伝統左官「石洗い出し」を再現せよ!
人気の観光スポット、意匠塗材で演出

昭和初期の歴史的建造物をリニューアルし、飲食、物販などの複合施設として昨年秋にオープンした「MIRAIZA OSAKA-JO(ミライザ大阪城)」。ヨーロッパの古城のような重厚な佇まいは存在感抜群で、建物をバックに記念撮影をするインバウンド(訪日外国人)などで連日賑わっている。新たな観光資源としても蘇った「ミライザ大阪城」。人を引き寄せるその魅力的な外観意匠に、ある塗材技術が貢献している。


大阪城公園の世界的観光拠点化を目指す大阪市は、その管理運営を電通や読売テレビ、大和ハウス工業など5社で構成する民間の共同事業体に委託。敷地内の既存建物の改装や新たな施設の建設などを進めて集客力を高めており、それらプロジェクトの目玉の1つが「ミライザ大阪城」だ。

建物は昭和6年(1931年)に建設された「旧日本陸軍第4師団司令部庁舎」がベース。築87年の歴史を持ち、戦後は大阪府警本部や大阪市立博物館などとして利用され、2001年の閉館後は非公開となり活用されていなかった。

大阪城天守閣に隣接した好立地にあり、しかも現在に換算すると80億円ほどの費用をかけたヨーロッパの古城風の豪奢な佇まいは観光資源としての魅力が十分。眠っていたこの歴史的建造物を新たな観光スポットとして蘇らせるべくリニューアルに着手、おしゃれなレストランやバー、ルーフトップテラス、インバウンド向けのスーベニアショップなどが集う複合施設として昨年秋にオープンした。

リニューアル工事の設計・監理と施工を担当した大和ハウス工業では、「戦火を免れたこの建物は、昭和6年の竣工当時の容姿をほぼ留めている歴史的にも貴重な施設。耐震補強をした上で、竣工時のオリジナルの意匠を可能な限り残し、損傷している部分は当時の意匠に復元する」(同社本店建築事業部設計部主任・岩上嘉樹氏)との改修方針で臨んだ。

特に外装に関しては、府警や博物館など用途に合わせて改修が繰り返されていた内装と異なり、ほとんど当時のままの状態。ただ当然ながら90年近い歳月の間に劣化も相当進行しており、損傷部分の復元施工でいかに当時の意匠に近づけ再現するかは、この改修工事の1つの山場ともなった。

「石洗い出し」ができない!

ヨーロッパの古城に似せた建物の外装は、低層部及び車寄せの外壁を「紫雲石」、中層部を「スクラッチタイル」、正面中央上部及びパラペットを伝統的左官工法「石洗い出し」、笠木にも当時の「テラカッタ」を使うなど装飾的な外観意匠が特徴。中央及び四隅の隅塔の存在もあいまって、威風堂々とした佇まいを見せている。

改修に当たって外壁の状態を調査したところ、「低層部の紫雲石は状態が良かったため洗浄のみで対応できた」(同)ものの、中層部のスクラッチタイル及び上層部の石洗い出しの外壁は「浮きや割れ、クラックの発生も多く、貼り替えや塗り替えを要する箇所もあった」と説明。ここで課題となるのが「いかに当時の意匠に近づけるか」だ。

まずは中層部のスクラッチタイル面。タイルの部分的な貼り替えによる新旧の斑は外観意匠を最も損なうため、「色や風合い、溝(スクラッチ)の掘り具合など何度も試し焼きを行い、オリジナルの意匠に近づけていきました」と説明。違和感なく当時のテクスチャーを再現することに成功している。

次に上層の「石洗い出し」の部分。ここも「できるだけオリジナルは残す」との方針のもとで復元に着手。「左右のパラペットの石洗い出し面は比較的状態が良く、樹脂注入やタッチアップによるクラックの補修で対応できましたが、建物中央上部の壁面は状態が悪く、また、建物の顔ともなる目立つ部分であることから全面的に塗り替えることにしました」と改修方針を説明。

ここでネックになったのが施工方法だ。元々の仕上工法である「石洗い出し」はセメントモルタルに骨材を混合し、硬化する前に表層のモルタルを洗い流して骨材が浮き出るようにする仕上げ工法のこと。骨材の素材感が魅力的な伝統的左官工法だが、「洗い出しの過程で下層のスクラッチタイルや紫雲石をモルタル混入水で汚してしまう」ため採用できない。

そこで代替案として吹付工法で石洗い出しのテクスチャー表現を検討。規格品で存在しない意匠要求にカスタマイズで応えるメーカーとして定評のある山本窯業化工に照会が入った。

特注品完成までに半年

 本窯業化工は、水性樹脂塗材をベース吹きし、ベースが乾燥する前に天然骨材を吹き付けて石洗い出しのテクスチャーを表現する仕様で提案。当初はスムーズに進むと見ていたが、骨材の調達に思わぬ時間を要した。「オリジナルの石洗い出しには黄味や肌色の美しい天然骨材が使われていましたが、現在、国内では入手困難なことが分かりました。次に、意匠的に近似の天然骨材を国内で探し出しましたが、今度は粒径の問題が浮上。このため骨材を再粉砕して粒径を細かくし、なんとかオリジナルのテクスチャーに近づけることができました」(山本窯業化工担当者)と経緯を説明。

更に、劣化度や汚れ方の差で面によって色が異なるため、どの壁の色に合わせてベース材を調色するかなどでも試行錯誤。骨材の大きさや色合いの調整に半年ほどを要するプロジェクトとなったが、「意匠性塗材を強みにしている当社としてはどうしても応えなければならないミッション」(同)であった。

こうしたリニューアル工事によって昭和初期の建物が蘇り、昨年秋にオープンした「ミライザ大阪城」。特に屋上のテラスダイニングは連日予約で埋まっているほどの人気ぶりだ。「今回のリニューアルで初めて屋上を開放しましたが、目の前にダイナミックに現れる大阪城、また高台のため大阪の街も一望でき、その眺望の良さから人気スポットになりました。インバウンドの方々はもちろんですが、この施設ができたことで地元の人たちも引き寄せ、ここに来ることで大阪城や大阪城公園の良さにも改めて気づいていただける。歴史的建造物のリニューアルに携われ、更に多くの観光客や地元の人々にも喜ばれている光景を目にし、設計者としての充実感を味わっています」と大和ハウス工業の岩上氏。

人気スポットのテラスダイニングの主要な壁面も今回の「石洗い出し」テクスチャーで塗り替えられている。



 大和ハウス工業 岩上嘉樹氏
大和ハウス工業 岩上嘉樹氏
ミライザ大阪城
ミライザ大阪城
中央のベージュ部分を塗り替え、左右パラペット部は既存
中央のベージュ部分を塗り替え、左右パラペット部は既存
石洗い出しのテクスチャーを再現
石洗い出しのテクスチャーを再現
目の前に現れる大阪城
目の前に現れる大阪城

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