"タクボ"が考える塗装技術(後編)
選ばれる企業、選ばれる装置へ

ティーチングアシスト機能を搭載した回転塗装ロボット「SWANPRO」の開発ストーリーに迫ったインタビュー企画の第2弾。今回は、タクボエンジニアリングの佐々木栄治社長がものづくりを取り巻く現状から塗装の将来展望について語った。佐々木氏が見据えるのは、最先端のものづくりに適した塗装技術。「世界が品質、コストを求める中で、より使いやすい、分かりやすい機械が必要になっている」と新たな塗装機の開発へ進化を続けている。


----ロボット技術の進化が取りざたされていながら、塗装での普及は遅々としている印象があります。何が阻害していると考えますか。

「かつて風靡した塗装ロボットが停滞している最大の課題は、ユーザー自身が使いこなせるものでなかったという点に尽きます。もちろん上級者であれば使いこなせるようになりますが、ただ機械を使いこなせるか否かはお客様任せという現状があります。ロボットメーカーが塗装を知らないことが背景にありますが、現場とのギャップは埋まらないまま今日に来ています。かつては塗装機メーカーもロボットを開発していた時代もありましたが、今は撤退し、世界中探しても塗装専用ロボットを開発しているのは当社しかありません。そのため世界中からお客様がティーチングサービスを受けに来られる姿を見ると、より一層使いやすい塗装ロボットを作っていかなければならないという使命を感じます。ロボットと現場のギャップをどう縮めるかが私たちの役どころであり、アシストの考え方です。SWANPROも今夏に新しいバージョンをリリースする予定で、2020年の完全自動ティーチング完成に向け注力しています」

----以前、世界は回転塗装に変わると話していましたが、その考えは今も同じですか。

「そうです。手で持てるものはすべて回転塗装に変わると思っています。本当に塗れるのかという疑心暗鬼な興味も含め、世界中から引き合いが来ており、実際に採用がどんどん決まっています。3月には韓国に納入し、中国、メキシコ、タイと納入先国も増えています。それぞれの国に採用されることで、加速度的に伸びていくでしょう」

「またAI技術の台頭も塗装機の在り方を大きく変える可能性があると見ています。AIを活用するためには、一定量のデジタル情報を要しますが、当社の"Rの技術"と称する回転塗装はロボットをワークに対し動かす必要がなく、ガンが待っているところにワークが来るいわゆる"待ち伏せ塗装"です。そのためガンの位置、吐出量、霧化パターンなどの豊富なデータを記録しやすいという特徴があります。一方、ワークを止めてロボットが追いかけていく方法では、情報を定量化しにくいためAIの活用は難しい。それだけ回転塗装は自動化との相性が良いということです」

----それでもまだまだ回転塗装はニッチな印象があります。

「そうかもしれません。回転塗装と銘打って製品化している会社は他にないですからね。理解してほしいのは、単純にワークを回して塗るのが回転塗装ではなく、我々の回転塗装技術は塗れる、塗れないの議論より商品を作るために開発したシステムであるということです。それが要求品質の高いパソコンやモバイル端末、自動車部品へと採用される理由にあります。当社は周径600mmの範囲で収まるものであればすべて塗れると考えており、室内向け自動車部品などは回転塗装で対応できますし、まだまだ用途も広げられます。ASTEC2018の展示会に化粧品塗装向けのアタッチメントを発表しますが、化粧品、漆器は注目している市場です」

成型から塗装へつなぐ未来像

----ものづくりの最先端に介在していこうという強い意欲を感じます。ものづくりの潮流をどう見ていますか。

「あらゆるものづくりが世界と競争する時代に突入しました。世界競争というのは、世界で勝てるコストを意味します。またそのコストは、いかにエネルギーを使わないでものを作るかです。そういう視点で考えると、塗料使用量を半減できるガンはないか、防爆モーターのノウハウを生かして塗料供給システムを作れないかなど、次々とアイデアが湧き出てきます。塗料ホースも要らない、電気をつなぐだけで塗装を可能にするロボットの姿を描いています。また塗料の加温加湿の自動制御など、塗装エネルギーを削減する開発テーマはたくさんあり、そこを追求していくことが世界に勝つための術だと考えています。これからの塗装は、今まで以上の品質要求とともに決められたコストで仕上げることが当たり前のように求められるということです」

