シンポジウム「SDGsに向かう塗装の自動化と環境対策」

脱炭素化が社会的に関心を集める中、塗装工場におけるCO2排出抑制の取り組みが本格化している。塗装工場から排出されるCO2量では、塗装ブースからの割合が最も多いため、新たな設備の開発が目立っている。トヨタはコンパクトブースを導入し、大気社では少風量ブースの開発を行うなど、カーボンニュートラルに寄与する次世代塗装工場を目指している。


政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言した。それに伴い自動車産業をはじめとして各産業界では脱炭素化の取り組みが加速している。今後、塗装工場でも脱炭素化に向けた新たな在り方が求められることが予想される。

10月21日、日本塗装機械工業会(CEMA)は第21回技術シンポジウムをオンラインで開催。「SDGsに向かう塗装の自動化と環境対策」をテーマに掲げた講演会を実施、その中では塗装設備関連でのCO2対策技術も紹介された。

新型ブースでCO2を80%減
トヨタ

トヨタ自動車は2020年に静電気を活用しエアーを使わない新型塗装機を開発。塗着効率95%を達成している。更に新型エアレス塗装機を設置した超コンパクトブースを開発中。新型エアレス塗装機はエアレスで近接塗装が可能となるため、ブース内気流の低減、塗装ブース下部にある未塗着塗料の回収装置を小型化した。

新開発ブースは従来ブースと比べて高さ40%減、長さ75%減、容積90%減を達成する。CO2排出量では、新型エアレス塗装機を使うことで20%減、新ブースで60%減、合計で従来比80%削減の達成を見込んでいる。

風量半減、塗装ブース開発
大気社

大気社は自動車塗装向けとして、風量50%削減を実現した新型塗装ブースを開発した。

現行の自動車塗装ブースは、全面均一のダウンフロー設計が主体のため膨大なブース風量が必要となっている。車体のサイド気流は加速された流速となっているが、「塗着効率や品質を最適化するには塗装機周辺の風速を速くする必要はない」として独自の少風量ブースを設計した。

少風量ブースはブース内の気流を機能別にポイントを絞ることで風量50%削減を実現している。天井部に半円給気ダクトを設置しており、垂直下向きへ給気され塗装ブース壁面沿いでの流れを形成。天井中央部に仕切り板を設けることで、給気ダクトから水平方向へ流れた気流がブース中央で下向きの気流と変わり車体を覆うような流れを形成する。壁際と中央部の流速にポイントを絞った設計とした。

従来の整流目的の動圧室が不要となるため2,000mmほど高さを削減、風量が半分になるため排気ダクトのサイズも半減できる。ただし塗料負荷は同じであるためフィルタ交換周期は短くなると想定される。

品質面では車体同士の間で下向き気流が形成されるため、他の車体へ塗料が付着することを防ぐ。風量を半減しても温湿度の塗装環境は確保でき、塗装品質に悪影響を及ぼすことはない。

また、VOC濃度はアップするが、中塗り及びベース工程では排気VOC濃度は400ppmC以下であり排気処理装置は不要。なおクリヤー工程では現状でも装置が必要であるため変更はない。

少風量ブースは空調エネルギーが半減でき、ランニングコストでも37%削減できるとした。既存ブースへ簡単に取り付けが可能であり同社では自動車塗装向けに展開していく。

塗装前工程薬品でCO2対策
日本パーカライジング

日本パーカライジングでは薬剤開発を通じて環境対応の実現を目指す。次世代型化成処理として採用が増えているジルコニウム化成処理剤は、従来のリン酸亜鉛化成処理剤と比べて数多くの環境対応メリットを有する。

表面調整工程が不要であるため工程短縮になる。産業廃棄物となるスラッジの発生量は従来の10分の1程度に削減できる。更にリンやニッケル、マンガンを含まないため排水負荷軽減にもつながる。

また、常温型脱脂剤を上市しており、通常の脱脂温度40~50℃に対して20~35℃で使用する。そのため低温化による省エネ、CO2削減が可能となる。新規脱脂剤は低温でも良好な脱脂性が得られる上、発泡抑制効果が高い。

その他には化成処理とは異なり、被塗物を薬品に接液し乾燥させることで皮膜化する塗布型塗装下地剤(パルコート開発品)を紹介。水洗工程が不要のため大幅な工程短縮につながる。常温で使用するため省エネ、CO2対策効果も得られる。

同社では「限りある資源の有効活用やCO2発生をいかに低減できるか」を観点に今後も環境対応薬品の開発を推進していく方針を示す。

〔第21回技術シンポジウムプログラム〕①カーボンニュートラルに向けた取組(経済産業省)②超高塗着エアレス塗装システムの開発(トヨタ自動車)③熱を出さない工場の為の省エネ対策(東京電力エナジーパートナー)④環境対応、自動化に向けての大気社ユニーク技術の紹介(大気社)⑤塗装プロセスにおける環境ソリューション(栗田工業)⑥塗装ロボットシステムの最新技術動向(ABB)⑦塗装前処理におけるCO2削減、節水技術の最新動向(日本パーカライジング)。



HOME工業用 / 自動車シンポジウム「SDGsに向かう塗装の自動化と環境対策」

ページの先頭へもどる