社会的課題に貢献、脱炭素化も加速

日本塗料工業会は昨年12月15日、WEBセミナー「第32回塗料産業フォーラム」を開催した。当日は厚生労働省の担当官が改正安衛法政省令の概要について紹介した他、建築、塗装機、鉄道の各分野から塗料・塗装の社会的価値や脱炭素化の方策について語った。約260名が聴講に参加した。


労働安全衛生法の新たな化学物質規制について~令和6年4月施行の内容を中心に~

厚生労働省・労働基準局安全衛生部化学物質対策課の吉見友弘氏(化学物質評価室室長補佐)は、令和3年4月から全面見直しを行った労働安全衛生法(安衛法)における化学物質管理の経緯に触れるとともに、令和6年4月から施行する改正令の概要について説明した。

令和3年に調査した労働災害発生状況によると、化学物質に起因した災害事故は年間約500件に達し、作業環境測定の結果が直ちに改善を必要とする「第三者管理区分」と評価された事業場の割合が増加傾向にあるという。

そのため国は、こうした災害事故を包括的に防止する措置として化学物質管理の見直しに着手。令和5年4月に施行された安衛法政省令改正では、国連GHSとJIS分類に基づき、約670物質をリスクアセスメントの対象物質に認定。対象物質を扱う事業所においては、ラベル表示、SDS交付、リスクアセスメント実施の他、労働者に対するリスク情報の伝達、更にラベル内容に基づいたリスク低減措置が義務化された。

注目すべきは、向こう3年間で対象化学物質が現行の約670物質から順次拡大する点。
「今年4月に急性毒性や発がん性などが懸念される区分1の物質を中心に234物質を増加し、令和7年に640物質、令和8年に780物質を加えた計2,300物質がラベル表示義務の対象になる」とリスクアセスメント対象物質が増加する予定。この他、下記の項目が今年4月に施行される。

①SDS等による通知事項の追加及び含有量表示の適正化②リスクアセスメント対象物質の内、濃度基準値設定物質について屋内作業場で労働者が暴露される程度を濃度基準値以下にすること③労働者の意見聴取、記録作成・保存④67物質の濃度基準値を規定⑤化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針⑥皮膚等障害化学物質への直接接触防止の義務⑦衛生委員会の付議事項の追加⑧化学物質による労働災害発生事業場等への労働基準監督署長による指示。

SDSの通知事項については、成分の含有量を原則重量%の記載が必要となる他「営業上の秘密に該当する場合は、特化則、有機則以外の物質は特別措置としてSDSに秘密該当と明示し、重量%表示を10%刻みにすることができる。また取引先からデータ開示の求めがあった際は、秘密保持契約を締結した上で、詳細な内容を伝えなければならない」と説明。加えて「施行日時点で倉庫や流通過程にあるものは1年間の猶予が適用される」と述べた。

最後に吉見氏は、「安衛法は、リスクアセスメントを実行頂き、暴露を最低限にすることが目的。そのためにも情報伝達役を担うラベル表示とSDS交付を確実にやって頂きたい」と述べた。

カーボンニュートラル建築に向けた当社の取り組みと塗装工事に対する期待

竹中工務店COT-Lab大手町代表の長谷川完氏は、建築物におけるカーボンニュートラルの取り組みを紹介するとともに脱炭素化建築に寄与する塗料技術の将来像について述べた。

同社COT-Labは、産官学が共創するオープンイノベーション拠点として2023年4月に設立。現在、大手町、新橋、グランフロント(大阪)、シンガポールの4拠点に配備し、竹中技術研究所と外部機関を結ぶ共創機能として技術開発を推進している。「社会的課題を1社だけで解決することはできない」と共創を通じ"まち"のライフサイクルを企画から建設、維持運営までを手がける"まちづくりの総合エンジニア企業"としての在り方を目指している。
その一方で、建築物のカーボンニュートラルについては難しさを指摘する。

