本紙が今年5月に催行した「米国・塗料ビジネス視察ツアー」レポートの2回目。ツアー初日のメインとなったモデルホームの視察と、2日目に行った「National Hardware Show(ナショナルハードウエアショー)」の模様をレポートする。モデルホームで見たインテリア空間は、塗装壁の魅力を我々に再認識させた。

現地時間の5月9日午後、初日の視察先として「ASHMORE(アシュモア)」という住宅団地の中にあるモデルホーム(戸建住宅)の見学に向かった。デベロッパー兼ビルダーのLENNER社が開発した住宅団地で、カジノホテルが立ち並ぶラスベガスの中心部から南西へ5kmほどの場所に位置している。

フェンスとゲートに囲われた敷地に150棟ほどの戸建住宅が立ち並ぶコミュニティで、分譲後まだ間がないらしくそのうちの数棟をモデルホームとして解放している。

価格帯は3,000万円台後半から4,000万円台前半で「中流家庭向け」の住宅がメインとのこと。家のタイプは木造(ツーバイフォー)2階建てで床面積は250㎡から320㎡ほど。同じ所得層向けでは、日本の住宅の3倍の広さだ。

外装はどの住宅も吹付スタッコ仕様。前号でも触れたように、ベージュ色をベースにそれよりも濃い目のブラウン系の色やオリーブなど茶系の濃淡の配色でまとめている。玄関まわりの壁やファサードには石張りでアクセント。コミュニティ内のすべての家が同じ色域の配色で仕上げられており、アースカラーでまとまった街並み、家並みが植栽のグリーンとマッチしていて美しい。

とことんペイント仕上げ

一方、ツアーメンバーが「見応えがあった」とコメントしていたのはやはり内装空間だ。天井、壁ともオール塗装仕上げ。リビングやファミリールーム、寝室、子供部屋、ゲストルームなど全体的にはペールトーンのベージュをベースカラーとし、それぞれの部屋の1面の壁をインディゴブルーやターコイズ、ブルーグレーなどの色でアクセントウォールに仕立てている。

マットな仕上げが間接照明の光を優しく反射、家具や調度品を引き立てる色や質感の演出性は塗装壁ならではのもの。ビニールクロスでは太刀打ちできない上質な空間が広がっている。「やっぱり塗装の壁はいい」と再認識させてくれた。

空間全体に優しい雰囲気が漂っているのは、壁の出隅(でずみ)の処理方法にも関係があるようだ。【写真A】のように出隅はアールに処理されておりソフトな印象を与える。アールのコーナー材を使用するドライウォール工法独特の雰囲気だ。

またツアーメンバーの間で疑問に残ったのが【写真B】のような独特の塗装パターン。当初、このようなパターンの下地クロスを張ってから塗装したものと思っていたが、クロスのジョイントが見当たらないこと、出隅・入隅のコーナー部ではこのパターンが消えていることから、特殊なパターンローラーで塗ったのかなどマニアックな意見が飛び交っていた。

ペイントの上質な空間をキープ

いろんな所を覗いていると、ガレージに「シャーウィン・ウイリアムズ」の塗料缶を発見した(写真)。前号でも触れたように、住宅団地ごとに特定の塗料メーカーの製品を使用しており、ASHMOREの家々の内装はシャーウィン・ウイリアムズ仕様になっているというわけだ。タッチアップやメンテナンス用に置かれていた残ペンと思われる。

塗り替えに際して、外装は塗料メーカーと使える色域が決められていると前号で触れたが、街並みの景観に影響しない内装まで縛られることはない。各々好きなブランドや色で塗り替えることができる。

「例えば、子供部屋、リビング、寝室などというように1年に1回くらいの割合でどこかしら塗り替えています」(ツアーガイドのCHIEさん)というように、一般的な家庭の多くで室内壁のDIYペインティングが普通に行われている。家が大きい分収納も広いので、日本のように壁際に箪笥や棚などの大きな家具を置く必要がない。このため少しの物の移動で作業に取り掛かれ、家具の移動、養生といった煩わしさがない。