----市場から見ると、塗装のコスト構造は見えにくいかもしれません。

「1つにすべての塗装機で数値管理がされていないことがあります。まして手吹き塗装から塗料使用量を量ることなど到底できません。当社の装置は1cc単位から制御可能でかつ算出することができるため、塗料代から塗装単価を簡単に把握することができますが、数値化されていなければ、ユーザーにとってもコストを認識するのは難しいのは当然です。しかし一方で、メーカーが要求するコストに外注先が応えられないことが内製化に拍車をかけている現実があります。今後は塗装専業者にとってもお客さんであるメーカーを世界で戦えるようサポートしていく姿勢も必要だと感じています」

----大変な時代ですね。これからものづくりと塗装の関係をどのように見ていますか。

「2020年にSWANPROを完成させた後についても、お客さんがどこに向かうかを注視しています。恐らく将来は成型から塗装というプロセスがもっと進むと考えています。そうなるとロボットも変化しなくてはなりませんし、塗料も変わらなければなりません。これも以前から言っていることですが、2液ウレタン塗料も将来のものづくりに合わなくなる可能性があります。成型から塗装をつなぐには、分単位のタクトになり、乾燥も同レベルの時間が求められます。そうなるとUV硬化塗料しかありません。自動車の車室用部品におけるUV塗装の実績は国内ではほとんどありませんが、国内メーカーが中国に出している部品についてはUVが使われているケースがあります。いずれ自動車部品もUV塗装が一般化することが想定され、そのためには金属素材であっても一度プライマーを塗れば、そこは樹脂面だという捉え方も必要になります。またUV塗装が普及するもう1つの理由に環境問題があります。中国の溶剤規制は厳しさを増しており、規制によっては一切溶剤系塗料を使わなくなる可能性があります。そうなると水系もしくはUVになります。また当社も10年前からインクジェット塗装機の開発を手がけていますが、インクジェットで塗料が吹けるようになると、ある程度のものはインクジェットに変わる可能性があります」

----さまざまなアイデアを製品化につなげるためにどのような開発体制を構築しているのでしょうか。

「私は社内で新しいものすべてを開発することは考えていません。大抵、新規開発は社内で完結する経営者が多いと思いますが、何かを開発する際は、必ずアンテナを張り巡らせコアな技術や専門知識を持つ外部の会社と手を組むようにしています。先方と話ができる人材を社内に置くことは重要です。しかし仕事が仕事になると社内が硬直化し、開発スピード低下や販売のタイミングを逃すなどの難しさが付きまといます。アイデアを持ち、形にするために外部の優れた技術を持つ優秀な会社と手を結ぶことで費用はかかりますが開発は着実に進んでいきます。SWANPROのアシスト機能もそうしたディレクションと優れた技術を持つ外部の力によって成り立っています」

----構想やアイデアが事業価値になっているということですね。

「これからは考える力が非常に大事になります。人が考えることを先回りして、製品化に結びつけていく。また使ってもらうためには、使いやすくて分かりやすいものにしていくことです」

「特に昔と違うのは、機械が営業する時代になったということです。メーカーにおいても自社の商品をきちんと仕上げてくれる外注先かどうかを、導入している機械から判断しているケースが出ています。当社の塗装ロボットがあるなら、安心して仕事が頼めるということが現実に起きており、秘密保持にまつわる非公開の慣習から公開する設備すなわち我々が意識している"見せる装置"を作る時代が来たということです。今後ますます選ばれる企業、選ばれる装置を開発していくことが重要になるのではないでしょうか」

代表取締役 佐々木栄治氏



代表取締役 佐々木栄治氏
代表取締役 佐々木栄治氏

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