皆さん、こんにちは。「技術を旅する」今回も腐食(錆)の話、「鉄鋼材の錆び」について塗装実務に絡んだ話をします。

SPCC材(冷間圧延鋼板)の特徴と錆対策について

SPCC材は板金やプレス品などに利用され、加工後にめっきや塗装など表面処理を行うことを前提とした鋼材です。通常、鉄鋼メーカーでは、防錆油を塗付して出荷しています。防錆の原理は油により鉄表面と空気及び湿気を遮断することで、錆の発生を抑制しています。

しかし、我々が扱う塗装工程の前には、少なからず板金やプレス、場合によっては熱処理工程があります。そのため、SPCC材で加工した部品は、部分的に油が取れてしまうこともあり、扱いに気を付けないと塗装前に錆びが発生してしまいます。

それでは我々塗装業者が扱うSPCCの部品で塗装前に錆に気を付けるべき点はどこでしょう?

塗装前に錆に気を付けるポイント

① シャーリングやプレス、レーザーなどせん断加工した切り口。
② タレパンなどの自動機で、ローラーや吸盤が触れた部分。
③ 溶接の熱影響部。
④ サンダーで研磨した部分。
⑤ 熱処理したもの。
⑥ 人の手が触った部分。手袋をしていても、手袋の素材によって油は拭き取られてしまう。
⑦ 梱包の際に、紙に包んだ部分。新聞は湿気を吸着する効果もあるものの、逆に湿気が移る場合もある。
⑧ 鉄粉、砂やホコリなど、付着した部分。細かいゴミ・ブツに湿気が吸着し、孔食やすきま腐食の原因となる。
⑨ 室温と外気の寒暖差による結露。

特に結露は、夏に冷房の効いた作業場で部品も冷えてしまうと、室外に出したときに、氷水のコップが汗をかくように、部品も濡れてしまいます。これは、他の要因と絡んで錆の大きな原因となります。

原因が分かれば対策もしやすくなります。対策は、油を新たに塗付する、防錆紙やラップで包む、乾燥剤を使用するなど、湿気のある環境から遮断することです。これには、加工屋さんの協力も不可欠です。

しかし、何と言っても、早めに前処理して塗ることが一番です。

ちなみにSPEC材(ボンデ鋼板)もSPCC材と扱いは同様です。違いは、表面の亜鉛が鉄より先に腐食して、鉄錆の発生を抑制してくれる防錆効果があることです。

その点でSPEC材は塗装屋にとってはありがたい材料と言えます。しかし、加工側の視点では溶接性が低下する、バレル研磨に不向きなど加工上の制約もあり、製品の工程によってSPCC材と使い分けられます。

「技術を旅する」次は「水素脆性」についてお話します。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。