日本自動車車体整備協同組合連合会(会長・小倉龍一氏=日車協連)は5月21日、大手損害保険会社4社に対し指数対応単価における団体協約締結の交渉を申し入れた。日車協連は、令和6年3月31日時点を基準に17.5%以上の指数対応単価の引き上げを要請する方針で、早くて来年総会後の実現を目指す。交渉が決裂した場合は、国交省に斡旋・調停を求める意向も示しており、協同組合による異例の行動に損保各社がどう対応するのか、今後の動向に関心が集まる。
5月23日に開催された会見には、小倉会長、理事・泰楽秀一氏(杉戸自動車)、顧問弁護士・饗庭(あえば)靖之氏(首都東京法律事務所)の3名が出席し、団体交渉に至った経緯と内容について説明した。
今回、日車協連が行ったのは、大手損保4社(東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険、損害保険ジャパン)に対する団体協定締結の提案。日車協連は、損保と日車協連加盟の車体整備業者(会員4,014名)が個別で取り決めている指数対応単価(工賃)を今年3月31日時点を基準に17.5%以上に引き上げることを協約の要件としている。
指数対応単価は、保険修理に要する修理費用を算定するための時間当たりの工賃基準。車体整備業者は、指数対応単価に修理内容に応じた作業指数や材料費を掛け合わせたものを修理費用として損保に請求し、損保が支払う仕組み。今回、日車協連は、その指数対応単価が30年間に及び見直される実態がなかった点に着眼した。
泰楽氏は「過去には団体交渉の場があったが公取委から損保に独禁法の抵触を指摘されて以降、30年にわたり指数対応単価について協議する場がなかった」と説明。昨年、国の押しを受け損保各社が改定に動いたが、長らく指数対応単価が据え置かれた現状を明るみにした。
また指数対応単価は損保会社と個々の車体整備業者との協議を基本としているが、日車協連は「取引上の地位が相手方(車体整備業者)に優越している事業者(損保会社)が、取引の相手方に対し、一方的に著しく低い対価での取引を行うことを強いている」と指摘。「とりわけ労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、取引価格にコストの上昇分を反映させないことが大きな問題となっている」ことを団体協約に動いた理由に挙げる。
日車協連が懸念を示すのが深刻化する担い手不足だ。「メカニック不足から"整備難民"が発生しており、メカニックの処遇改善、コンプライアンス遵守を図るため収益改善が喫緊の課題となっている」と泰楽氏。令和5年度自動車特定整備業実態調査結果(日本自動車整備振興会連合会)によると整備要員の平均年齢は52.7歳(専業)で平均年収は378万円(専業)。団体協約締結を収益改善の契機にしたいとの期待がある。
協約に盛り込む17.5%以上の根拠は、国内企業物価指数を参考にした。「2022年の国内企業物価指数は、2020年比で19.3%上昇しており、昨年損保各社が実施した2.5%増前後の改定分と合わせて妥当なラインと考えている」と説明。更に「今回の工賃アップによる損保4社の増加額は700億円弱と試算している。損保の収益性を鑑みても大きな負担にはならないと見ている」との見解を示した。
既に日車協連は5月21日に損保4社に対し、個別で団体協約締結の申し入れを行っており、1カ月以内に1回目の交渉を始めたい意向を伝えたという。日車協連としては「団体交渉は今回に限ったことでなく、今後も定期的に行いたいと考えている」とした上で、決裂した場合は、国土省に斡旋、調停を申請する意向を示した。協約の実効には総会(6月)決議を要するため、早くて年内にも妥結したい考えだ。
◇記者の目
顧問弁護士の饗庭氏によると音楽家や脚本家など個人事業者が連なる組合を除き、企業が加盟する協同組合で特定の企業に団体協約を申し入れる事例は極めて稀だという。ここで重要なのは、公正取引委員会(公取委)の後押しを得た点だ。
今年3月29日に公取委は「日車協連が損害保険会社との間で、指数対応単価を引き上げることを内容とする団体協約を締結することは、 独占禁止法の適用除外となる」との見解を示したことで団体交渉に弾みがついた。
今後は、日車協連と損保との交渉の行方を見守ることになるが、要求通りの妥結を得た場合、加盟会社には収益改善から経営安定化に寄与した成果が求められる。日車協連は今交渉で損保から特定認証の取得や資格者の確保などを要件に求められる可能性を想定するが、人材確保や安定雇用、コンプライアンス遵守など加盟会社に対する注目度が高まることになる。
一方、協同組合の存在意義を示した点も大きく、現在加盟申し込みが相次いでおり、組合のない空白県においても設立を働きかけていくという。