多彩な色や意匠付与を可能にする塗料は、これまでのイメージを一変させるポテンシャルを有しているが、塗装工事においてカラーデザインが表舞台に立つケースはまだまだ少ない。同社で長年にわたり建築物のカラープランニングに携わってきた寺崎誠三氏にカラーデザインの役割と可能性について話を聞いた。

 ――まずは寺崎さんのキャリアについて教えてください。
「美大を卒業後、別の会社を経て平成3年に入社しました。カラーデザインセンターは、カラーシミュレーションとカラーコーディネート(色彩設計)の2本柱からなるサービス部門で、今でこそカラーシミュレーションソフトなど便利なツールがありますが、入社当初は、建物の写真をOHPフィルムにトレースし、実際の塗料で色をつけるなんてこともしていました」

――OHPフィルムですか。歴史を感じますね。現在はどのようなチーム体制ですか。
「大阪、東京に拠点を構え、それぞれのスタッフが営業から持ち込まれた案件に対し、カラーデザインを行っています。また対象は、共同住宅から大規模施設など建築物に至るすべてが対象になります。営業販促ツールから、有償として請けているものなど用途や目的はさまざまです」 

――相当な仕事量ですよね。
「限られた人員で対応していますので、それこそ繁忙期は猫の手も借りたいほどです。納期が短い場合は対応しきれないこともあり、営業とのこまめな連携が重要です」

 ――それだけ営業サイドにとっても不可欠なツールになっているということですね。
「ただ私たちとしてはジレンマも感じています」

――どういうことでしょうか。
「カラーデザインの価値を自負する私たちとしては、色決めは施工直前ではなく、計画の早い段階から参加していきたい思いがあるからです」

――それだけカラーデザインが施主に訴求する力があると。
「そうです。私たちが相対するのは主に改修建築物ですが、カラーデザインを施すことで商業施設であれば集客効果を高めるなど、人や地域に対し有形無形の価値を提供できます」

――興味深い切り口ですね。ただ新築と同じ色でいいと考える人も少なくないように思います。
「その通りです。どちらかと言えば、長年慣れ親しんだ色を変えることに抵抗感を持つ方が多いかもしれません。しかし、私たちカラーデザインに携わる者にとっては、塗り替え時こそがその建物にとってより相応しい色を見つけるチャンスと捉えています」

――面白いですね。話を続けてください。
「私たちカラーコーディネーターが色彩計画を行う上で大切にしているひとつに、周辺地域との調和を目的とした環境色彩があります。環境色彩は、建物の配色だけではなく立地や気候風土、また周辺の建物や地域性も加味して設計を行います。言い換えれば、施主様のご要望を取り入れつつ、普遍的で飽きの来ない色彩設計を目指しています」

――環境色彩は、塗料業界でも長年啓蒙しているコンセプトでもありますね。
「平成17年に景観法が全面施行されてからは、色に対する意識も随分高まりましたが、環境との調和を意識した色彩設計はまだまだ少ないです。建造物の外装仕上げに多用されている塗料・塗装業界全体でこの環境色彩について真剣に取り組んでいかなければいけない分野と感じています。」

――これまで寺崎さんが手がけられた中で印象深い物件はありますか。
「神奈川県川崎市にあるUR子母口団地の塗り替えですね。2019年暮れの『第22回グッド・ペインティング・カラー』で改修部門の優秀賞に選んで頂きました。この団地は10階建てと7階建ての棟をL字に配した1号棟と、7階建ての2号棟の2棟からなる団地で、昭和45年に建てられました。特に1号棟のL字の中心に位置するエレベーター棟に塗られた黄色がひと際目立つ建物でした」

――その色彩設計を寺崎さんが任されたわけですね。
「そうです。ただ、色選びに非常に苦労しました。色彩設計を行う際、事前に現地を訪ね、建物や周辺建物の調査分析を行うのですが、近くに貝塚や古墳、寺社仏閣といった歴史的建物がありながら、近隣には派手な色を使った低層建物や看板がある。更に数キロ先には超高層マンションが立ち並ぶ武蔵小杉があるなど、非常に複雑な地域性で、色を見出すのに難儀しました。最終的には、歴史と近代的な要素を併せ持つ地域性を生かそうとホワイト系、ブルー系、ベージュ系の3色で配色しました。施工後は住民の方にも非常に喜んで頂き、賞も頂けたことで思い出深い仕事の1つとなりました」

――寺崎さんとしては、こうした色彩設計の仕事を増やしたいということですね。
「そうです。カラーデザインの難しいところは、塗られて初めて良さを感じて頂けるところにあります。本来、色を変えなくても誰も困りませんからね。ただ色を変えることによる人や地域にもたらす効果は、ポジティブな要素に溢れています。また環境との調和を基点とした色彩設計を担えるのは、塗り替えに関わる塗料・塗装業界しかありません。その意味でもカラーコーディネーターのスキルやノウハウをもっと活用して頂きたいと思います」
――ありがとうございました。