建築物の脱炭素策については①資材の製造時・建設時のCO2排出削減②建物運用時のエネルギー、CO2排出削減③解体・廃棄時のCO2排出削減の3つの観点からCO2削減を講じる方針。資材面においては、グリーン調達を強化する一方、CO2排出の多いセメントコンクリート製造に着目し、他社と共同で低炭素型セメントコンクリートを開発。加えてCO2を長期間固定する木材の活用推進を掲げた。

また建物運用時の負荷低減においては、自然採光や自然通風などエネルギーを使わないパッシブ設計を積極的に導入するとともに省エネ設計、再生可能エネルギーの利用を推進し、ZEB(ネット・ゼロエネルギー・ビル)の拡大を目指す構え。建物の解体、廃棄については「まだ明確な方策が見えていない」としつつ「設計段階から解体時の環境負荷を減らす配慮が必要」との見方を示した。

ただ、いずれもコストが伴う施策となっており「建築物のカーボンニュートラルは、お客様の理解と協力なくしてできない」と施主側の協力を不可避としている点を課題として指摘した。

続けて長谷川氏は、こうした建築物の脱炭素化策について塗料の可能性について述べ、特に木材用塗料における開発の進捗と将来性に対して紹介した。
CO2固定化する木材の環境特性から木材の活用を推し進めていく方針。「植えて、育てて、収穫して、更に植える。経済価値を保持した森林グランドサイクルの構築を目指し、木造建築を増やす取り組みを進めていく」と説明。更に建築基準法への対応においては、既に2時間耐火を実現した耐火集成材「燃エンウッド」を開発。塗料についても「不燃木材よりも木目が現しの状況で難燃化塗料が使える形を模索している」と中高層をはじめとする建築物の木造化に新たな塗料ニーズが浮上している。

その上で内装木部向けには、準不燃材料認定の木材難燃化塗料の開発に注力するとともに、外装木部においては白銀化、ひび割れ、腐朽などの防止に寄与する高耐久化塗料の研究を進めている。
この他、脱炭素化に寄与する塗料技術として、自然由来塗料や遮熱塗料など建物の熱収支の最小化に寄与する機能性塗料に着目。「木材や草類由来の成分を使った塗料や使用済みプラスチックを使った塗料も未来像にある」と環境負荷低減塗料の開発に期待を示した。

当社の考えるカーボンニュートラルと粉体塗装機開発の取り組み
 
旭サナック・塗装技術本部開発部ユニット開発課の洞戸翔太氏は、新開発の粉体塗装機を中心に、塗装機による脱炭素化策を明示した。
まず洞戸氏は、塗装ラインにおけるCO2排出策を明示した上で「焼付乾燥やブース空調におけるエネルギー負荷を下げるため、電気炉への変更や高効率ブースの導入が進められているが、多額のコストや工程変更を強いられる」と設備投資の難しさを課題に挙げた。

その上で「塗着効率の高い塗装機を使うことで塗料使用量の削減、不良率低減、廃棄スラッジの減容化に寄与する」と塗装機による脱炭素化の即効性と費用対効果の高さを強調した。
特に同社は、粉体塗装機の開発に注力しており、講演ではデュアル電界リングを装着した新型粉体塗装機「ECO DUAL」について詳しく紹介した。

「ECO DUAL」は、被塗物とガンの間に2重の電解を持たせることで高塗着性を実現した同社のオリジナル技術。
一般的なコロナ帯電方式は、塗料に帯電しないフリーイオンの存在が塗着効率の低下、仕上がり感の低下を招く課題を抱える一方、フリーイオンを回収するアースリング方式も塗着効率と仕上がり感の両立に課題を抱えている。

これに対し、2つの電界を調整する機能を持つデュアル電界方式は、「被塗物に対する電界を弱めることなく、フリーイオンを回収することができる」と塗着効率の高さと仕上がり感を両立した技術として訴求する。
産業機器に対し、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装(バッチ式)した実地調査では、1個当たりの塗料使用量(g)を48%削減し、塗料購入費にして年間260万円の削減を実現。年間のCO2削減効果は約2,300kgに達し、コスト、環境性の両面で効果を実証した。

