ビックケミーは、湿潤分散剤、表面調整剤、消泡剤をはじめ、コーティング、インキ用およびプラスチック用途での様々な添加剤を取り扱い、日々新製品の開発に注力し、機能性製品のラインアップの充実を図っています。
一方、お客様から添加剤とは何か?その役割、有用性のご質問をお受けすることも多く、BYK社提供の文献をもとにコーティング用添加剤の物理、化学的基礎をWEB連載にてご紹介いたします。

コーティング用添加剤  少量の添加で ‒ 大きな効果
消泡剤

泡は、液相に存在する分布をもった微小な気体として定義される。塗料系に於いて、この気体はたいていの場合空気であり、気体の特徴から極端に大きな液/気体の界面が存在している。個々の気泡は、ラメラという薄い液層によって個々に分かれている。気泡は、液体を通して上昇し表面に到達する。ストークスの法則によると (図 26 参照) 擬塑性、上昇速度は、泡の半径 (r) と粘度 (η) に依存している。


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図26:ストークスの法則

通常気泡が表面に到達すると、液体は気泡のラメラから流れ出す。これは「排液効果」と呼ばれ、ラメラの厚みを低減させる。厚みが10nm以下になると、ラメラはその完全な形を失い、泡は破れる (図 27 参照)。しかしながら、このことは単に純粋な液体での場合に当てはまるに過ぎない。純粋な液体は泡が発生してもすぐに消失する。逆に気泡が安定なのは、泡を安定化させている物質が液層に存在する状態のときである。一般的に、そのような物質は分子中に親水成分と疎水成分を持ち合わせているような、いわゆる界面活性物質である。


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図27:ラメラの排液により泡が壊れる

この構造的な特徴により、この界面活性物質は液/気体の界面に向いて広がっている。それらは泡の表面すべてを覆っており、液体をラメラの内部に保つこととなる。したがって泡の薄膜から液体が流れ出ることがなくなり、泡は安定化される(図 28 参照)。


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図28:界面活性剤が液体をラメラの内部に保ち、泡が安定化する

すべての塗料系は (水系、溶剤系とも)、本来的に、化学構造上多くの泡を安定化させる物質を含んでいる。結果として、どの塗料系でも泡が安定化される可能性がある。泡は塗料に於いては常に好ましくない存在である。それは、塗料の製造工程中(顔料分散、混合、移送)で発生しうる。たとえば製造容器内が泡だらけになったり、顔料分散性を著しく落としたりする。更に、塗装工程でも問題点が挙げられる。表面欠陥をひき起こす原因となる。泡は外観上の障害というだけでなく、塗料の保護機能も低下させる。従って、消泡剤はほぼすべての塗料系に必須な構成要素といえる。消泡剤という言葉は、すでに存在している泡を破壊するものとして用いられている。<一方、抑泡剤は泡を形成させないものとして表現される。脱気もしくは脱泡という言葉は、泡が表面へもたらす過程を表すために使われる。これらのすべての表現は、密接な関連性をもつので、本文の中では、一般的な意味において「消泡」、「消泡性」という表現を我々は使うこととする。
さて、泡の除去は、塗料系や塗布方法に依存した、個々特別の現象と対処であることを考慮する必要がある。例えば、ある塗料がスプレー塗装では、優れたフィルム特性を示す塗膜を形成するのに、同じ塗料をカーテンコーターで塗布した場合は、泡の問題を発生するということがおこる。

消泡のメカニズム

潜在的な泡発生物質の使用を避けることは現実には不可能なので、泡の生成を避けるために、または既に発生した泡を破壊するために消泡剤が使用される。
消泡剤は、低い表面張力を有する液体であり、くわえて消泡剤がラメラに浸入することに関連する浸入係数と、消泡剤がラメラ内部に拡散することに関連する拡散係数の、三つの特性を持たなければならない。


• 消泡されるべき媒体との不相溶性
• 正の浸入係数
• 正の拡散係数
浸入係数が正のとき、消泡剤は泡のラメラに入り込む。更に拡散係数が正なら、そのとき消泡剤は実際に界面で拡散可能となる。この拡散効果のため、泡を安定化させている活性物質は押しのけられる。弾性を有し、壊されないで安定化しているラメラは、低い表面張力と凝集力の低下したラメラ層によって置き換わる。そのような消泡剤の消泡のメカニズムは、微細に分散された疎水性粒子を添加することで (特に水系で)、さらに効果が高められる。消泡剤は疎水性粒子のキャリアーとしての役割を果たし、その媒体は、粒子として泡のラメラに浸入する。


一方、その疎水性粒子の一つの機能は、疎水性液体ラメラに「異物」として存在することであり、従って、凝集力の低下を伴いながら泡を不安定化させることとなる。他方、そのような粒子は、その界面で活性分子を吸着又は、「捕獲」し、その結果、図 29 のようにラメラは破壊される。


