靴クリームなどを製造する谷口化学工業所が一昨年末に発売した木材用DIY塗料「クロマニョンペイント」。新たな市場開拓に挑戦しているのが谷口弘武社長だ。「ホームセンターなどでDIY市場に浸透させていきたい」と話す。

谷口化学工業所はレザーケアなどのクリーム「ライオン靴クリーム本舗」の名称で製造・販売を行う創業113年の老舗だ。現在、日本最古の靴クリームのメーカーとして知られている。

靴クリームが使用される革靴の市場はこの20~30年で市場が変化。カジュアルなスニーカーが消費者に浸透し、革靴の需要も減少、革靴メーカーも廃業が増えていったという。「更に、コロナ禍でビジネスシーンなどスーツを着て革靴を履くフォーマルな場も減少した」(谷口社長)と市場縮小を肌で感じていた。

加えて、少子化で国内での消費力が大きく増えない中、「これまで培った技術を他の市場で生かせないか」と新たな市場開拓に取り組んだのが、2019年に社長に就任した谷口社長。前職はIT関連の営業職という経歴を持ち、日本的なものづくりに魅力を感じ、家業である靴クリームメーカーを継いだ。「もともと前職が日進月歩で技術が進歩し、1年で覚えた知識が古くなっていく業界に身を置いていた。そのため、新しいことやものに挑戦する土台が自分の中にもできていたのかもしれない」と話す。

同社が重視したのが、外部環境が整っている、投資が比較的少ない、自分自身がやりたいかの3つ。今までクリームの撥水技術を生かしたウィンタースポーツ用品やジビエを使用したレザーブランドなどの展開を試みたが、需要量や投資コストなどの点から断念。そこで行き着いたのが、DIY用塗料の開発だ。

谷口社長は「調査してみるとDIYのメインであるホームセンターは店舗数を伸ばしており、人が集まるところに売上は立つと感じた。また、コロナ禍の巣ごもり需要で売上を伸ばしていることも大きかった」と、市場環境が整っていると判断。また、既存の製造設備や販路を活用できること、社長自身DIYが好きだったことなどから本格的な製品開発に入った。

開発の過程で友人や知り合いの建築関係者などにヒアリングを行った。その中で「容量が多く使いきれない」「準備や片付けが大変」などDIYにおける塗料の課題を抽出。それを解決できるような製品を志向した。

こうして木材用DIY塗料「クロマニョンペイント」を新たに開発。「『誰でも』『手軽に』『心地よく』をコンセプトに使いきれるサイズにこだわった」と谷口社長。ハンディステインと呼ばれる靴の手入れに使用される、先端がスポンジになっている容器を使用。手が汚れる心配もない。刷毛やローラーなど副資材なしで塗装ができる。

カラーはホワイト、ブラックをはじめ、有彩色のブルーベリー、チェリーなど10種類を揃える。その他、布で塗るカフェワックスやニスタイプも揃えた。木目を生かし、温かみのある色合いを付与する。「顔料ではなく染料を使用し着色しており、当社が培ってきた薬剤を染み込ませる技術を応用した」と既存技術を生かしている。

最初は靴クリームの販売で取引していたホームセンターなどに提案し同品の販売がスタート。昨年はインターナショナルギフトショーやDIYショーに出展するなど、市場での認知向上と販路拡大に努めた。現在では、いくつかのホームセンターで試験的に導入されるなど少しずつ拡大の兆しを見せている。谷口社長は「DIYを通して、家族や友人と楽しい時間を過ごす。これを経験した子供たちは、大人になった時にまた自分の子供たちとDIYを行う可能性もある。親から子へと経験が受け継がれていけば文化ができる。当社の製品もそういった文化づくりに寄与できればうれしい」と話す。今後は製品をより魅力的に見せるための売り場づくりも提案しながら、需要拡大に努めていく。