ビーム用塗料、出発進行!
「一発塗り」の超省工程発想

急増が見込まれる需要に対して、作業時間の制約と人手不足の問題が立ちはだかる「電車線路支持物」のメンテナンス塗装。その解決に役立つ塗料をJR東日本と重防食塗料メーカーのジャパンカーボラインが共同で開発。「一発塗り」というユニークな発想で超省工程を実現した。


電車線路支持物とは、線路沿線で架線を支えている柱やビームと呼ばれる梁(はり)のこと。特にビームはほとんどが亜鉛メッキ鋼で造られており、そのメンテナンス塗装の需要が今後急ピッチで増えてくる。

鉄道の電化と高度経済成長が重なり、1960年代から80年代にかけてJR東日本の管内では年間1,000基以上のビームが新設された。過去の腐食試験などからそれら亜鉛めっき鋼ビームの期待寿命は「60年程度」と見積もっており、数万基単位の大量の設備が間もなく寿命を迎える。費用面や施工能力面で建て替えには限界があるため、塗装による長寿命化対策の需要が急増するというわけだ。

既に初期のビームの塗装は始まっているが、鉄道独特の"作業条件"が大きなネックになっている。

塗装作業は電車が走行しない夜間に行われるが「準備や撤収の時間を除いた実質的な作業時間は2~3時間程度。貨物列車が多い路線など30分ほどしか作業時間を確保できないケースもある」(JR東日本担当者)と極めて厳しい時間の制約がある。

ビームの塗装で同社が設定した仕様はエポキシ樹脂塗料の下塗り+ウレタン樹脂塗料の上塗りの2回塗り。厳しい時間条件の中では、1日目の夜にできる範囲はケレンと下塗りまでがマックス。乾燥を待って2日目の夜に上塗りを行うが、「天候などで2日目の作業ができず、スケジュール通りにいかない状況になることもあった」(同)と説明。

しかし、近年の人手不足はこの分野でも例外ではなく、「今後、塗装対象施設が増大することに対して塗装工の数が足りなくなることが懸念され、工程遅延は大きなリスクになる」(同)とし、ワンデイフィニッシュが可能な省工程塗料の開発が急務になっていた。そこで、従来仕様の塗料を製造しているジャパンカーボライン(以下JCC)と共同で「電車線路支持物用の新規塗料」の開発に取り組むことになった。

2倍の施工を可能に

開発のテーマは「従来と同等以上の性能を確保しつつ、1日で作業を終えられる塗料」、つまり1回塗りでフィニッシュする亜鉛めっき鋼材補修用の防食塗料だ。JCCでは、従来仕様の下塗りで使われていた「カーボマスチック15Ⅱ」の特性を基点に新規塗料の開発を目指すことになった。

浸透性厚膜型エポキシアルミニウム塗料のカーボマスチック15Ⅱは「亜鉛めっきに直接かつ強固に付着する上、錆にも強力に浸透するので亜鉛めっきと錆が混在している素地に最適」(同社担当者)という下塗塗料。混在素地への付着特性に加えてアルミフレークの迷路効果による防食性能、更に、錆への浸透によるケレン作業の軽微化が作業時間の厳しい制約の中で大きなアドバンテージとなった。

JCCではカーボマスチック15Ⅱが持つ独自の下塗り特性を生かしつつ、耐候性などの上塗り性能をハイブリッド化する方向で着手。約1年がかりで亜鉛めっき鋼材補修用の下上兼用1回塗り塗料の開発に成功、「JB 125 Si」及び「JB 125」として製品化した。前者はシリコン変性エポキシ樹脂塗料、後者はエポキシウレタン樹脂塗料で、製品名にあるように1回塗りで125μmのハイビルドな膜厚が得られるのが特徴だ。

性能試験によると、それまでの2回塗り仕様に比べて、シリコンタイプは耐候性に優れ、防錆力は同等。またウレタンタイプは耐候性、防錆力ともに同等の試験結果が得られ、「十分、実用に耐え得る性能。これまで2日掛かっていたものが1日で済み、極端な話、倍の施工が可能になる。塗装対象の増大と塗装工不足の命題を補う一助として期待は大きい」(JR東日本担当者)と評価する。

新規開発塗料の施工は、3~4種の軽微なケレン後に刷毛やローラーで塗装するだけで125μmの超厚膜防食塗装が完了。上塗りまでの乾燥を待つことなく"一発塗り"ができる塗料なのだ。既に実物件での採用が始まっており、「塗装感覚など特に支障がなく現場に受け入れられている」(JR東日本担当者)と説明、順次使用していく予定だ。

JB125シリーズが持つもう1つのユニークな特徴が「色」。同シリーズではビームの色として一般的な「グレー」の他、薄く緑がかった「ライトブルー」を揃えた。JR東日本からの「錆の発生が目視ですぐに見つかるようにしてほしい」との要望に対して、「錆汁や点錆など赤錆の補色(ペールブルー)にすることで錆がパッと目立つようにした」(JCC担当者)というアイデアで応えた。

JCCでは「他社でも下上兼用塗料は開発されていますが、除錆を補う下塗りが必要な製品や、素地調整グレードを高く条件づけるなど省工程という本来の目的には応えられていないものが多い。そういった意味で、従来の塗料が到達しえなかった真の1回塗りを実現しました」と自信を示す。

反面で「色やツヤのバリエーションなどを犠牲にしていますが、美装性よりもとにかく短時間で防錆力を付与したいというニーズを探索し、ビーム以外の対象にも広げていければ」と期待を高めている。



電車線路支持物
電車線路支持物

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