今年4月、日本最大級の自動車修理工場が大阪府寝屋川市に誕生した。大阪トヨタ自動車の内製化鈑金塗装工場・ハローボディは、2工場(寝屋川工場・平野工場)を統合する形で新設された。オープン以降は鈑金塗装工場の経営者やディーラー、自動車学校など延べ200人以上が訪れており、業界の注目を集めている。

同社の入庫台数は月に700台と1工場での生産台数は最大級。稼働して1年目の目標は月700台で2年目からは800台の入庫を行う予定。

新しい鈑金塗装工場の設備とは

同社では、今後更に需要が増えるカメラやセンサーが搭載された自動車への対策とし、すべての整備・板金作業場の水平環境を保ち、エーミング対応を図っている。また、工場内にあるフレーム修正機や塗装ブースは最新式のものを揃えた。特に新設する上で同社がこだわったのは生産性と従業員の作業環境だ。水性塗料の導入や湿度管理できる塗装ブースなどさまざまな工夫を凝らしている。

工場新設に合わせ、同社では溶剤塗料から水性塗料に切り替えた。従業員の労働環境改善やトヨタ自動車の水性宣言などが理由だという。「以前水性塗料を使ったことがあり乾燥性や品質が悪いという印象だった。しかし、導入前のトライアルではその印象はすぐに払しょくされ格段に進化しているのを感じた」と使用した感想を話す。同社ではハローボディ建設工事期間中に、2工場(寝屋川工場・平野工場)で、段階的に水性塗料の使用量を増加する計画を経て、徐々に慣れながら、ハローボディ竣工時に水性塗料100%導入切り替えを行った。

現在、水性塗料は関西ペイントとロックペイントの水性塗料を使用している。関西ペイントは、情報量の多さとオールマイティな作業ダメージに対応できる塗料として損傷が激しい自動車に使用している。ロックペイントは、研磨性と乾燥性に優れているという理由から比較的損傷の少ない自動車に使用している。

一方、塗装ブースはアンデックスの最新式を採用。6基あるブースのうち4基は標準タイプよりも幅50cm、長さ70cm大きくしている。同社では損傷の激しい自動車の入庫比率も高い。それに伴って交換パネルを多用することから車両と交換パネルを同時に塗装できるように工夫した。「一回り大きくすることで入るパネルが増え、1台の修理車両でも塗装ブースを2回転行わなくて済む」(南部氏)と生産性向上に寄与。また、乾燥室では天井にも赤外線乾燥機を設置することで、乾燥時間を短縮した。

3基のブースには湿度コントロール機能を備えた。塗料メーカーは塗装を行う推奨環境を湿度約50%としている。水性塗料は雨天時など湿度が70%以上になり、乾燥時間が溶剤に比べ約1.7倍になると試算する。「湿度は生産性や塗装品質に直結するためコントロールできるようにしている。エンジニアに聞くと、急な夕立ちで湿度が上がった時があったが、湿度コントロール機能が付いているブースでは影響がなかった。一方その設備がない塗装ブースでは希釈水を入れ替えるなど工夫しなければならなかった」と湿度コントロール機能の効果を説明する。

また、全塗装ブース横にはマスキングストールを設置。塗装ブース内でのマスキング作業時間をなくすため、塗装ブースをバーチカルドアに変更し、スライドして車両がブースに入れるようにしている。「生産性を落とさないため、ブースの回転率は100%に近づけるようにしている」(南部氏)と水性塗料導入後の塗装時間が長くなることを予測し工夫を凝らす。現在では1人当たりの生産性は水性塗料導入以前と変わらないところまできているという。

その他、同社では各作業の進捗をリアルタイムで把握できる自社システムを開発し、見える化を図っている。「例えば塗装は60分、90分、120分という時間の使い方だが、鈑金作業は場合によっては半日や1日など作業のスピード感が違う。そこをどう効率よくつなげられるかが課題となる。その他にも次の工程に移る時間短縮や、より技術力を高めるための人材育成を含め、まだまだ改善の余地はある」(南部氏)と更なる生産性向上のための策を講じていく。