建築塗装、価値創造の方向とは
共感の種は「色」と「職人」

塗料・塗装産業の最大ボリュームゾーンである建築塗装市場の現在にスポットを当てた。需要の8割を占める改修・リフォーム需要に失速感が出てきたことで沈滞ムードが漂っており、この流れが常態化するとの不安視もある。需要縮小に打ち克つには社会が共感する「塗装の魅力」を確立し、付加価値路線を狙わなければならない。


建築塗装需要へ向けた塗料(メーカー)の販売金額は約1,600億円(日塗工会員外も含む)で、自動車や各種工業製品、防食、船舶など他の需要区分を大きく上回っている。工事に当たっている塗装の許可業者数は5万4,000社を数え、約3,000社からなる塗料販売業者の多くが建築用塗料を主力商品としていることからも建築塗装分野が塗料・塗装産業のメインであることは明確だ。従ってこの分野の浮沈が業界全体のムードに影響する。

平成28年の国内建設投資額の見通しは約50兆円。ピーク時(平成4年)の84兆円の6割に減少している。人口・世帯数の減少、経済の縮小で建設需要が縮んでいくのは宿命で、マクロ的には塗装需要もそれに連動していく。

常態化したダンピングによって塗装工事の低価格受注が当たり前のことになり材料価格にも反映、塗料メーカー、塗料販売ともに疲労の色が濃い。ここ数年賑やかだった戸建住宅の塗り替え市場も一昨年の消費増税の影響が顕著に現れた。将来への不安を抱え個人消費が守りに入っている中で、住宅リフォーム需要もこれまでのような"成り行き"での成長は期待できない。ジリ貧を続けるばかりで将来への活路はないのか、今回の特集ではその道筋を探った。

色の効用、住宅団地を狙え

「塗装」は一般社会や生活者からすると相変わらず遠い存在。しかし知られていないということは逆に、知ってもらう余白が多く残されているということであり、そこに「共感」の種を植え込むことができれば一発大逆転の花を咲かせることができる。

共感の種の筆頭はやはり色やデザイン。魅力を訴える上でビジュアルに勝るものはない。

しかし、そこに指標をおくしかないとは言え、塗料メーカー各社は性能・機能のわずかな差をめぐって開発競争を続けている。現場を担う肝心の塗装業者も色やデザインへの感度は低い。面倒を避けて「無難な色」に誘導しがちで、共感の種をみすみす放棄してしまっている。

塗装=色への共感を得る上で即効性が期待できる仮説がある。住宅団地への働きかけだ。同じようなフォルムの家が立ち並んでいるので色の統一感が顕著に現れやすい。色相まで揃える必要はない。異なった色相でも色調(トーン)を同程度にまとめるだけではっきりと効果が出る。海外でよく用いられている手法だ。

美しい街並みはコミュニティーを活性化し、住人の暮らしぶりも心も豊かになり色の効用を実感できる。街のまとまり感で防犯の効果も期待できる。外部へのビジュアル的なインパクトも強く、"塗装すること"への価値観が大きく変わる。

住宅団地は全国いたるところにあるものの、塗り替えに際しての規定はほとんど定められていない。このため経年で色がバラバラになって統一感が損なわれ、街並みの価値が失われる。塗装の魅力を端的に伝えられるステージだけに企業、団体あるいは業界レベルでそこへアプローチできないか、知恵を絞りたいところだ。

価値の伝道師は職人

共感を得る上でもう1つ大切な種はやはり「塗装職人」だ。職人の技術・技能、言動、働きぶりのパフォーマンスが塗装工事の価値の源。住宅塗り替えでは施主を、マンション修繕では住人を、野丁場では元請けをそれぞれ魅了するのは現場の塗装職人に他ならない。

しかし、ここが疲弊しているのが最大の問題。長年の過当競争、常態化したダンピング受注のしわ寄せは重層構造末端の職人に集まり、所得と労働環境が悪化。技術・技能を持つ熟練工が高齢化でリタイヤしていくのに対して若年層は集まらず、職人の量と質の低下は深刻度を増している。

それに対して抜本的に切り込む動きも一部で出始めている。



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