1.連載のはじめに

実験計画法や機械学習を活用するなど、実験の進め方・解析の仕方など、有用な仕組みが整えられている。一方でどのような実験を組むかは自分で考えなければならない。ここではコーティングや分散・塗布・乾燥の実験を実際に行われる方々に、実験現場で役立つアプローチを紹介したい。この項は添加剤使用前のリスクの予知と防止に関する。

2.添加剤の特性と注意点

有機系のポリマー、有機変性ポリシロキサン系、層状ケイ酸塩などが、コーティングで用いられる添加剤の主たる構造分類である。ほとんどは気液界面・固液界面で働くので、マトリクスを形成する材料と各粒子との関係により効果と不具合は決まる。故に、トラブルを事前に防止することや、懸念事項は混ざりやすさ、マトリクスへの影響という視点となる。すなわち、

➢ 相溶性:

比較的分子量の大きな添加剤は、低温で白濁や濁りを生ずることがある。例えば零下5℃から50℃までの温度領域で、添加剤の濁りや分離・固形化などを確認する。あわせて、各種溶媒との相溶性も確認をすることで、可使領域の把握ができる。添加剤を溶媒に1%や10%液にしてみる。なお、単一の溶媒で白濁などの現象が出ても、混合溶剤系では十分に改善される。相溶性の良い溶媒を相溶性の悪い溶媒に少量(全溶剤中のたとえば5-15%)加えるだけで、白濁も解消し相溶性が確保できる。実際、顔料の分散配合などで、混合溶剤系にすることも多い。

➢ 反応性:

特にアミンを顔料吸着基としている分散剤は、エポキシ樹脂系でのゲル化、ウレタン系での可使時間など要チェックである。ただし、分子構造の制御などで影響がないタイプもあるので、アミンがあるからダメと決めつけないこと。

➢ 架橋・膜形成への影響:

分散剤のもつ顔料吸着基であるアミンによる硬化阻害が例として挙げられる。一方、反応性に影響を及ぼさないタイプの湿潤分散剤でも、マトリクス中で架橋せずに混ざっているだけなので、添加量が多ければ硬さなどを低下させる可能性も考慮する。

相溶性と反応性を見るために、粒子なしで分散剤と樹脂系を混合する方法も採られるが、その際の注意点を指摘しておく。湿潤分散剤は吸着基と相溶性鎖の二つから構成されており、吸着基は顔料存在下では粒子に吸着する。よって粒子の存在の有無により、吸着基の反応への寄与は異なることが予想される。一方、粒子がある中で全部の分散剤が粒子表面に吸着しているかといえば、そうではないだろう。一部は吸着せずに樹脂層に漂っていると考えたほうが自然である。なぜか。それは相溶性鎖の存在である。相溶性鎖により樹脂層に混ざるわけであるから、吸着基と粒子表面の引き合う力よりも、混ざろうとする力が強ければ、分散剤は樹脂層に漂うことになる。分散状態は、分散剤をはじめとする溶剤・樹脂が、粒子表面で吸脱着が常に起こる平衡の状態と考える。それで、分散剤の一部は粒子表面に、一部はマトリクス中にあると思われる。膜物性の判断の際にはご考慮願いたい。

➢ 付着性・密着性への影響:

膜の層間での付着性・密着性に対する表面調整剤(特にポリシロキサン系)の影響を気にされる方が多い。私もその一人である。表面調整剤はコーティング液を塗布後、多くは表層に移行する。その上にさらに液を塗布した時の、層間付着性を考える。もし、二つの層間にとどまれば、特に有機変性ポリシロキサンの場合は、付着性阻害が予想される。しかしながら実用上(適切な添加量・硬化温度下)は問題にならないケースが多い。問題が起こりがちなのは、高添加量や一層目の硬化温度が高い場合である。なぜか?通常の条件下では一層目の有機変性ポリシロキサンはその活性度により、二層目のコーティング液へ移行していき、層間には存在しない。しかしながら硬化温度(焼き付け温度)を上げ、150℃程度になると、有機変性部のポリエーテルが熱分解し、ラジカルが生成、ラジカルはマトリクスを形成する基体樹脂と架橋反応し、膜表層に固定される。この上に二層目のコーティング液が塗布されても、二層目へ移行することができない。したがって、層間にあるポリシロキサンにより濡れ不良や、層間付着の問題が発生することなる。なお有機変性にはポリエーテルのほかに、ポリエステル変性やアラルキル変性(芳香環)が開発されているが、これは熱分解温度がポリエーテルよりも高く、より高温で安定な有機変性ポリシロキサンとして開発されたものである。

