗装店とのシナジーが生きる。更に足場を共用できるコストメリットも大きい。初期費用をゼロにするサブスクリプションサービスと合わせ、屋根改修工事とのセット展開に付加価値を見出した形だ。
施工の流れとしては、屋根改修工事終了のタイミングに合わせて同社の協力施工会社が現場に派遣される。太陽光パネル設置の工期は1日だが、「施工会社様の段取りに支障が出ないようバックヤード体制の構築に注力してきた」とアピールする。
基材劣化と耐用年数に注意
今後、太陽光パネルの普及拡大が予想されるが、坂本氏は「既築住宅においては、基材の劣化状況や耐用年数を考慮した慎重な対応が不可欠」と注意を促す。太陽光パネルより早く基材が脆弱化した際、屋根補修、再設置に莫大な費用がかかるためだ。
同社が既築住宅への展開にディートレーディングをパートナーに選んだ理由には、30年保証をうたう石粒鋼板屋根材の耐用年数の長さが決め手となった。
安価な海外品が台頭する太陽光パネル市場において同社は、40年にわたり発電出力を維持する長期性能を差別化にしてきた経緯がある。そのため屋根基材の選定にもこだわった。
設置工事においても屋根の上から垂木に対しビスを打ち込む従来工法を避け、屋根材に穴を開けずにパネルを固定する専用治具(キャッチ工法)を開発。接合部から懸念される漏水リスクに対応するなど、パネル、基材の長期性能と工事品質を差別化に据える。
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