●「検査工程の運用」

 被塗物を塗装し焼付け乾燥等により塗膜がキュアーし終わり、被塗物が室温近くまで戻って塗膜表面が硬化した状態になれば、手袋等で直接被塗物に素手で触れないようにしながら、外観検査をしやすい照明の中で見やすい方向に向きを変えて検査をします。

合格品→正常品ラインに乗せて「通い箱」や「次工程コンベアに載替え」へ移します。

不合格品→該当する欠陥部、ゴミ付着、タレ、スケ、ハジキ等を(見やすくかつ簡単な擦りで取れない)テープ等で見印を付けて正常品のラインから外します。

その際、下記の準備が必要と思います。

準備1 塗膜外観検査場は単に明るくするだけでなく、見やすい明るさ、照明の方向、色、眼と被塗物との距離等について現場で確認し相談して決めるのが最良と思います。

準備2 素手で被塗物に触るのは汚れの原因となり特に表面温度が高いとその汚れの除去が困難になります。被塗物がほぼ常温に近づくまでの時間が必要であり、更に必ず取扱い用の手袋や治具を用意すべきでしょう。

準備3 ゴミ不良の限度、ゆず肌の度合い、色のバラツキ範囲、その他項目の良品限度等は、個人差が出やすいために限度見本を作成して検査場に置き、必要に応じ比較して見ることは多く実績があり効果的です。

●検査工程の注意点

 上記の準備をした検査工程を効果的に運用するためには、次のような注意点が必要と言えるでしょう。ただし、下記内容の多くは高負荷業務であり、後記の生産技術、品質保証部門との業務分担が必要となるでしょう。

「膜厚管理の仕方」

検査データのつくり方も沢山の方法があります。中途半端なデータは有害になります。先ずデータの種類としては最も重要な項目は塗膜厚でしょう。少なくとも電磁膜厚計(素材が鉄材である場合)程度は常時使用しながら、被塗物の耐食性や外観を満足させる基本的データと認識してそのデータを記録する必要が有ります。被塗物のどの部分がどれだけの膜厚を必要としているか、そのための自動塗装の諸条件、補正塗装の条件(作業者名も明記)を正確に記録して、塗膜厚(過不足)、塗膜外観(ゆず肌、ワキ、タレ等の度合い)に不具合が出た時に改善する内容が明確に出来るデータでなければなりません。即ち、塗装不良の対策は対策前後の変更点を明確にすることが大切です。ゆえにデータ項目に不足があってはなりません。

「検査項目は最小限度に抑える」

塗装検査項目は被塗物の種類ごとに必要最小限に抑えるべきでしょう。検査作業そのものは生産に寄与しないので余計な手間は掛けられません。ただし、被塗物ごとに元請けとの取引条件や社内規定は守る必要があるので、検査項目と基準はその範囲内で全数か抜き取りか、限度見本か絶対値か、などの決定は交渉や相談が必要でしょう。

「検査員と工程作業者の意思疎通が大切。見つけたらすぐに」

検査員はものづくり要員ですから、いかに良い塗装を早く作るか、同じ職場員と同じ目的意識が大切です。検査員は確かに良・不良を判定する仕事であり、その基準は絶対に守るべきですが、他の作業員とは別の「裁判官」ではありません。不良品を最初に判断する検査員は不良が出る兆候が見られた瞬間に、その原因と思われる工程に連絡し、必要な情報を伝達する使命があります。一定の時間や塗装数ごとにまとめて連絡するような悠長な意識は厳禁でしょう。

「前処理にも気を止める」

工程検査は塗装前処理にも関心を持たなければなりません。前処理の化成処理は素材、加工の影響が見やすくなっています。加工品入荷時点での加工済み素材の腐食がないか、防錆油の酸化(油焼け)や合わせ目中の油溜まりがないかなどは、塗装後の検査員の業務ではない場合も多いかと思いますが、検査として省略すると、自社の責任ではない塗装不良原因を見逃す結果になりかねません。丹念に全数検査の必要はないかと思いますが、チェック項目には入れておくべきと思います。

「工程管理と品質管理の役割分担」

塗膜厚の確認や塗膜性能テストは品質管理部門との振り分けが企業により異なると思います。ただし、工程管理として塗膜厚確認(電磁膜厚計)、塗膜キュアー確認(ラビングテスト=使用溶剤は塗料メーカーと相談が良いでしょう)等は、必要に応じてある程度頻繁に工程検査として行っておくと安心出来るでしょう。