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図29:疎水性粒子が泡のラメラを不安定化させる

すべての消泡剤の効果を推し量る基準は、泡を抱える材料・媒体との「不相溶性の程度」である。消泡剤とバインダーとの相溶性がよいと、塗料系内にとどまってしまい、泡のラメラに移動できない。このケースでは、消泡性は期待できない。他方、消泡剤が不相溶でありすぎると、ヘイズやクレータ等の不具合の問題を引き起こす。正しい消泡剤の選択というのは、相溶性と不相溶性の「バランスのとれた挙動」として特徴づけることができる。極端に相溶性が良くなると、消泡としてではなく泡の安定化が進むことになる。もちろん、その最適化は、ヘイズ、クレータ等の不具合がなく且つ、適切な消泡性を有する状態をえることである (図 30 参照)。


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図30:消泡剤の選択:消泡性に優れ、マイナスの副作用がない

塗料形態は広く多種にわたるため、ひとつの消泡剤を用い、すべての配合で消泡効果を最適化することは出来ない。多種の消泡剤が、それぞれの目的にあった適正なものとして提供されることが必要である。また消泡剤の添加量によって消泡効果を微調整する。添加量の増加は、一般に良い消泡性を有するが、不具合を生じる場合が多い。逆に添加量が少ないと、不具合は少ないが、消泡性が不十分となる。

消泡剤の分類

基本的には、3つの消泡剤に分類される。
• ミネラルオイル系消泡剤
• シリコン系消泡剤
• シリンコンフリーのポリマー系消泡剤


ミネラルオイル系消泡剤
広く言えば、ミネラルオイル系消泡剤は水系のつや消し塗料、セミグロスエマルジョン系やプラスター用に使用される傾向がある。逆により品質の高い工業用塗料には、表面の不具合を起こしやすい(オイルの分離、光沢の低下等)のでミネラルオイル系消泡剤は適していない。このようなことから、消泡剤の拡散効果が十分でないという事実があるため、溶剤系においても使用されていない。


ミネラルオイル系消泡剤は約80%のオイル(脂肪族系ミネラルオイル)と15%の疎水性粒子で構成されている。残りの5%は界面活性剤、防腐剤、その他の機能性成分である。ミネラルオイルは、消泡性を示すとともに、疎水性粒子を泡のラメラに運ぶ働きをする。消泡効果はこれらの疎水性粒子(の働き)により補完される。なぜならこれらは、ラメラの界面から活性物質を取り除き、泡を破壊するからである。疎水性のヒュームドシリカ又は、ウレアは典型的な疎水性粒子として使用される。


消泡剤に使用される界面活性剤は、その粒子をキャリーオイルに分散させるために必要である。更に、それらは、消泡剤の混合を簡単にする正の効果の働きがある。ノニルフェニルエトキシレート(界面活性剤)はしばしば、過去から今日まで使用されてきたが、現在ではノニルフェニルエトキシレートフリー系が、環境問題により多くの国で使用されるようになった。ハイグロスエマルジョン系で、持続的な消泡効果が要求される場面などで、有機変性ポリシロキサンを少量含んだ消泡剤が用いられる。

シリコン系消泡剤
シリコン系消泡剤は界面活性を有するポリシロキサンを変性した液体である。ポリロキサンを使
用する場合、化学構造が決定的な要因となる(WEB連載(3)、図 17、19 参照)。例えば、比較的短いチェーンのポリシロキサンは (表面調整剤として使用される)、泡の破壊・消泡というよりは、泡を安定化する作用がある。泡の安定性を増す、又は消泡剤として機能を、ポリシロキサンが有するかどうかは、その製品の相溶性・扱う液体媒体への溶解性に依存する。僅かに相溶・溶解するものだけが、消泡剤としての機能を有する。未変性のポリジメチルシロキサンの場合、支配因子としては、シリコンの分子量と側鎖の長さがある。低分子量の製品は、泡を安定化する機能を有し、一方高分子量のものは破泡するのに十分な不相溶性を有することとなる。さらに高分子量化すると、最終的にはいわゆるハンマートーン仕上げに使われるような、強い不相溶性を示す。消泡剤での最近の開発品には、フッ素系有機変性消泡剤、いわゆる「フッ素変性シリコン消泡剤」をあげることができる。これらの製品はそれら自身、低い表面張力と強い消泡性が特徴である。シリコン系消泡剤はまた、シリコンオイルの溶解性の向上及び消泡性の向上のため、疎水性粒子 (ポリ尿素、シリカ) との融合が図られている。
ミネラルオイル系と比べシリコン系の優位性は、ハイグロスシステムにおいてグロスの低下がないこと、及びピグメントコンセントレートシステムで色受容性に影響を与えないことである。

