粉体の決め手は環境、生産、メンテナンス

森ビルは外装ビル建材に粉体塗装の採用を基本としている。溶剤塗装に比べて材料コストが上がる中でも、粉体塗装の採用を決めた狙いなどを聞いた。



――高層建物の外装に粉体塗装を採用する方針を掲げていますが、その経緯を教えてください。
「2014年頃から、(フッ素樹脂系とポリエステル樹脂系を含有した)フッ素ハイブリッド粉体塗料について性能面で新しい情報を得たのがきっかけです。従来使用している溶剤系フッ素樹脂塗装は信頼性があるので、いきなり"ハイブリッド粉体"にシフトするのは現実的ではなく、塗料メーカー数社からのヒアリングや暴露試験、促進試験のデータを確認する中で『溶剤フッ素と比べても遜色ない』と分かってきたので、外装アルミカーテンウォールへの採用を試みたのが『虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー』(2020年竣工)です」

――初めて採用してみた評価は。
「カーテンウォールメーカー2社が入り、大日本塗料の塗料(2層分離形ふっ素粉体塗料・パウダーフロンSELA)を使用しましたが、両社の塗装品を比べたときの色差や外観肌の違いなどは問題ない範囲でした。その後も『虎ノ門ヒルズ ステーションタワー』(2023年竣工)の外装アルミカーテンウォールにも採用しており、これからのプロジェクトの外装でも積極的に使っていきたいと考えています」

――粉体塗装のメリットは何だと感じていますか。
「VOC排出の観点から環境負荷が小さいというのは当然あります。それから、今はアルミ建材の製造は建材メーカーのタイや中国などの海外工場が多いのですが、海外では規制が厳しくなっていて溶剤塗装が難しくなっている背景があります。そのため今後を考えると粉体塗装にシフトする必要があります。もう1つはメンテナンスでの優位性です。従来の高温焼付溶剤塗装に比べ中温焼付である粉体塗装は比較的リコートしやすい。将来的に塗装が劣化し塗り替えを考えたときに、粉体塗装の方にメリットがあると考えています。これまで当社ではアルミカーテンウォールの塗り替え経験はありませんが、RCやPCの外壁では再塗装していますし、この先を考えるとリコートしやすいことは重要です」

――メンテナンス性を重要視されているのですね。
「建物は超高層ですから、可能であればメンテナンスフリーにしたいくらいです。極力タッチアップや塗り替えの回数は減らしたいと考えています。本格的なメンテナンス工事となると建物規模も大きくなっており、コストも大きくなるので、できるだけ負担を削減していきたいと考えています。塗料は有機物なのでメンテナンスフリーというわけにはいきませんが、耐用年数は25年、30年を期待したいので、粉体塗装についてもフッ素樹脂系を採用しています」

――溶剤塗装と比べてコストの点はいかがですか。
「コストは若干高くなります。材料単価が上がるのが大きいですが、塗装工程を考えると、粉体塗装は1コート1ベークなので溶剤塗装と比べて塗装工程は抑えられますから、改善の余地に期待したいです」

――色についてはいかがですか。
「これまで使用した色はソリッド系だけなので問題は出ていません。メタリックカラーになると差は出ると思っていますが、意匠性の差が出にくい塗料も開発されていると聞くので、それを期待しています」

――カラーデザインはどのように決まるのですか。
「デザイナーを入れていて、カラーコーディネートの意見を聞きながら、当社としてはコストや性能、工期を考えた中で提案し、決定します。色決めのときにはカーテンウォールメーカーから色見本を出してもらいますが、その際安定的に出せる色ということも大事になります。そのため、場合によっては色の問題で溶剤塗装になることもあると思います」

――色以外で溶剤塗装にせざるを得ないケースはありますか。
「カーテンウォールメーカー、金物メーカーや塗装協力会社の塗装ラインによっては粉体塗装を採用できない場合もあります。その場合は溶剤塗装になります。当社としても溶剤塗装を否定しているわけではありません」

――採用する粉体塗料の基準は。
「国内外含め塗料メーカー各社が開発、改良されているので、材料選定をする時点でのデータを参考に耐久性、メンテナンス性、環境面などを考慮しながら判断します。特にメーカーを限定しているわけではありません」

――塗料を製造する場所は採用に関係ありますか。
「性能が第一ですが、同じ性能であれば判断の一要素になると思っています。海外でのカーテンウォール製造が多くなっている中で、塗料製造もその場所に近い方が納期、輸送コストなどメリットがあると思います。当社としては、カーテンウォール工場に近いところで問題のない性能の塗料が入手できればうれしいですね」

――建物の高さで塗料のグレードを使い分けることはありますか。「低層でも外装はフッ素系が原則です。耐久性を最も重視し、その結果、長寿命化することで環境負荷低減につながると考えています。また、当社の開発プロジェクトでは中低層も組み込むこともありますが、低層だけで構成することは原則ありません。基本は超高層化することで足元に空間を生み出して、緑を取り入れるという考え方があります。コンパクトな街を作り、"住んで働いて楽しんで"を実現することが当社の開発の趣旨です」

――ありがとうございました。



森ビル 村上雅之氏.JPG
森ビル 村上雅之氏.JPG

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