こんにちは。「技術を旅する」前回に続き、腐食(錆)の話です。

「もらい錆」とは?筆者が「もらい錆」を初めて聞いたのは、入社したばかりの頃、「もらい錆でステンレスが錆びた」という客先の技術担当者からでした。その時はあまり気にも留めず、鉄の錆が付着してステンレスも錆びたと認識していました。

今でも、インターネットで検索してみても、「濡れたところに鉄のヘアピンやカミソリの刃を置いておくと、もらい錆で錆が移る」という類の記述を多くみかけます。

ところが、さらに調べてみると、もらい錆をもらう側は金属だけではありません。例えば、浴槽メーカーの解説では、樹脂の浴槽や洗面台でも濡れたヘアピンの錆が付いて、これを「もらい錆」と呼んで、落とし方を説明しているものもあります。そのとき、「あれ?今までの認識と違う?」そう感じました。

そこで、改めて錆と防食の専門書を何冊か調べたところ、なんと専門用語としての「もらい錆」は索引にほとんど登場しません。「もらい錆」は明確な定義がないのです。では、どう理解したらよいのでしょう?

「もらい錆」は、素材を問わず、錆が付着した側に影響する現象。ただし、明確な定義はなく、材質や環境の組み合わせにより、腐食のメカニズムが異なる腐食現象なのです。

その中でも多く関連するのが「異種金属間接触腐食」と「すきま腐食」です。「異種金属間接触腐食」は、「電蝕」といった方が分かりやすいかもしれません。冒頭の事例は、この腐食でした。原理は下図のような電池現象です。電流が流れると同時に電位の低い金属が腐食します。

「すきま腐食」は素材の重なりや隅などの隙間に、水分があると溶液の濃淡や空気の通気差などにより、局部的に電池現象が発生し、その結果腐食する局部腐食の1つです。

市場に出た塗装製品で部分的に錆びてくるのは、ピンホール・内部応力による塗膜割れ、塗装する前に付着した異物の影響による塗膜破壊など、小さな塗膜欠陥が隙間腐食により、促進し目に見えてきます。

技術を旅する次回は、腐食「塗装後の腐食」について説明します。

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小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。