社会全体で脱炭素の取り組みが活発化する中で、塗装工場においてもCO2対策の必要性が高まっている。自動車産業のような大手需要家を中心に、塗装工場においてCO2対策の動きが本格化する一方で、塗装専業者ではCO2対策の優先度は高くはないのが実情といえる。そんな中、春日井金属塗装所(本社:愛知県春日井市、代表取締役:大久保清司氏)は主体的にCO2対策と環境に配慮した水性塗装の取り組みを積極的に推し進めている。今後、重要視される塗装工場の在り方を追求している。
CO2排出量削減を進める中で省エネを図ることが重要となり、塗装工場ではエネルギー使用量が多い乾燥工程の対策が効果的となる。金属塗装を行う春日井金属塗装所では焼付乾燥からの転換を図っており、乾燥設備を用いない常温乾燥(自然乾燥)の取り組みを始めている。
それと同時に「生産性を落とすわけにはいかない」として環境対応と生産性の両立を目指している。焼付乾燥であれば塗膜の乾燥に要する時間が短く済むため、梱包など次の工程にすぐに移ることができる。一方で、常温乾燥の場合は乾燥までに時間を多く確保する必要がある。
そのため、同社では塗装後に乾燥させるためのスペースを確保。被塗物を一定時間置いておけるスペースを作って、生産性をできるだけ落とさない段取りを行っている。乾燥時間が増えるからといっても「納期を守ることは絶対」(大久保社長)であり、生産計画の正確性を高める必要があるという。
現状、塗装品全体を見ると、常温乾燥が4割、強制乾燥(80℃×30分程度)が1割、そして粉体塗装を行っているため焼付乾燥が5割を占めている。粉体塗装を行うライン以外は原則的には常温乾燥で行っていきたいとの考えで、営業する際には2液型塗料(ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系)の特長をPRし採用を図る。
水性塗料を積極化
春日井金属塗装所では、環境問題への取り組みとして水性塗料の導入の動きは以前から行ってきた。
大久保社長は「自動車ボディや建築分野では水性塗装が普及しており、社会的に水性化が必要」との見方を示し、一般工業分野においても水性塗装の広がりを期待する。実際に取り組む中で、「作業者の負担は少ないと思う。何より溶剤臭がないのが大きい」と作業環境の改善を実感する。
水性塗料はカナヱ塗料を使用し検証を行っている。塗料選定については「価格も含めてトータルバランスを考えた。こちらの要望に対応してくれることも大きな決め手」と述べ、さまざまな検証を行っている。
水性塗料の特性として乾燥時間がかかったり、塗膜硬度が従来に比べて劣ったりといった課題も出ている。塗膜が乾燥したと思って梱包すると、梱包材の跡が付いてしまったり、製品同士が貼り付いてしまったりといった不具合が生じてしまう。現場に合った乾燥時間を探り、塗膜硬度が必要な場合にはクリヤー塗装を加えて必要な硬度を確保することも想定する。
既に顧客には水性塗装の採用を提案しており、複数案件で導入が検討されている。顧客の中には"環境に配慮した塗装"という点で高く評価される場合があり、同社としても採用に向けて手応えを感じている。
CO2対策にしても水性塗装にしても、顧客をはじめ外部からの要請ではなく、塗装専業者が自ら積極的に取り組むケースは少ないと言える。塗装仕様を変更することに伴う労力が多いからだ。顧客交渉、生産性低下の懸念、設備・人員体制の対応、コスト対応などに取り組んでいかなければならない。
それでも"環境配慮塗装"にこだわるのは、工業塗装専業者としての社会性だけでなく「コスト在りき」で続いてきた塗装仕様を変えたいとの強い思いからだ。
大久保社長は「我々の業界はコスト在りきで今に至っているように思う。実際、必要な塗装工程を経ることよりもコストを重視した工程が広まっている。そのため、本来であればコストが合わない塗装仕様を求められることは少なくない。これからは品質や環境の観点から適正な塗装に取り組んできたい」と思いを持ち、CO2対策や水性塗装の採用に向けて取り組んでいく。