シリコンフリーのポリマー系消泡剤
ポリシロキサンが消泡剤として使用されるだけでなく、他のポリマー系製品もその不相溶性により消泡性を有する。相溶性と不相溶性の正確なバランスをとるために、意図的にポリマーの極性と分子量を変える。相溶しすぎるものは、泡を安定化させるので消泡の効果はない。高い不相溶性をもたせれば破泡可能であるが、クレーター等の副作用に注意する必要がある。

消泡剤の評価

消泡性の挙動を確認するのに、いくつかの異なる評価テストが用いられる。もっとも簡便な方法としては、単一樹脂に消泡剤を混ぜるものである。その樹脂に空気を混入させ、どのように速く消泡するかを観察する方法である (図 31のように、泡の体積がどのようにすばやく減少していくかを見る)。しかしながら、最終塗料系が泡に挙動に影響を与える多種の成分を含んでいるため、上記のような樹脂のみを用いた評価方法は、「プレテスト」としての評価になっている。


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図31:泡の体積を測り、消泡効果を確認する

消泡剤評価は、最終塗料系で行う必要がある。標準とする比較対象と色々な消泡剤との差を見るために、空気を混合する (泡を発生させる)再現性のある方法を推奨する。その目的が比較検討であるので、「絶対的」な方法はここでは重要ではない。主なポイントは、それはテスト結果で差がわかるように、泡の生成が多いか少ないかを判定することである。泡の問題は、密接に実際の塗装方法に関連しており、泡のテストは塗装条件を反映させなければならない (図 32 参照)。


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図32:ハケによる泡のテスト

空気を混入させたあと、経時での泡の現象を観察する。そして、次に最終用途で目視での確認ができる不具合を観察する。評価方法としては、顕微鏡での観察又は耐候性試験なども含まれる。泡を含んだ塗料をガラスプレートやプラスチックシートに塗布し、その塗膜をプレートに光をあてながら目視で観察する方法は、役に立つことも多い。顔料濃度が高い塗料 (プラスターなど) では、比重を測定する方法は非常に役に立つ。密度のもっとも高いサンプルは、泡の消失が速いことを示す。異なる塗料系での泡の挙動に関しては、さまざまな方法が存在するが、理論的に特定の方法を標準として推奨することは難しい。塗料の評価のタイミングについては、消泡剤を混ぜた約 24 時間後のテストが望ましく、更に消泡剤が経時で効力を失うことが多いことから、貯蔵後でも評価する必要がある。消泡剤の顕著な効力の差が、50℃、4 週間貯蔵後に表れることもある。また消泡剤の多くは、分散された疎水性粒子が含まれているので、消泡剤自身の安定性 (分離および沈降傾向) を観察することもお奨めする。


消泡剤は、それらが消泡されるべき塗料・インキに対しある程度不溶の場合や、ある不相溶性を示す場合にその効果がある。一方この不相溶性は、いくつかの好ましくない効果をもたらすことがある。もし、消泡剤の不相溶性が高すぎると、濁り (クリヤーコートのみで確認可) 又はハジキが発生する。添加量を少なくすると、これらの問題を軽減することができるかもしれないが、より相溶性のよい消泡剤を選択することが求められる。もう一つの決め手となる因子として、消泡剤を混合するときの撹拌強度があげられる。より不相溶の消泡剤には、攪拌強度を強くすることが必要である。具体的には、非常に不相溶な消泡剤は、ミルベースに加えることが望ましい。一方でより相溶性のある添加剤は、製造最終工程で塗料系に簡単に混ぜることができる。もし、混合が適切に行われていなければ、消泡剤は不均一にしか分布せず、その結果局所的に高い濃度の消泡剤はハジキを引き起こすこととなる。求める消泡性と、起きて欲しくない副作用とのバランスをとることが重要である。

BYK社(ドイツ BYK-Chemie GmbH, Dr. Wilfried Scholz 著)提供の"Coating Additives"をベースにビックケミー・ジャパン株式会社が翻訳・監修いたしました。
日本語訳総監修 ビックケミー・ジャパン株式会社 若原 章博
翻訳 同社 日野 真司 樋口 公志 横手 涼 菊池 雄 神代 智史

BYK company profile:


BYKは塗料、インキおよびプラスチック業界で使用される添加剤では、世界的なリーディングサプライヤーの一つです。添加剤は塗料、インキおよびプラスチックの製造工程で使用され、製造工程を最適化し、最終製品の品質、外観を大きく向上させます。BYKでは、湿潤分散剤、スリップ性、レベリング性を向上させる表面調整剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤をはじめ、
ナノテクノロジーを応用した添加剤、ワックス添加剤等を取り扱っています。