現代社会でこそ輝く内装仕上材

塗装施工用に開発された「本格しっくい」が、業界企業のビジネスチャンスを広げそうだ。しっくいが持つ抗ウイルス機能や二酸化炭素を吸収する自然のチカラは、コロナ禍に翻弄され、脱炭素を迫られる現代社会でこそ説得力を持ち、販売機会が拡大するためだ。塗料・塗装業界に向けて展開が始まった塗装施工用しっくい「MILIME(ミライム)」の可能性を探る。


塗装施工用しっくい「MILIME」は、しっくいのトップメーカー・田川産業(本社・福岡県、行平信義社長)が開発した内装仕上用の"本格しっくい"。販売子会社のミライム(福岡市、行平史門社長)を通じて市場展開に入った。

最大の特徴は、それまで左官(コテ作業)に限定されていた本格しっくいの施工を、ローラーなどの塗装用具で実現した点。「ローラー塗装での転写性や吹付施工の粘度調整など試行錯誤を重ねながら、塗装適性の高い本格しっくいの開発に漕ぎつけました」(ミライム・行平史門社長)と説明。左官に比べ、より汎用性の高い塗装工法で実現したことで、「しっくい仕上げを提供できる市場が広がる」とし、市場開拓のパートナーとして塗料販売店などとの取り組みをスタートさせた。

時代が求める建築仕上材

ここで、「しっくい」について改めておさらいをしてみる。

しっくいの主原料の「石灰石」は、海中のサンゴや海洋生物が堆積し、数億年をかけて地層化した天然の鉱物資源。この石灰石を高温で焼き、水をかけて消化させた強アルカリ性の粉体「消石灰」を主成分に、増粘剤としての「海藻糊」や繊維成分の「スサ」などの天然原料で構成されるのが「本格しっくい」と呼ばれるものだ。

しっくいの持つチカラとして「消臭性」「調湿性」「抗菌性」「安全性」「不燃性」「防カビ性」の6つの効能がよく知られている。生活臭やVOCを吸着分解して室内の空気をリフレッシュするチカラ、吸放湿により快適な湿度に保つチカラはしっくいの多孔質な性状によるもの。高気密化する住空間での効用が期待されている

更に、ここにきて、しっくい(消石灰)の持つ強アルカリ性への注目が高まっている。いうまでもなく、コロナ禍における抗菌・抗ウイルス効果への期待だ。

しっくいのpH値(12.5)は、市販の除菌クリーナーや台所用漂白剤と同レベルの強アルカリで、この環境下では菌やウイルスは生息できない。鳥インフルエンザなどの発生時に消石灰をまいてウイルスを不活性化していることからもその効能が実証されている。今回の新型コロナ禍だけでなく、地球温暖化によって未知のウイルスへの警戒が高まる中、室内空間の安全安心に向けた仕上材料として改めて説得力を高めている。

そればかりではない。しっくいの硬化のメカニズム自体に、現代の社会課題に資する効用が備わっているのだ。

壁に塗られたしっくいは、硬化の過程において空気中の二酸化炭素を吸収する特性を備えている。これは、しっくいの主成分の消石灰(Ca(OH)2)が、元の石灰石(CaCO3)と同じ性質に戻ろうとする過程(硬化)において空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収するためで、自然のサイクルでカーボンをオフセットしてしまう稀有な建築材料でもある。しかも、合成樹脂やセメントなどによる結合ではないので土に返すことができ、循環型マテリアルにも合致。カーボンニュートラルやSDGsの達成を求められる現代社会でこそ輝きを放つ建築仕上材としてポテンシャルが高まっている。

塗料流通の販売力に期待

「この1~2年で、しっくいに対する市場の反応が劇的に変化してきました」(行平史門氏)と同社は言及する。役所や設計事務所、ハウスメーカーなどへのプレゼンにおいて、しっくいへの関心が格段に高まっているというのだ。

「オフィスや商業ビル、公共施設、住宅などいずれの建設工事においても、脱炭素やサステナビリティ、環境共生が優先テーマになる中で、しっくいの有用性が改めて注目されています。ESGの観点から建設に際しての融資を受けやすくなる、商業ビルのテナント誘致や集客のブランディングに有効、住宅販売の目玉になる、より安全安心な公共空間を提供するためなど、これまでと違った価値軸での採用が明らかに増えている」と説明、急速な需要の広がりを実感している。

こうした背景のもとで開発を急いだのが塗装施工用しっくいの「MILIME」だ。コテ作業に限定されていた本格しっくいの施工を、塗装ローラーや吹付塗装で提供できるようにしたことで広範な需要をカバーできるようになった。

このため同社は、塗装施工用しっくい「MILIME」の流通基点として塗料販売店にアプローチ、既に20社ほどの社店がアクションを起こしている。「塗装施工用といえども、本質的にはしっくいなので通常の塗料を塗る感覚に比べれば多少のクセはあります。ただ、そうしたことをハンデとせず、むしろ自社と顧客(塗装ユーザー)の将来のために必要な商材との観点で取引を希望される販売店様が多い。時代が求める商材ということへの深い理解があるのだと思います」(同)と、しっくいへの共通認識を核に流通網を広げていきたい考えだ。

「MILIME」は主に内装向けで、石膏ボード、ケイカル板、コンクリート、モルタル、塩ビクロス、古壁(しっくい壁、砂壁、土壁)、EP旧塗膜などの下地に適応。刷毛、ローラー、吹付による施工ができ、専用下地調整材を塗装後同品の2回塗り。含みの良い中長毛ローラーなど推奨塗装用具も選定した。荷姿・容量はポリペール缶20kg入り(下地調整材は4kg)、施工面積は35~40㎡/缶。材工の設計価格は「量産ビニールクロスの倍程度」と、本格しっくい採用へのハードルを大きく引き下げた。



本格しっくい「MILIME」
本格しっくい「MILIME」

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