ケーススタディ 多店舗展開、見極めるのは塗り替えニーズの本質

今年8月、事業育成系の大学院に合格、経営学のMBA取得を目指して今月から大学院で学び始めた。17歳から働き始めて30年。心のどこかにずっとあった「学びたい気持ち」を満たすときがやって来た。これまで「成り行きで成長してきた」と振り返る自社の経営を、大学院で学んだ理論で武装し、今より高いステージを目指す。住宅塗装市場が曲がり角に来た今だからこそ、「本物の経営を学びたい」と気持ちが昂る。

 


群馬県伊勢崎市に本社を置く佐藤(旧社名・佐藤塗装)は、佐藤和幸社長(=写真)が25歳のときに創業した塗装会社だ。17歳から塗装職人として働き始め、修行を重ねて25歳で独立。地元の伊勢崎市で事業をスタートさせた。

独立したといっても仕事の中身は地元工務店や同業者からの下請仕事が中心。「他力本願で受注は安定せず、請負単価も厳しかった」という下請けの世界。企業経営に悩み、伸び悩んでいる中でひとつの出会いがあった。"塗装でできる社会貢献"を旗印に全国の塗装店が集っているボランティア団体「塗魂ペインターズ」との出会いだ。

「会員のほとんどが、住宅の塗り替えを自社元請で展開している地域密着型の塗装店。当社と同じくらいの規模ながら、自律成長を目指してガンガンやっている同業者が多く在籍し、とても刺激された」と即座に入会。

以降、塗魂ペインターズの会員をモデルに、自社元請スタイルによる住宅塗り替え専門店にシフトチェンジし、成長への足掛かりをつかんだ。今から12年前のことだ。

「最初の頃は、自分でチラシをまいて、引き合いのあったお客様に自分で営業をかけ、自分で塗るスタイル。成約率に関しては百発百中、予想以上に仕事が取れた」と回想。「商品を売るのではなく、自分を売り込む」という佐藤社長のポリシーが、その人間性と相まって住宅塗装事業にはまった。

「塗装工事のような高額で形のない商品は、結局のところ相手を信じられるかどうかでしかない」と、塗装営業における本質を指摘。事業規模の拡大に伴って増えていった社員にも、その佐藤イズムを徹底、自社元請けによる住宅塗り替え事業を確かなものとした。

地元・伊勢崎市周辺における地域一番点を達成し、2018年には県をまたいだ埼玉県に熊谷支店、2020年には同じく上尾支店を開設。塗魂ペインターズ入会時の年商5,000万円から8億円へとハイペースで業績を伸ばした。

本物の経営学を学び、強くなる

そして2023年1月、「多店舗展開の本命」と目していた東京に進出、葛飾区に新小岩店をオープンさせた。「地方の人口減少は確定した未来予測。地域一番店とはいえ、それぞれの地域でシェアが高いことは、人口減少の影響も大きいことを意味する。従って東京への進出は以前から念頭にあったが、思わぬ事態で出店が早まった」と説明する。理由は、アフターコロナの市場変動だ。

「コロナ禍の最中、外部リフォームの塗り替えは巣ごもり消費の影響で却って活況だったものの、2022年の後半から潮目が変わった。行動制限の緩和で旅行やレジャーなどにお金が回って塗り替え需要が減ったこと加え、コロナ禍の最中に先食いしていたツケがダブルでのしかかり、かつてない落ち込みを感じた」と言及。その危機感から2022年の暮れに東京への出店を急遽決定し、年明けの1月に出店するというスピード対応をとった。

「この仕事は、お客様のお宅に伺って話を進めるのが基本。従って、店舗の飾りつけやショールーム化などは不要」というのが佐藤社長のポリシーだ。

新規出店に際して用意するのは、机と電話とパソコンくらいで、無駄な費用はかけない。人員も、当初は佐藤社長が単独で乗り込み、軌道に乗ってから増員する徹底ぶり。この身軽さがスピード感のある店舗展開を可能にするとともに、同社の強みでもある。

「『良い工事を、良い人に、できるだけ安くやってもらいたい』というのが住宅塗り替えサービスにおけるお客様のニーズの本質。従って、店舗にお金をかけるよりも、そちらを満足させることを優先している」と佐藤社長。店や事務所は、そこでちゃんと営業をやっているという信用の裏付けの役割であって、「お客様にメリットをもたらすものではない」。だからそこに費用をかけずに、サービスの質に反映させる。同社が貫いているスタンスだ。

こうして、東京1号店の新小岩店を早期に軌道に乗せ、スタッフを増員。自身は次の店舗の出店を計画し、今年8月に東京での2店舗目となる世田谷店をオープンさせた。これまでと同じく、出店費用を抑えてスピード感を重視。佐藤社長が単独で乗り込み、営業を始めた。自社のやり方が東京でも通じることを新小岩店で確信しており、世田谷店での展開にも迷いはない。

家庭の事情で17歳から働き始め、「中卒のコンプレックスを心のどこかに抱え続けていた」と言う佐藤社長。ある時、『大学院なら高卒も大卒も関係なく試験を受けられる』という話を知人から聞き、「大学院で学びたい」という気持ちが強く頭をもたげた。

今年、経営学を学ぶために大学院を受験。『自社のために何を学び、今後どうなりたいか』といったテーマの論文で1次試験を突破し、2次面接を経て8月に合格を勝ち取った。MBAの取得を目指して今月から大学院で学び始めている。

「コロナ禍明けの市況の急降下を経験し、市場の浮き沈みに左右されない強さの必要性を痛感した。これまでの成長で証明してきた事業の実戦力を、大学院で学ぶ経営学で武装し、更に高いステージを目指したい」と、学ぶ意欲に燃えている。



佐藤 佐藤和幸社長.JPG
佐藤 佐藤和幸社長.JPG

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