新工場立ち上げ、働きたくなる環境づくり

東大阪市に本社を構える塗装専業者の富士電装(代表取締役社長:宮田潔氏)は昨年12月に新工場を建設し新たなスタートを切った。新工場には半導体製造装置の筐体がそのまま入る大型乾燥炉や、金属塗装では珍しい密閉式塗装ブースなど、新たな需要の取り込みを見据えた設備を整えた。同時に重要視したのが快適に働くための環境整備だ。従来の町工場とは一味違ったこだわりが"人材"にも効果を現している。

 


新工場の構想に主導的に動いたのが宮田社長の長男である常務取締役の宮田圭氏(33歳)だ。

コロナ禍で仕事量が落ち込んだときに既存顧客との情報交換をはじめ市場調査に注力。その中で、半導体など大型製品の塗装に関して、納期や品質を含めて安心して依頼できる工場が少ないという発注側の声を聞き、新工場の構想につながった。そのとき強く意識したのが快適に働ける環境整備だ。

工場の3階にはオフィスとキッチンシステムを完備した休憩スペースを広く確保している。室内や通路の照明など意匠性にもこだわりを見せる。更にシャワールームを完備し、温湿度環境の厳しい夏場の仕事終わりでの利用を想定する。"従業員が働きやすい環境作り"にここまでこだわっている塗装専業者は極めて珍しいと言える。そこには宮田常務の思いがあった。

そもそも宮田常務が富士電装に入社したのは2016年。それまでは塗装とは関係ない業界で大手メーカーの営業職として働いていた。子供のころから工場に入った記憶がないという宮田常務だったが、「(現在創業74年のため)創業100年を目指せる会社は限られている」という社長の要望を受けて、半年間悩んだ末に入社を決めた。

最初の3年間は現場で塗装業務に従事。宮田常務は「人が足りていないと感じたものの、少人数でも利益はきちんと出ていた。ただ肉体的にはしんどかった」と当時を振り返る。

すぐにHPを立ち上げた。当時、HPを持つ塗装業者が少ないこともあって、問い合わせや引き合いが来て受注につなげていった。かつては職人と社長のみだった体制から、業務内容ごとに専任を置くとともに、事務職や営業職を設置し有機的な動きができる組織へと変わっていった。

求人募集に30名以上

"町工場を一新した"新工場は人材確保という側面でも好影響を及ぼした。これまでは募集をかけてもなかなか応募がなかったが、エージェントを通し新工場の概要をPRした求人募集をかけたところ30名以上の応募があった。しかも募集要項として、「塗装未経験」「工場勤務経験有」の20代から30代に絞ったにも関わらずだ。その中から5名を採用した。

人材の取り組みは確保から育成へと局面が移っている。宮田常務は「面接をしたところ、みんな塗装がしたくて来ているのでしっかりと育てたい。ベテランから初心者への技術継承が課題」として育成に力を注ぐ。

人材育成は教える側の問題との考えで、ベテラン職人に若手育成の重要性を伝え、業務スケジュールを調整し教育できる時間を確保している。現状を見ると、人手が増えたことで研修の時間が取れているという。

現在の従業員数は21人。「18~19人が適正」との見方からすると若干多いとも言えるが、今後ベテランの退職を想定すると健全な人員体制となる。

成長に向けた展望として、営業部門の強化を図っていく戦略だ。現在は常務と専任として2人を置いているが、更に1人を追加し全4人体制を組む計画にある。「4人であれば既存顧客をしっかりフォローしながら新規獲得にも力を注げる」との狙いだ。

営業を専任で置いている塗装専業者は少ない。しかも4人という人数は異例とも言える多さ。そこには営業経験者である宮田常務の確かな手応えがある。以前、製缶業者や板金加工業者など塗装を必要とする会社に片っ端からテレアポを行ったところ、「数を打てば当たると思った。現在取引している塗装業者に満足していない会社は多いと感じる。また複数の塗装業者と取引したいという声も多い」として新規需要の獲得を目指す。

新スタートから3カ月が経過し、人材面や新規ユーザー獲得には手応えを感じているが、現状は発展途上の段階との見方を示し、更なる飛躍を目指している。現状の売上高は2億円となっており、3年後に3億円の目標を掲げ創業100年に向けて邁進する。
(ペイント&コーティングジャーナル工業用塗料・塗装特集2024から)



常務取締役・宮田圭氏
常務取締役・宮田圭氏
キッチン及び休憩スペース
キッチン及び休憩スペース
シャワールーム
シャワールーム
内装デザインにもこだわった
内装デザインにもこだわった

HOME工業用 / 自動車新工場立ち上げ、働きたくなる環境づくり

ページの先頭へもどる