「検査漏れに注意。納入側とのコミュニケーションが大切」

検査漏れによる不良品混入が納入先で見つかることがあります。どう見ても「不良」としか言いようのない、笑っちゃうほど酷い仕上り被塗物があります。残念ながら僅かな事例とは言えないほど筆者も見聞しています。納入者側も唖然とする様な状況ですが、受け入れ側とすれば納入側が「弛んでいる」として、怒りを現わすこともあります。結果として、「より厳しい」限度見本を新たに制定する羽目になります。勿論、納入側は「より厳しく」「ポカの無い作業の徹底」しか打つ手がありません。「より厳しい限度見本の制定」はお互いにコストアップ以外に何も得るものはない訳ですから、よく話し合って、注意深く作業して冷静に解決して下さい。

「作業日誌は検査作業員が適任」

作業日誌は検査作業員が適任ではないかと筆者は思っています。検査結果との照合にも有効です。作業改善の結果、不良発生原因の追究と対策の効果、全体的に見て「いつもと違う」感、突発的出来事等の冷静な記録は直接的作業者や職場責任者は「ことなかれ」表現に走りがちとなります。各職場で今一度ご判断して下さい。

●生産技術部門と品質保証部門の役目

生産技術や品質保証(又は品質管理)の担当範囲は広く、塗装関連の業務としても企業の形態や規模等により異なります。塗装現場で塗膜外観検査が行われていると仮定した場合、更に、塗装の品質保証としてどのような試験が必要であるか、そこで注意すべきと思う点を申し上げたいと思います。具体的な担当部門は企業ごとに適切に判断されたいと思います。

A-劣化促進試験について

1 先ずどのような製品の塗装でその塗装の何が製品の使用目的に添った品質保証として必要か(耐食性か、美観・色彩等の維持か、防汚性の維持か等)を見極めてその促進試験内容を決めます。これは当然のことですが、あまりに多項目の期待を塗装に求めても、促進試験項目ばかり増えて、コストと時間が掛かり過ぎてしまいます。製品価格や全体のコストバランスを考慮することが大切です。

2 促進試験は出来るだけ既存の試験機が使用出来て、専門試験機関にも依頼しやすい、高コストにならない試験方法を選ぶことも大切です。ただし、逆に耐食性は塩水噴霧試験、耐候性はウエザーメーター、全体的な材料等の劣化度合いとして屋外暴露試験等のあまりに恒常的な選択も漫然と行っては適切な促進試験とは言えない結果になりかねません。そこで設備機器メーカー、塗料・薬品メーカー等とも相談し、自社以外の試験データと照合比較(文献に記載のデータも参考に)することも大切です。

3 促進試験法は常に進歩しており、各種CCT(複合サイクルテスト)、過酸化水素を含む腐食促進試験法等、最近開発されている試験法があります。2項と合わせて検討されると良いでしょう。

4 1~3項まで、品質保証をする一助として促進試験に関する注意点を筆者なりの考えに基づいて記しました。これらの試験データは市場で実績のある自社や他社類似製品の塗装と比較して始めて信頼性が有ると言えるでしょう。どのような促進試験データでも、やはり市場での実績と照合して納得したいところです。他社製品を購入し試験までするのであればそれより優れた塗装(高性能低コスト)を目指して行わなければ意味がありません。

B-市場クレームについて

1 市場クレームが発生した場合に備えて、当該品の追跡データは是非必要なものです。市場に製品を直接供給している場合は、製品の製造番号により塗装条件検索はほぼ可能 でしょう。(ただし、塗装時点と製品完成時点との完全な整合は難しいと思われます)少しでも信頼性のある市場クレーム発生時点での塗装条件を追跡するには、日常の丹念なデータ取りが大切です。市場へ間接供給の場合は日程等の確認が必要でしょう。クレーム処理は市場全体の状況(他所でも同様なクレームがあるか)、クレーム発生個所の実用条件等、十分に確認と原因追及を行い、以降は塗装部門以外も含めた全社的視点から判断した再発防止策を実行することになります。

2 前処理剤(脱脂剤、化成処理剤等)と塗料の出荷検査表等は各々のメーカーが提出していると思いますが、これは前項のためにも保管、管理すべき資料でしょう。勿論内容の確認はその都度行うべきでしょう。加工済み被塗物素材の検査は一つ一つ丁寧に出来るとは思えませんが、塗装に支障の出る可能性の有無は、技術的に判断ができる部門(品証部門、生産技術部門等が適切)の人が判断すべきでしょう。

※防錆油、加工油の脱脂性、油焼けやスパッタ飛沫の有無、合わせ目中の油や水分の有無の判断

C-前処理剤と塗料の選択について

1 前処理剤の選択は主として使用素材(鉄材、アルミ材等)対応により決めます。詳細は、「その1~素材と前処理の選択~」に記載しました。塗料の選択は主に溶剤型焼付け乾燥塗料、水系焼付け乾燥塗料、粉体熱硬化型塗料、カチオン型電着塗料等の中から塗料メーカーと相談の上で選ばれます。新しい工場に新設備を導入する場合は、被塗物に対し最も効率的(コスト、品質、環境対応、最少受注量等に対し)な塗装法を選択できますが、既存の設備に対応する場合は、今まで使用してきた塗料より少しでも効率向上した塗料選択をすることが望まれます。

