専門工事業の元請け体制堅持を推進、災害協定も視野

今年5月の総会で奈良間力会長(東海塗装・取締役会長)からバトンを受け取り、槌谷幹義氏(大同塗装工業・代表取締役)が新会長に就任した。近年、道路橋はPCBや鉛含有塗膜の剥離及び塗装工事が増加。社会インフラである道路橋の維持管理において専門工事業者の役割は大きくなっている。橋梁塗装の元請け施工体制の堅持を目的とする橋塗協のトップとなった槌谷新会長は、自治体の災害協定締結や材料メーカーとの連携を高めることを目指していく。地域貢献や技術協会として役割を果たすことで全国組織としての存在感を高めたい考え。槌谷会長に橋梁塗装の現状と橋塗協としての今後の取り組みについて聞いた。


――現状の橋梁塗装の市況はいかがですか。
「低濃度のPCB廃棄物の処分期間は令和9年3月31日までに終わらせることがPCB特別措置法で決まっているため、全国各地の道路橋では低濃度PCB含有の塗膜除去の塗り替え工事が多く発注されています」
――引き続きPCB含有塗膜の除去物件が多いということですね。
「そうです。そして有害物の処理なので飛散を防ぐために、隔離養生や全面マスク及び防護服などの装備をしての剥離作業は極めて重労働であることと、それに伴う労務費、消耗品費、産廃費などの費用がかさんで工事金額が高額化している現状があります。PCB含有塗膜の塗り替え工事の金額が張っているため、発注件数が少なくなっているので、いわゆる通常の塗り替え工事が先送りされていると見られます。PCB関連工事が一段落すれば、通常の橋梁塗り替え工事が増えてくるのではないかと期待しています」
――工事における塗装面積は減っているのですか。
「そうですね。平米数としては減っていますが、我々塗装専業者に取ってみると工事金額が上がっているのでボリュームとしてはあるという感じです。そういう意味では橋梁塗装業界として、全体的に売上は伸びているのではないでしょうか」

災害協定締結で地域貢献

――先の5月の総会において、会長就任あいさつで話をされていた各自治体への災害協定締結について詳しく教えてください。
「橋塗協としては全国各地の行政に対して、地域貢献の一環として災害協定締結を推進していきたいと考えています。実際的には、総合評価方式の入札に関して、社会性において加点されるという側面もあります。災害協定の内容や方法については各地区委員会ですり合わせをしてほしいと考えています。地区によって会員の数も異なりますし、行政の考え方も多様ですので、各地区委員会で有益であると判断すれば行動に移してもらうということです」
――橋塗協として取り組みの仕方を統一するわけではないのですね。
「その地区の行政によって協力してもらいたいことは違うと思うので、橋塗協としてのスタンダードは特にありません。私もメンバーである関東地区委員会では東京都建設局とは既に折衝を始めています」
――塗装専門業者としての特性を生かすやり方ですか。
「災害協定にはいろいろあるのですが、例えば避難所に物資を運ぶだとか発電機や投光器を持っていくことなども1つです。担当地区を決めて、避難所に指定されている場所や建物、道路、歩道橋などが健全に使えるか確認しに行くだとかも考えられます。他にも行政から緊急の補修要請、例えば水漏れなどをすぐに補修してほしいと要請があれば対処する仕組みを作ることも必要だと考えられます」
――地域特性によって活動の仕方は異なりそうですね。
「そう考えています。先日、役員会で少し話しましたが、会員が少ない地区では橋塗協としての活動は難しいですが、1社でも協定は結べます。こちらから行政に働きかけるかどうかの問題です。いずれにしてもまずは関東地区委員会で災害協定の締結ができれば皆さんにもお話できる内容が増えると思います。関東で実績ができると橋塗協全体への波及効果も期待できますし、こうした活動が会員増強にもつながることも期待しています」
――就任あいさつではメーカーとの技術的な連携についても触れていました。
「私の考えとして、メーカーさんにおいては、既にユーザーの声を聞いて製品開発をされていると思いますが、橋梁現場の問題はさまざまあり、それに対応する新技術や新工法などが出てきています。その際に我々の意見ももう少し聞いてもらえると一層有用なものとなるはずです」

猛暑対策、「発注時期の検討を」

――話は変わりますが、近年では工事の大型化が目立っています。塗装専業者にとっての影響は。
「工事を分けて発注していた時代もありましたが、今は発注者としてはある程度工事をまとめてゼネコンなどに発注することによって、一元管理ができて合理化を図っています。ただ、塗装が主体の工事であるならば我々専門工事業者が元請けとして受注する方がコスト面では有利です。元請けがそれぞれの業者に発注し管理するのは経費率が高くなりますが、塗装主体の工事ならば専門工事業者が元請けとなった方が経費は大幅に削減できます」
――協会としても元請け施工を促す方針ですか。
「橋塗協は橋梁塗装工事の元請け施工体制を確立し、維持することを目的としています。それを確固たるものにするために、会員会社の技術の向上のためにさまざまな事業を行っています。具体的には技術発表大会の開催や2級土木施工管理技士(鋼構造物塗装)という資格試験の受験準備講習会の実施、技術冊子『Structure Painting』の発刊もそうです」
――元請け体制を確立する上で、現状の課題は何ですか。
「担い手不足の対策が大きな課題となっています。塗装工事業者に限らず建設業界に言えることですが、新3K(給料が良い、休暇が取れる、希望が持てる)を唱えるだけでなく、各企業が利益を出して社員に還元する必要があります」
「休暇に関して言うと、働き方改革の観点から、官公庁物件では発注者が工期を長くとっているので、週休二日体制が確立できています。やはり各企業が魅力ある職場に変わっていかなければ、これからの担い手となる若い方たちの就職先の選択肢の中には残っていけません。処遇改善と働き方改革を両立させて強力に実行していくためには、建設業界の各企業が良好な業績を上げ続けなければなりません」
 
――今の時期では現場の環境も過酷だと想像します。
「地球沸騰化とも言われる時代に夏季工事の熱中症の事故は受注業者の責任だけではないと思います。良い解決策はすぐには見つからないかもしれないが、発注者には発注時期や工事内容などをよく検討していただきたい。現場管理費の夏季補正はあるようですが、猛暑期間については労務費の歩掛を大幅に見直すなどの処置をお願いしたい。我々としても当然ながら熱中症対策はいろいろ講じていますが、現場の環境は過酷です。そのため猛暑期間は通常よりも多い休息が必要です。労務費の歩掛の見直しは、建設業界全体の問題として声を上げていかなければならないと思っています」
――ありがとうございました。

高塗着スプレーの普及促進

日本橋梁・鋼構造物塗装技術協会では高塗着スプレー塗装工法の普及促進を行っている。国交省・NETIS登録済み。
同協会が開発した高塗着スプレー塗装工法は、機械化による施工効率及び塗装品質の向上を図ることが可能となっている。
「高塗着スプレー」に関する知識や技術が必要で協会会長認定制度を取っており、毎年「高塗着スプレー塗装施工管理技術者講習会」や「高塗着スプレー塗装技能者講習会」を開催して普及促進を図っている。



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