内装空間の意識が変わる

「コロナは、新しいことにチャレンジする機会を強制的に与えられているような気がします」と話すのは、商業店舗やオフィスなどの空間デザインから塗装までを担うフォーアーツデザイン代表のヨザンさん。働き方やライフスタイルが大きく変化する中、空間(インテリア)対する嗜好やニーズはどのように変化していくのか。ヨザンさんに話を聞いた。


----今回はヨザンさんにデザイナーの視点からコロナによって予想される社会の動きやデザインの変化についてお話を聞かせて頂きたいと思います。

「私で務まりますでしょうか。よろしくお願いします」
----まずは仕事の影響はいかがですか。

「私たちが関わる店舗やオフィスは、チェーン店などの企業系が多いこともあり、ここまでは比較的計画通りで進んでいます。ただ、経済活動が停滞していますので、今後は全体の物件量も減少すると思います。またコストダウンの要請も厳しくなる雰囲気が出てきましたね」
 ――人の動きが抑えられている現状は、何ともし難いところがあります。

「元の状態に戻るという考え方では難しい状況がたくさんありますが、私としては新しく生まれるものに関心があります」

----たとえば。

「先ほどもお話したコストダウンにおいては、タイルや左官といった材料から塗装が選択される可能性が十分にあると考えています。塗装にはどんな形状や素材にも追随できる強みがあります。ただ重要なのは、目地パテ、寒冷紗を施して、艶ありのEPで仕上げるだけが(内装)塗装ではないということを周知することが大切です。塗装には、素地を生かした艶消し仕上げや骨材の有り無しなど多くのバリエーションがあります。だからこそ今は多種多様な塗装仕上げの存在をアピールする良い機会だと思っています」

----発信力が求められていると。

「実際、これだけ多くの方がテレワークを経験したことで、自宅、オフィスなど空間に対する意識が高まっていると思います。巣ごもり需要でDIYペイントが伸びていると聞きますが、人々のライフスタイルが変化するところでいろいろな気づきが生まれていると思います」

----ヨザンさんは、外資系コーヒーショップをはじめ、多くの店舗を手掛けられていますが、店舗デザインの嗜好も変わっていくのでしょうか。

「基本的に店舗デザインは、店舗独自のブランドイメージに沿っていますので、そうした方向が大きく変わることはないでしょう。ただ、最近は同じコーヒーチェーンでも地域性や土地柄を反映したデザインを採用していく傾向が見られます。地域に寄り添っていこうとする姿勢の表れとも言えます」

----人々がそれぞれの空間に求める価値が変化していくということですね。

「そうです。これは店舗だけに限らず、オフィスも同様です。現在、ある企業のオフィスデザインを手掛けていますが、会社でも家でも同じ質量で仕事ができるのであれば、心地良いところを選択します。そうなると会社は、自宅にはない空間価値を提供する必要性があります。当然こうした取り組みは業種や職種によっても異なりますが、少なくとも"白い壁"で十分という流れは変わるかもしれません。日本は清潔感や信頼を表す色として「白」を好む傾向が強いですが、"心地良さ"や"快適さ"を重視することで自ずと色彩やアートを取り入れるケースは増えてくるのではないでしょうか」

----塗装のチャンスを感じますが、技能以外のスキルも求められそうです。

「確かにそうですね。顧客はコンセプトやデザインイメージを明確に持っているとは限りませんので、顧客のイメージを具現化するための情報量や提案力は必要になります。私個人としては人が多いところが苦手なのですが、話題の商業施設ができれば意識的に足を運ぶようにしています。顧客のイメージを引き出すためのストックになるからです」

----ヨザンさんは、施工者が顧客と直接コミュニケーションを取る重要性を以前から指摘していますね。

「そうです。もちろん仕事の請け方によって商流やルートへの配慮は必要ですが、ことデザインにおいては顧客と直接お話することを重視しています」 

----なぜですか。

「私たちは、塗り板やサンプルという実際のビジュアルを通じて、示すことができるからです。もちろんグラフィカルな資料も用意しますが、実物はイメージを共有しやすく、施主のニーズも明確に把握しやすくなります」

----今回のコロナによって社会はどのように変わるのでしょうか。

「これだけ社会が過去に縛られず、柔軟性を持てている状況はすごいことです。私自身はコロナによって、新しいチャレンジをしなさいと半ば強制的に与えられているとの感覚があります。コロナに試されている感じですね」

----ヨザンさんの"チャレンジ"とは何ですか。

「私を含め、女性スタッフが占める当社の体制から見ても、これからはアトリエ製作に注力していきたいと考えています。アトリエ製作とは、工房でペイント下地を使って装飾し、現場で張り付けるスタイルです。現場での塗装作業はどうしても経費や労力を必要とします。これを工房製作、張り付けにシフトできれば、コスト対応力が高まりますし、労務環境も大きく改善することができます。また海外の物件にも作品を提供できる可能性が広がっていくと考えています」

----やれることはたくさんありますね。本日はありがとうございました。



ヨザン弥江子さん
ヨザン弥江子さん

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