自動車補修の調色作業、機械学習で革新
「AIカラーシステム」急伸

AI調色が自動車補修作業を変えそうだ。関西ペイントが開発した自動車補修用コンピュータ調色システム「AIカラーシステム」が、作業のボトルネックとなっていた調色工程を革新、ボディーショップ(鈑金塗装事業者)への普及が進んでいる。1日、関西ペイント販売と共同で同システムのバージョンアップの記者発表を行い、「人材の確保と育成、生産性の向上といった自動車補修業界の課題解決に貢献していきたい」と意気込みを語った。

 


自動車補修における塗装作業の中で最も時間を要するのが「調色工程」だ。同社によると、補修箇所の研磨・プライマーの下地処理から始まり、磨きのフィニッシュに至る一連の塗装工程のうち、「調色に要する時間が2割以上を占め、最も時間が掛かる工程」(同社)と説明。しかも、「作業者の能力や塗色によってバラつきが大きく、作業時間が読めない」のがボディーショップの課題だったという。調色作業に手間取り、1日の計画台数をこなせないなど全工程の中でボトルネックになっていた。

色見本帳(カラーチップ)を元にした従来の調色作業は正に職人の世界。自動車メーカー各社の何千枚という塗色(カラーチップ)の中から実車に近い色を選び、その配合データに基づいて微調色を重ねて色を寄せていく作業。ほとんど同じにしか見えない近似色群の中から最も近い色を見分ける作業、どの原色をどれくらい加えれば色が寄るかなどの微調色は、「長年の経験や知識、感性、感覚までも要する難しい作業」で、その属人的な世界から調色作業を解放することがボディーショップの課題解決につながると考えた。

人材難と生産性の向上といったボディーショップに共通する経営課題に対し、塗装工程のボトルネックとなっている「調色」を革新するとの観点で、2017年1月に自動車補修用コンピュータ調色システム「AIカラーシステム」の販売を開始。そして2021年、同システムに機械学習(AI)のソフトを搭載したことで、調色工程の作業時間の大幅な短縮と精度の向上を実現、調色作業の在り方を大きく変えた。

このAIソフトは、関西ペイントが過去に蓄積してきた調色配合の膨大なビッグデータをもとに、コンピュータがパターンや傾向を解析し、最適解を判断する業界初の新技術。理論式を用いた他のコンピュータ調色システムに比べて、「それらの弱点であったメタリック色で圧倒的に調色精度が高まった」のが特長で、自動車塗色の主流であるメタリックパール塗色の調色時間を大幅に短縮、現場における実用性が格段に高まった。

「AIカラーシステム」による作業フローは①専用のセンサーで実車を測色②それに基づいてコンピュータが自動的に近似色検索と配合補正までを行い、ターゲット(実車の塗色)の配合データを画面上に表示③その指示に従って色を調合し、調色板に塗装して色判断を行うという流れ。作業終了の判断も、ターゲットとの色差ランクの表示によって過度な調色を抑制でき、作業時間の短縮につながる。
これにより、「色見本帳を用いた従来の調色作業に比べて、調色回数を5回から1~2回へ、調色作業に要する時間も40%削減できる」と説明。塗装工程のボトルネックとなっている調色作業の課題解決につながった。

更に大きいのが、「誰もが調色作業を担えるようになった」ことだ。経験と知識と感性や感覚を要していた従来の調色作業をAIによって標準化、平準化したことで経験の浅い人材も即戦力として活躍できるようになった。「AIカラーシステム」を導入した利用者からは、『入社2カ月の女性スタッフが実車の測色から調色までの作業を1人で行えるようになり、仕事への意欲が高まった』『未経験者が即戦力として活躍できるまでの期間が格段に速まった』『経験の長さを問わず誰もが同じクオリティで仕上げられるようになった』など即戦力化の評価に加え、『調色の作業時間が半減し、他の作業に充てる時間が増えた。作業者の再配置も行え、工場全体の生産性が向上した』などユーザーの声を紹介。

同システムは既に1,400ユーザーを超える導入を数え、「このシステムを利用するために、当社の塗料に切り替えていただくお客様も加速度的に増えている」と、同社の自動車補修塗料事業をけん引する起爆剤になっている。

バージョンアップで更に強力に

同社はこのほど、「AIカラーシステム」のバージョンアップを行い、3月1日に記者発表会を開いた。
今回のバージョンアップは主に3点。1つ目は検索システムCCS(Computer Color Seach)の改良。従来よりも目視に相関した検索式により、目視との一致性が高く、より実車に近い配合を呼び出せるようになった。

2つ目は調色システムCCM(Computer Color Match)の改良。アルゴリズムの変更により、3コートパール塗色などの複層膜に対する調色精度が向上した。また、調色難易度が高い有彩色などの調色精度も向上した。

そして3つ目は、それら機械学習エンジンのバージョンアップに伴う新型カラーセンサーの展開だ。モノクロカメラの搭載により、メタリックなどの「粗さ」を自動で測定できるようになり、メタリック感の見本から選定していた作業を不要にした。また、測色角度の変更により目視に近い角度で測色できるようにもなった。

「今回の改良により、経験の浅い人でもより速く、より正確に調色作業が行えるようになり、このシステムの開発で我々が目標としていた地点に到達できたのではないかと思う」(自動車補修塗料統括部・中里正康統括部長)と自信を示すとともに、「コンピュータ調色に限らずどのようなものがデジタライゼーションできるかを今後も探り、自動車補修業界がより良くチェンジしていけるよう貢献していきたい」(車両技術統括部・境博之統括部長)と方針を示した。



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経験の浅い女性も即戦力に.jpg
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