家具づくりから暮らしの提案へ

建築木部と木工家具――。ジャンルは違えど木材の風合いや素材感を最大限生かそうとする点において共通項は多い。中でも木工家具は今や単なる家具の範疇を超え、空間もしくは住まい手自身を演出するツールとして価値を高めている。需要拡大が期待される建築木部においてもどのような価値づくりが求められるのか。国内家具メーカートップのカリモク家具・山田郁二氏に木工家具の潮流について聞いた。


――国内の木工家具市場は、ライフスタイルの変化や輸入家具に押され、減少を余儀なくされています。カリモクさんとしては、そうした状況を打破していくスタンスになるのでしょうか。
「かつてはそうでしたが、今はマーケットに対する見方を変えています。確かに80年代、90年代までは、パイ自体が増えていましたので拡大戦略が取れていましたが、今は国内人口が減っている時代です。そのため今社内のメンバーには顧客とのつながり、ロイヤルティを高めることに注力してほしいとお願いしています」

――ロイヤルティですか。信頼や愛着心のことですね。
「もちろん販売店様に対し、当社の家具を優先して販売してほしいという思いはありますが、当社は家具を使うエンドユーザーの利便性を先読みして、得意先様にフィードバックすることを重視しています。今までは、『お店に展示してください』『新商品を売ってください』というようなプッシュ型の営業を重視していましたが、人口が減少する中で販売店様もカリモクを優先的に取り扱う理由がありません。お客様の暮らし方、困りごとを一緒に販売店様と解決していくことに重きを置いています。そこで当社では4年ほど前から営業プロセスマネージメント研修を始めました。ソリューション営業にシフトしなれければ生き残れないとの認識を強めています」

――なるほど。マインドを変えたということですね。
「ソリューション営業の重要性は、以前から社内でも掲げていましたが、本当の意味で腹落ちしたのはつい数年前です」

――頭で分かっていても心で理解する難しさがありますね。
「環境がそれなりに潤っている時に訴えてもマインドはそう容易に変わるものではありませんからね。環境が厳しくなったがゆえに変化が図れたという側面はあります。ただ、昔からソリューションの重要性を掲げてきたことが、変化へのシフトを迅速かつ円滑に進められたとの実感はあります」

タッチポイントを増やす

――家具事業の厳しさついては、どのように捉えていますか。
「外部の環境を受けていないと言えば嘘になりますが、私たちが掲げる目標設定の在り方や昨対主義のようなものが限界を迎えている気がします。売上高においても230億円前後で凸凹しており、ずっと右肩上がりでなければ、右肩下がりで落ち続けているわけでもないある種の壁が立ちはだかっています。ただ、その間においても無策でいたわけではありません。人材育成や社員研修の充実化、商品開発、海外デザイナーとのコラボ、コロナ禍で開設したオンラインショップなどタッチポイントを増やしてきました。今振り返れば、そうした取り組みができていたことが、今の規模を維持する要因となっています。流通とお客様とのタッチポイントを増やしていなければ、もっと厳しくなっていたと言えます」

――タッチポイントの拡充は、メーカー全体に共通する課題ですね。
「当社としては、他社さんを羨ましく感じることもあります」

――どういうことでしょうか。
「当社は、230億円から250億円の規模を有し、ひとつの装置産業の体をなしているわけですが、これが1ケタ違うと流通にも商品にもこだわりを打ち出せ、すごくエッジを利かせたブランディングが可能になります。実際、そうしたメーカーが日本を代表する家具会社として評価されています。それらに対し、当社は大所帯ゆえにブランディングにおいてもさまざまな取り組みをしなければなりません。カジュアルなテイストを訴求する『カリモク60』があれば、著名なデザイナーとのコラボブランドなど、さまざまなブランドがあり、お客様からは分かりにくくなっているかもしれませんね」

――事業規模が大きいゆえのジレンマですね。
「マーケティング的に言うと、1つのポジショニングで戦えないというべきか、それぞれのマーケットで戦わなければならなくなったということですね。時折、若い社員に話すことですが、私が入社した80年代は、同じ味ながらみんなが腹一杯食べられるスイカの大玉のようなマーケットでした。それが今はぶどうのようなマーケットで、房全部を食べて腹が満たせるにも関わらず、房ごとに流通や商品、販促、顧客との接点の在り方をチューニングしなければならない、ものすごく手間がかかるようになったということです」

――それだけ家具に求めるスタイルや嗜好が多様になったということですね。なぜだと思いますか。
「私が1つ思うのは、お客様が家具やインテリアに詳しくなりすぎたからだと思っています。既にファッションが汲んでいる流れでもありますが、人と同じものが良いという時代から人と違うものが良いということが家具にも起こっています。従って、ファッションがそれぞれ個人の好みに合う店舗で買い求められているのと同様、お客様が暮らしの自己実現を表現しようとする際に単に家具があれば良いという次元ではなくなったということです」