➢ 耐汚染性への影響:

鉱物油系の消泡剤では、塗膜中から表面へのブリード後のゴミ・埃の吸着の可能性を考慮する。建築塗料など常温乾燥の塗膜では、膜の中から消泡剤の主成分である鉱物油が時間をかけ表面にうきでることがある。ここにホコリなどが付着し、変色やカビの元となる懸念が生ずる。どの消泡剤もそうだというわけではない。ポリシロキサン系消泡剤はリスクが少ない。

一方で、ポリシロキサン系消泡剤による、初期塗膜の表面張力の低下の可能性もある。これらにより、耐汚染性や易洗浄性は影響を受けうる。消泡剤は気液界面に配向して、泡を消すわけだから、膜の表面になにがしかの量は存在している。

➢ 耐水性への影響:

特に疎水性鎖を持たないタイプの分散剤であるポリカルボン酸塩は耐水性の懸念が強い。膜の中に水が浸透し、イオン化したCOO‐の部分で水が溜り、ブリスター(フクレ)となることがある。それに対して高分子系湿潤分散剤は、相対的には耐水性はよい。これは疎水性鎖を多く持つことによる。当然ながら配合される樹脂系・Tg点や耐水負荷条件に強く依存する。「架橋・形成への影響」の項で述べたように、湿潤分散剤も粒子の周りと膜中に存在するので、高温での耐水負荷であれば、膜物性に起因してブリスターなど発生しがちである。

➢ 耐候性の予測:

初期の物性(硬度・弾性率・架橋密度など)がまず確認できる。この段階で問題があれば、耐候性も期待はできない。一方、初期物性が問題なくても、耐候性がいいとは限らない。耐候性の予測は難しい。紫外光と水・温度の負荷が繰り返しかけられる屋外耐候性では、実際の試験を行うしかない。海塩、酸性物質を吸着した浮遊微粒子、鳥の糞、虫なども塗膜を劣化させる。高分子量の湿潤分散剤はポリエステル・ポリウレタン・ポリアクリレート・脂肪酸変性物などで構成されており、塗料に用いられる樹脂と基本的な組成は同類である。

3,添加剤はポジティブな副次的効果ももたらす:

懸念事項を述べたが、本来の効果のほかに副次的に有益な効果をもたらすこともある。疎水性構造を有する湿潤分散剤が、高極性表面の粒子を覆うことで、耐水性の向上が図られる例もある。また同様に顔料を覆うことで、水を遮断し水の介在する光劣化を抑制し、耐候性が向上する。

またプラステックスで用いられるカップリング剤は、ガラス繊維とマトリクスを形成するポリオレフィンの親和性・密着性を向上させるので、機械的強度が高まる。カップリング剤としては、ポリエチレンやポリプロピレンを無水マレイン酸で変性した、グラフトポリマーなどがあげられる。

塗料分野で高顔料濃度色(たとえば二酸化チタン)の屋外暴露のような試験、湿潤分散剤によりチョーキングも見られず高い光沢保持率も期待できる。繰り返すが、塗料材質と負荷条件に依存する。

4.まとめ

いずれの懸念も、アプリケーションにより影響度は異なる。それぞれの系で、どのようなリスクが予想されるか、考える出発点になれば幸いである。

『実験をスムースにスマートに進めるアイデアボックス』

添加剤使用前のトラブル察知

実験の効率化にお役に立つ実践的なアプローチを順次ご紹介していきます。

(全8コマ予定)ご期待ください!

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