洞戸氏は、塗装機導入の簡便性と環境負荷低減における効果の高さを強調した上で「今後も利益創造とカーボンニュートラル実現へ全力で取り組んでいく」と粉体塗料分析装置を活用した新たな塗装システムの開発に意欲を示した。

鋼鉄道橋の長寿命化に向けた塗装に関するメンテナンス技術

(公財)鉄道総合技術研究所・材料技術研究部の坂本達朗氏は、塗装鋼鉄道橋における防食維持管理の現状と課題について講演した。

鉄道の開業は1872(明治5)年。同年6月に品川駅―横浜駅間で仮開業し、鉄道記念日に制定される10月14日に新橋駅―横浜駅間で正式開業した。
鉄道開業時はすべて木製橋梁橋で、鉄製橋梁が初めて採用されたのは1874年に開業した大阪駅―神戸駅間。1886年に架設された旧東海道線・天竜川橋梁がJR最古の鋼橋として現存しているという。

坂本氏は「全国の鉄道橋は15万橋梁と道路橋の方が圧倒的多いが、戦前の1940年以前に架設された橋も一定数あり、長期間共用されているものが多い」と鉄道橋における老朽化対策の歴史の長さ深さを示した。
続けて坂本氏は、部材と部材をつなぐ構造形式の変化について触れ「1960年以前は、リベット接合が多く、1960年代は溶接構造が増えた。1970年以降は、工場で溶接、現場でも溶接、リベットではなく、高力ボルトが増えてきた」と複雑な構造形式を抱える鉄道橋維持管理の複雑性と難しさを改めて示した。

その中で、維持管理のポイントとして挙げたのは、腐食に対する迅速な処置。「橋梁の維持管理は、鋼材を腐食させないことを原則とし、塗り替えによる腐食対策が適当としている」と、パラメーターが多い鋼材から腐食の進行を判断するのではなく、塗膜の劣化状況に対してメンテナンスのノウハウを構築してきた経緯を示した。
そのため使用塗料も耐久性の高い強溶剤を推奨し、全面塗り替えの際もジンクリッチペイントを入れず、上塗りもポリウレタン樹脂塗料がメイン。レールや車輪、パンタグラフ、架線などの金属摩耗粉が構造物に付着するため、美観性に重きを置いていないのも鉄道橋ならではの特長。「上塗りの減耗で判断するなら高耐久性塗料でも良いが、腐食を塗り替えの動機にしているため高耐久性塗料の使用が最善とはいえない」との見方を示した。

素地調整については除錆度で判断し、腐食箇所においてはケレンを必須とする一方、「旧塗膜も防食に寄与させる」と既存の塗膜を残して塗ることが多いという。
その上で坂本氏が新たな取り組みとして挙げたのが、腐食性の高い環境における錆残存による塗膜下での早期再腐食への対策。動力工具による素地調整が困難な場所に対し、ブラスト工法の導入や熱収縮シートの採用、腐食ボルト・ナット部に対する省力化防食工法の検討を進めている。

加えて「腐食性の低い環境においても旧塗膜の割れ、剥がれを早期に発見するケースが出ている」と既存塗膜を残して塗り重ねる課題を指摘。現在は外観目視だけでは判断できない塗膜の変状に対し、くさび状治具を用いたせん断力評価方法を開発するなど、技量によるばらつきが少ない、定量的な健全性評価手法の検討を行っている。



厚生労働省・吉見友弘氏.JPG
厚生労働省・吉見友弘氏.JPG
竹中工務店CO-Lab大手町・長谷川完氏.JPG
竹中工務店CO-Lab大手町・長谷川完氏.JPG
旭サナック・洞戸翔太氏.JPG
旭サナック・洞戸翔太氏.JPG
鉄道総合技術研究所・坂本達朗氏.JPG
鉄道総合技術研究所・坂本達朗氏.JPG

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