2 粉体塗装の回収装置使用の場合や電着塗装の設備一式の塗料替えは大仕事になります。設備内容にもよりますが、塗料変更には設備清掃等に多大の時間と人手を要しますので、計画を綿密に立てることが大切です。特に新・旧塗料の混入は絶対許されません。

3 新たに選択する塗料は塗膜性能試験を確実に(出来る限り自分で、従来品と比較しながら)行い、作業性テストは塗料メーカー等のテストブースを使用して、自社の塗装要員と共に実験すべきと思います。ワキの限界、スケの度合い、再塗装性=サンディングの必要度、耐コンタミ性等が大切で、現場感覚に熟練している人が適任です。

4 化成処理剤、塗料の防錆顔料、増量剤中の有害物質は、従来の薬品、塗料メーカーではない企業からも売り込みが多くなっていますので特に注意が必要です。

D-QC工程表と作業標準の確立

1 塗装工程全体のプロセスを図表にし、プロセスの各段階でその担当者が管理する項目、諸条件、時間等をまとめた一覧がQC工程表です。また、各段階での作業内容を正しく理解して作業しなければ塗装品質は確保出来ません。作業者の動作、機械や治工具の取り扱い、前後工程への遅滞のない連絡等が記載された書類が作業標準書です。

2 QC工程表と作業標準は塗装担当者が作成すべきものです。社内外の関係者と相談はしても、実際に作業する塗装工程の人達や社内で塗装に責任がある人達が納得し実行しなければならないからです。(承認業務は別です)

3 QC工程表と作業標準は塗装工程中の仕掛品管理についても、抜けのないように注意が必要です。

4 被塗物の塗装前での加工完了品に関する、管理体制、責任範囲等は塗装職場とは異なる職場になる可能性が多いと思われます。いずれにしても、チェックの抜けがないように注意が必要です。

5 QC工程表と作業標準は紙の書類に止まる時代ではなくなっていると思います。写真、動画等を駆使して、分かりやすく表現することも大切です。

E-測定機器、治工具の保守管理

1 塗装現場で是非必要と思える測定器(筆者の判断として記述します)

・前処理液温測定用の温度計:設備についている場合が多い。

・前処理最終水洗水測定用の水質計:イオン交換水製造装置に付いているでしょう。

・水切り炉、焼付け炉用の温度計:設備についている場合が多い。ただし、被塗物表面の温度測定は熱電対等により別途確認しておく必要があります。その機器等は設備メーカーや塗料メーカー等と相談して下さい。設備に付いている設定値と被塗物表面の温度との差を確認した上で実作業に活かすことが大切です。

・塗膜測定用の膜厚計

・塗膜の付着性確認(碁盤目テスト等)用のカッターのセロテープ

  ・不良品再生時に使用する、塗膜剥離用サンダーとサンドペーパー等

  ・ハンガーに付着した塗膜の剥離用機器一式

※その他、多種の機器や治工具は、各社の都合により有料依頼、サービス依頼が考えられると思います。 

2 照明器具、冷暖房設備、コンプレッサー用機器、集塵機、排風機器、前処理用シャワーノズル、ポンプ類等々各種有りますが、機器類の予知保全と保守・修理実績の記録を忘れないことが大切です。

3 機器類により法律上確認や整備が必要なものがありますのでご注意下さい。

F-その他の活動

1 被塗物設計者は必ずしも塗装技術を熟知している人ではありません。ゆえに塗装部品であることは分かっていても塗装し難い設計もします。是非、設計者と仲良くなって、塗装側の意見を聴いてくれるように、又は相談してくれるようになりましょう。塗装不良を減らす特効薬になった筆者の経験もあります。

2 1項の継続として被塗物の材料(素材)変更や形状変更がVEにも繋がります。

3 筆者の経験から言える大切なことはやはり「改革・改善の基=始まりは5Sです。


ここまで「塗装工場管理のポイント」について述べてきましたが、筆者の経験上、従来の文献、塗装関連企業からの資料等にあまり記述されてなく、且つ大切と思われる事を言わせて頂きました。ただし、記述中でも更に言い足したくなることもありました。でも、余りに文章だけ長くなっては逆効果になるとも思い、足らない部分や触れるべき事柄に気が付いた読者の方々からのご意見を聴きながら、より良い方向を見出した方が効果的とも思いました。奮って、ご意見、ご質問を頂けたらと、勝手ながらお願い申し上げます。