"暮らし"にフォーカス

――商品を提供するメーカーとしてこれから市場にどのように向き合うべきなのでしょうか。
「少なくとも当社においては、ブランドをたくさん持ち、それぞれのマーケットに適合させていきながら、全社的機動力を発揮し、生産性、効率性を高めることに注力すべきだと考えています。あと付け加えるなら、"家具"というジャンルにとらわれない視点を重視しています」

――詳しく教えてください。
「以前は『木製品の製造販売を通じて人間生活の向上に貢献する』をミッションに掲げていましたが、現在は『木とつくる幸せな暮らし』に変えました。つまりミッションから木製品=家具という言葉がなくなったわけです」

――大きなポジションの変化ですね。事業の在り方を変える狙いですか。
「木を使ってWell-Beingを提供していく姿勢を打ち出し、数年前からOEMも増えています。具体的な事例では、資生堂さんのスキンケア用品に木の端材で作った当社の木製容器を提供した他、仏壇のはせがわさんとは、当社が家具仏壇を作らせて頂きました。家具仏壇は、部屋と調和するトータルインテリアをコンセプトにした商品です。これまで当社が手掛けてこなかったアイテム以外の物に積極的に触手を伸ばしていくこともマーケットを細分化していくための方策と捉えています」

――OEMの場合、委託会社とカリモクさんのダブルブランドになるのでしょうか。
「なる場合とならない場合があります。公にしていませんが、同業の家具メーカー部材の一部を手がけたこともあります」

――自社ブランドにこだわらず、許容度を広げているわけですね。
「そうです。当社としては、ホームユースにしろ、コントラクトユースにしろお客様に豊かな暮らしを提供することを目的としていますので、OEMに対する違和感はありません。むしろOEMによって、自社の技術が引き上げられるメリットを享受しています。また、OEMを進めるもう1つの要因に国内林業の活性化があります。日本はこれだけ森林大国でありながら、外来樹に頼らなければならない異常さを抱えています。特に家具に使う広葉樹は多樹種少量で供給されたとしても細くて小さい雑木扱いの材しかなく、安価なパルプ用材やバイオマス燃料に流れています」

――国産木材を利用する重要性が認識されていながら需給ギャップは大きいようですね。
「森林の活性化策として植林の重要性を聞く機会が多いと思いますが、これには誤認があります。木は動物に食われなければ、植林をしなくても自ら発芽して成長していきます。むしろ重要なのは、木の成長を促すために下草を刈ったり、陽が入るように間引くなどの世話が必要だということです。しかし、当然世話にはお金がかかります。だからこそ成長した木を安価な価格ではなく、担い手を確保するためにもしっかり対価が得られるような環境にしなければなりません」

――木材産業全体の課題でもありますね。何か講じている取り組みはありますか。
「当社は、小径木の広葉樹を家具用材の単価で買うフェアトレードを始めました。わずかな活動ですが、当社がそうすることで林業に金が回り、雇用が創出されることを期待しています。先ほどの資生堂さんとのOEMは、こうした取り組みを評価して頂いたことも背景にあります」

――社会的課題に対するアクションが環境やエシカルを重視する消費者ニーズと相まって、取引関係にも広がりを生んでいるということですね。最後に塗料・塗装についてトピックスはありますか、
「今年春に発表したZAHA HADID(ザハ・ハディド)氏とのコラボブランド『SEIYUN』は、当社としてもエポックメイキングな取り組みになりました。HADID氏は、新国立競技場の最初のデザインコンペで採用された国内外で著名な建築家ですが、チェアの開発に際しシルバー、メタリックブルー、メタリックブラック仕上げを要望されました」

――家具にメタリック塗装とは珍しいですね。
「導管を埋めずに木目を生かすオープンポアをメタリックで仕上げる過去経験のない挑戦となりました。塗料は市販されているものですが、化学処理工程を入れたり、通常木工塗装で入れる研磨工程を入れられないなど、かなり難易度の高い仕上げとなったようです。結果、これを仕上げられるのは、数いる技能士の内、3名だけです」

――まさにコラボが技術を引き上げる事例になったわけですね。
「そうです。現在はこのメタリック仕上げの量産化対応に着手しています。当社としては、これからもさまざまなデザインニーズに対応できるよう知見、技術を積み重ねていきたいと考えています。そのためにもサプライヤーさんにも、どんどん新しい技術を提案して頂きたいと思っています」

――ありがとうございました。



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