そうしたお手軽感に加え、ペイントによる上質なインテリア空間に慣れ親しんでいるからその上質感を保とうとする気持ちが働く。快適な空間で過ごしたいというシンプルな欲求を満たすアイテムとしてペイントがある。

ペイントショーより面白い「NHS」

視察ツアーの2日目はラスベガスコンベンションセンターで開催されている「National Hardware Show(NHS)」を終日視察した。NHSは毎年この会場で開かれており、NHSの視察を基点にツアーを構成したことから訪問都市もラスベガスになった。

Hardwareは直訳すれば"金物類"の意味だが、イメージとしてはホームセンターに置かれている全アイテムと思えばいい(日本のホームセンターのように日用品や最寄品はない)。

建築やリフォーム、ハウスメンテナンスなどの道具、工具、部材、金物などからガーデニング、BBQなどのアウトドア用品、農場や牧場で使用する道具・機械など多種多様な製商品のサプライヤーが出展、1万3,000小間を数える巨大な展示会だ。

来場者の客層としてはホームセンターのバイヤーの他、建築やホームメンテナンス関係の業者、ガーデニング、農家などさまざま。

出展者のうちペイント及び用具・副資材だけで200小間以上のブースが展開されている。大企業のPPGのように大きな小間で出展している企業からローカルのペイントメーカーまで多彩な顔ぶれ。日本では聞いたこともないメーカーが多数出展していた。

アメリカでも「ペイントショー」が開かれているが、塗料の原材料や製造設備など塗料メーカー向けの同展示会に比べて、塗料販売店や塗装ユーザーにとってはNHSの方が断然面白い。ペイントB to Cビジネスのニュアンスを汲み取るといった意味でも、NHSを今回のツアーの基点に据えた。

男性は壁、女性はキッチンをDIY塗装

塗料メーカーの有名どころでは前述のPPGの他、日本でも流通しているBenjamin Moore、絵具でお馴染みのGoldenなどの顔ぶれがあった。

アメリカでは室内の壁のDIY塗装が盛んなことは度々触れてきたが、それと同じようにキッチンキャビネットや家具のDIY塗装も頻繁に行われているという。「ホームセンターで、ご主人が壁用の色を選び、奥さんがキッチンを塗り替える色を選んでいる光景が頻繁に見られますよ」(出展ブースの女性スタッフ)というように、壁にしても、キッチンや家具にしても「塗り替えてリフレッシュする」スタイルが広く根付いている。ペイントが人々の暮らしに溶け込んでいる様子がよく分かる。

BEYONDというDIYペイントのメーカーはキッチントップに強密着する水性塗料を、またDECO ARTという、同じくDIYペイントメーカーはキッチン扉用の水性塗料をメインに出展していた。マットな色からパール、メタリックなど多彩な色を展開。また、塗装直後に塗膜フィルムの断片をふりかけて多彩模様を演出するフレーク状のオプション品など、ユニークな商材があった。

これらDIYペイントのメーカーが共通して強調していたのは「サンダーレス、プライマーレスと1回塗り仕上げ(隠ぺい性)」。いかに手間をかけずに簡単に美しく仕上がるかといった製品特性がアピールポイント。DIYer(=素人)を対象にしたペイントでは、「簡単で失敗せず、美しく仕上がる」ことが一番のニーズだという。ペイントを使う機会が頻繁だからこそ、要求がそこに収斂していくとも言える。製品開発の側面からもペイントが人々の暮らしに浸透していることを確認できるシーンであった。

朝9時半ごろに会場に入り、帰途についたのは夕方5時前。ツアーのメンバーはそれぞれ、自分の仕事に関連のありそうなブースを見て回り、サンプルや試売品を購入するなど視察時間をフルに活用、目新しい情報に触れていた。

次回は現地のペイントショップ(塗料ディーラー)の訪問レポート。