第12章 社員が納得できる労働条件

前章ではビジョンを数値化して、未来計画に落としこむ取り組みをご紹介しました。その取り組みの大きな目的の1つは、社員の仕事のビジョンとプライベートの理想の将来像をリンクして考えてもらうことにあります。プライベートにおける理想像を実現するためには、「収入」は切り離せない要素になります。この章では、私たちが取り入れている、給与を決める基準である人事評価制度について話を進めていきます。

私たちが人事評価制度を導入した主な理由は4つあります。1つ目は目標管理をしっかりとしたかったからです。導入前も個人の年間目標を設定していましたが、目標に対する責任感が弱い状態でした。また、達成基準が明確でない場合も多かったので、そもそも達成したかどうか判断しづらいこともありました。ですから、明確な目標を設定し、それを達成することにより、社員の成長につなげたかったのです。

2つ目は理念・行動指針の浸透です。理念を理解し実践できているか否か、行動指針を遵守して仕事をしているかを評価し、それを給与に結び付ける。そうすれば、より経営理念と行動指針に対して重みを感じながら働いてくれるのではないかと考えました。

3つ目は社員自身の現状把握です。日々仕事に取り組んでいると、自分が今何をしなければならないのかが分かりにくいものです。社員個人が自分の現状を理解することにより、それぞれの頭の中を整理してもらい、明確な自己分析をしてもらいたかったのです。
 4つ目は今までの給与基準が曖昧であったことです。年齢・経験・技術の成熟度など、評価の対象はあったものの、明確な基準がなく「このくらいが適当だろう」と目分量で基礎給与を決め、昇給やボーナスも、会社の業績と照らし合わせながら落とし所を探すような方法で決定されていました。しかし、私は社員の給与に対して、納得のいく説明がしたいと考えました。

ではここから、私たちが取り組んでいる人事評価制度について話を進めます。当社では、行動指針評価、グレード別・職種別能力評価、成果評価の3つの要素を評価します。行動指針評価は文字通り、行動指針に対していかに忠実に仕事に取り組んでいるかを評価します。その評価が高いほど、昇給の額が大きくなる仕組みです。ここで社員に対して求めることは、"伊倉鈑金塗装工業"らしく行動してほしいという点です。社員全員が日々行動指針を意識して行動していくことで個人の行動が良くなり、会社が良くなっていくという考え方の下に取り入れています。
グレード別・職種別評価は、5つのグレードと4つの職種に分けて評価をします。社員の成長度合いにより、1~5グレードというグレードを付与しています。自分の成長の度合いがどこにあるのかを明確にするためです。また会社も各グレードに求める行動は変わってきます。そのため各グレードに応じた行動要件を明確にし、グレードごとに評価をします。グレードが上がれば給与も高くなります。また、職種別にも求める行動は異なります。板金、塗装、フロント、整備の4つの職種に分け、その職種に合った行動要件を示し、評価をしていきます。

上記2つの評価基準は「行動評価」といって、行動要件を実行できているか否かを判断するものです。昇給に反映される要素となります。私たち板金塗装業界では、出来高で評価をして給与額を設定する慣習がありますが、工賃売上という結果は社員の努力が直接結びつかない場合も多いのが実情です。仕事の内容や入庫量によって、工賃売上は変化します。社員からすると自分にどんな仕事が回ってくるのかという「運」という不確定要素の元に給与を決められる形になるのです。ですから、私たちはしっかりとやるべきことをやった人間が評価される、そんな仕組みを作りたかったのです。

最後に、成果評価は、個人が生み出した成果(結果)に対して評価をします。自らの成長のために自ら目標設定をして、自らその目標を管理します。私たちは半年に一度、目標を設定してもらい成果を評価します。この成果評価は上記2つと違い、ボーナスに反映していきます。
 上記3つの評価はすべて、評価期間を終えた時点で自己評価をしてもらい、それを踏まえ現場の管理者である工場長が1次評価し、最終評価者の私が客観的・総合的に最終評価をします。

人事評価制度は社員の成長のために
人事評価制度というと、会社側が社員に対して点数をつけて、それを給与基準にするというイメージが強いかもしれません。しかしながら、私たちの大きな目的は社員の成長(人材育成)にあります。また社員が納得して働ける環境にも影響を与えます。「会社は社員に対して何を望んでいるのか、共有したい」「自身の現状を把握して課題を明確にしてもらいたい」「自分のもらっている給与に対して納得してもらいたい」。そんな想いの下に導入しています。
実際に導入してみると、慣れるまでは少し時間がかかりますが、まず経営理念や行動指針の大切さに社員が気づきます。そして個人個人の課題がはっきりし、頭の中の整理ができてきます。目標も自身で考えた目標なので、会社が与える目標と違い、達成に向け、努力するようになります。

次章はこの人事評価制度の内容を掘り下げながら、人材育成について話を進めていきましょう。

プロフィール:伊倉大介氏(いくら・だいすけ)。1976年生まれ。東京都目黒区出身。
1997年伊倉鈑金塗装工業代表取締役に就任。2003年コーティング事業開始。2007年オークション代行業務開始。2008年廃車受付業務、レンタカー業務開始。2011年BP経営支援会社「アドガレージ」設立、代表取締役に就任。
 2012年1月現在、社員10名、修理工場8人体制。