付着塵の定量化手法
~価値ある手間暇

前回の付着塵の可視化に引き続き、今回は付着塵関連因子の定量化手法がテーマです。この分野は現在のところ他の要因に比べてアナログの部分が多く、どうしても手間暇がかかるのですが、前回までにお話ししたように浮遊塵などの見える化だけでは得られない改善に役立つ重要な情報が得られます。ぜひ工場の管理項目に加えてみてください。

粘着シートの利用方法

まず付着塵定量化の代表的な手法が粘着シートを使った異物の捕捉とカウントです。昔からある手法ですので塗装工場などの異物改善を行った経験のある方でしたら、実際に利用したことがあるのではないかと思います。一般的な手順は以下の通りです。

①粘着シートを一定時間工程内などに暴露する
②透明フィルム(サランラップなど)で粘着面を保護する
③異物数をカウントする
④必要に応じて顕微鏡観察を行う

対象とする異物が数百ミクロン以上の粗大なもので、その多くが黒や茶色などの有色の異物であればこの手順だけで対応可能です。

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一方対象が数十ミクロンの比較的小さな異物の場合はこれだけでは不十分です。というのも、この程度の大きさの異物の場合、透明フィルムで保護した後では異物の確認が至難の技になってしまうためです。

特に透明な異物が対象の場合は異物が粘着シートとフィルムの間に埋もれて見えなくなってしまうことは想像に難くないと思います。このような場合にはラップフィルムで保護する前に、前回説明したLEDライトなどで付着塵を可視化し、異物が存在する箇所をあらかじめマジックペンなどでマーキングする必要があります。

こうしておけば細かい異物のカウント漏れを防げますし、その後顕微鏡などで異物の形状や色調などを観察する際にも特定が容易になります。もちろんマーキング作業中に異物が落下しては意味がありませんので、ここでは防塵服の着用が必須です。

顕微鏡観察の際に可能ならば異物の形状(粒子状・繊維状、etc)や、色調などの違いで層別しておけばその時々の不良の発生傾向とのつながりが見えてきます。繊維状の異物が多い場合と粒子状の異物が多い場合では改善の重点が大きく変わってくるでしょう。

粘着シートにはいろいろな種類がありますが、添付写真のようにこの用途に特化して市販されている製品もあり、こうしたものでは保護用のフィルムもセットになっているため作業効率が高くなります。

一方100円ショップなどでも購入可能な片面粘着のA4ラベルシートも使用できますが、シート自体に既に微細な異物が含まれている場合がありますので、事前に顕微鏡などで確認して異物混入が少ないものを使用することをお勧めします。

この他に付着塵の可視化・定量化用途としてシリコンウェハーや黒色のプレートを用いることがあります。

シリコンウェハー・黒色のプレート

こうしたプレート類を使えば、粘着シートよりも更に微細な付着塵を可視化することが可能になる他、乾燥炉などの高温の工程でも使用できる利点がありますが、使用後の表面の保護には特別の注意が必要ですので、対象とする異物のサイズや工程の特性によって選択します。

また付着塵関連の因子で忘れてはならないのが静電気帯電量の把握です。前回お話ししたように浮遊塵が製品表面などに付着する段階では静電気が大きな影響を及ぼすためで、現代の異物対策を行う工場には静電気測定器は必須アイテムといっても良いと思います。

実際の素材の許容帯電量は改善対象とする異物のサイズや品質レベルによって違いますが、工程内の素材の帯電量の絶対値が1kV(1000V)を超えるような場合は間違いなく大きな問題があると言えます。

品質限度が厳しい工場では0.1kV以下での管理が必要な場合もありますが、何しろ現状が見えていなければ話が始まりません。まだ行っていない場合はまずは帯電量の測定をしてみましょう。

最初にも申し上げたように付着塵の測定は手間がかかることもあり、なかなか定量化が進まない分野でもありますが、近年付着塵の重要性の認識が高まるとともに自動測定を行うための装置の発売も増えています。

私自身もこうした装置を開発・使用する機会が増えており、近い将来最も伸び代のある分野ではないかと考えています。こうした装置が一般的になり、付着塵の挙動が更に目に見えるようになれば工場の異物対策に大きなブレークスルーが期待できるでしょう。次回は付着塵関連の対策についてご説明する予定です。

湯澤智氏。CEL(Clean Environment Lab.・静岡県静岡市)代表。大手楽器メーカーなどで自動車内装部品の外観品質向上などの業務に従事。独立後、さまざまな「見える化」技術による異物不良改善を中心として、国内外の塗装工場の現場改善支援を行うとともに、その成果を生かした独自の改善技術開発を行う。業務分野は外観品質向上及び工法開発、製造設備の設計・導入、改善のための可視化・定量化技術開発などに及ぶ。52歳。